見落としがちなインバウンドPR、どう考える? by FOODEDITOR
日本の円安と世界的なコロナの終焉傾向の中で、昨年末から、インバウンド需要の回復が顕著で、街を歩いていても外国人の観光客を随分多くみられるようになりました。飲食店でも外国人のお客様を多く迎えているお店も増えているのではないでしょうか?
言葉の壁で接客に自信がなかったとしても国内のお客様と同じように、外国のお客様も快く迎える時代だと思います。それができるかどうかで、集客の幅も変わります。進行は、飲食店の経営も手がける、編集責任者の川瀬亮太(ルーテージ株式会社)。
FOODEDITOR YUU(以下Y):しばらく続いたコロナ禍で、ここ数年、すっかりインバウンド客に対してのケアが抜け落していたのでは?と思います。私たちがいろんな方にお伝えしていたのは、インバウンドPRは、海外から旅行者が来日しはじめてから行うのではなく、コロナ禍でも日本に在住している海外国籍の居住者に向けても行うべきということでした。意外と見落としがちだけれど、日本人を配偶者に持つ外国人だったり、外交官や駐在員、ジャーナリストと、コロナ禍でも実は、日本に住んでいる外国人の方は多いのです。
FOODEDITOR TOMOMI(以下T):私たちが知っている外国籍の方は、本当に日本が大好きな方ばかりですよね。メディアイベントをやっても、その内容が魅力的なコンテンツであれば、コロナ禍であろうと、割と苦労せずに外国人ジャーナリストやインフルエンサーを集客できたことからも、みなさんの日本文化への関心の高さが伺えます。
川瀬:そうですね。日本に住んでいる外国の方が楽しんでいるお店は、外国から旅できた方も足を運びやすいのは絶対にありますよね。
Y:今は、スマートフォンさえあれば、Googleでも瞬時に日本語のメニューを転写して翻訳できたり、お店側もポケトークを上手に使ってコミュニケーションをとっている居酒屋なんかも増えていて、それはそれで相互の会話の歩み寄りがあって、いいなと思います。語学ができなくても、案外、在住組の外国人は日本語を話せたりもしますから、この機会に是非、外国人アレルギーを無くして欲しい。
T:そうそう。外国人旅行客もカタコトでも日本語を話したい人はたくさんいます。私たちだって、外国に行ったら、カタコトで、その国の言葉を話してみたくなるのと同じ。お店側が絶対英語を話せないと、と思う必要はないと思います。重要なのは、おもてなしの心。メニューだって、全部英訳しなくてもいいと思うんです。私の知り合いのお店では、シンプルに名物メニューのみを英訳して写真付きでおすすめしていますし、時にはSNSを見せながら、これをオーダーしたいというコミュニケーションもあるそうですし。
川瀬:そうですよね。ウェルカム感をどう出すのかってなかなか難しいんですよね。苦手意識があると外国人にも伝わってしまいますね。
Y:以前一緒にやったプロジェクトで、場所柄、外国人のお客様を呼びたいということで、在日外国人の方をおよびしてレセプションをしたりしました。コロナ禍だったにも関わらず、いろんな国籍の人が集まってくれて楽しかったです。でも、外国人の方から見るとまだまだ受け入れ態勢ができていないお店も多くてちょっと残念に思いました。
T:そうですね。例えば、フロアガイドや、支払い方法、メニューなど。積極的に外国人の方に来て欲しいと思う店舗や商業施設なら、やはり外に出ている文字情報は、最低でも英語の準備があると親切です。SNSやグルメサイトにも英語表記があるだけで、外国の方は安心しますよね。
川瀬:オリンピック前はかなり気運が高まっていましたけどね。コロナ禍で一度リセットされてしまった感じがありますね。
Y:アメリカ女性の友人に「外国人のお客様に是非来て欲しい、といろんなところで言われるけれど、結局のところ、親切ではないところもあって、がっかりすることがよくあります。コンシェルジュでも英語がわからないとか、何となく外国人だと、聞かれるのが怖くて目を合わせないとか。おもてなしを誇る国なのに、残念」と。その時は、耳が痛い思いでした。それがオリンピック最中だったので、余計、なんだかな…と思ってしまった。
T:別に外国人のお客様に迎合する必要はないけれど、今は円安もあいまって、日本に観光に来たい人たちが世界中に沢山いて、私たちの周りだけでも、今年は本当にいろんな海外に住む友人や知人の紹介で日本のお店を紹介することが多くなっています。当然その人たちは、前調べをしてくるでしょうし、良い思い出を持ち帰ってくれれば、噂もたててくれる。日本の魅力を世界に発信できるとても良い機会だと思います。
川瀬:観光地は意外と皆さん外国の方と積極的に話されているんですよね。浅草とか京都とか。
Y:今も昔もあまり変わらないのは、日本人が良いとする、日本の魅力が外に出ていない。私たちの業界でいえば、是非行って欲しいレストランや体験して欲しい食体験の情報はまだまだ少ないです。だから、ある意味、情報を出したところ勝ち。
T:秘境にある温泉や、人里離れた夫婦で営んでいるペンションなんかが、外国人のゲストが後を絶たないというところがあります。それは、噂が噂を呼んでということもあるし、HPやSNSで外国人の方が受け入れられていることが発信されているのをみて訪れているんです。外国の方に対してウェルカム感があると、嬉しいですよね。SNSで、いろんな国籍の人が訪れていて楽しそうな写真なんかがアップされているとわかりやすい。更にアレルギーやハラール認証の表示がしっかりしていたりすると、遠くからでも安心感を与えられるのだと思います。
Y:そういうことも大事ですね。日本は、他民族国家ではないから、その点はあまり意識がないかもしれないけれど、人によって宗教上食べられないものもあるし、動物愛護や環境保全の観点から食べられないものをきちんと意思表示する人たちも多いです。そうした思想感に沿うのはハードルが高かったとしても、普通にアレルギーの人は、世界的に多いし、せめてアレルギー表示がピクトグラムでわかるようになっていると親切ですね。
T:あと、ベジタリアンも世界的に増えてます。ストイックなヴィーガンから、時々ベジタリアンというゆるいフレキシタリアンまで。日本は、まだまだベジタリアンがいけるお店が少ないと言われています。
Y:ホテルでさえも、アレルギーやベジタリアン対応ができないところも多い。アレルギーの人もそうでない人も、ベジタリアンの人もそうでない人も同じテーブルを囲んで一緒に食事をできる店は、海外ではたくさんあります。日本もそんな風になるといいなと思います。
T:多様性という言葉がようやく日本にも浸透しはじめているのに、やはりまだまだ日本は閉鎖的なんですよね。
そんななか、渋谷の「開花屋」という伝説のお店をご紹介したいと思います。ここは、1985年から続く新鮮な魚料理をウリにした、いわゆる普通の魚居酒屋のお店です。ところが、だんだんと外国のお客様の人気を獲得し、コロナ前に訪問した際には、7割ほど外国のお客様だったことに驚いた記憶があります。若いスタッフが元気に英語で接客しているので、オーナーに「すごいですね。みんな英語で接客して」と聞いたところ、「みんなまったく話せないときからバイトをスタートしているんだよ」とのこと。お店の方針が、“話せなくても笑顔で接客すること”だそうで、直接接客しながら「今日のおすすめをどう伝えようか」「この会話は前にあった」など、まさに現場で成長していくスタイルを確立していました。
川瀬:理想ですよね。接客英語フレーズって実はそんなに何個もないので、最低限知っておけば臆せず接客できるし、一回できると楽しくなって「もっと学びたい!」となるのかもしれませんね。
Y:このままでは、アジア諸国からも遅れをとってしまいます。おもてなしの最前線にいる飲食店の印象は、日本の印象に直結すると思うんで。携帯の翻訳を駆使して会話してもいいですし、とにかく笑顔でその場を楽しむ接客をしてほしいですね。
T:旅をするときには、食べられる回数が限られています。そのため、自分自身もそこのレストランで受けた印象が「〇〇は人がやさしい」となりますから。いまは、SNSの発達で、世界で知られている「天ぷら」「うどん」「寿司」「すき焼き」以外にもたくさんの情報を知りたがっています。ぜひ、現場からどんどん日本の食文化をPRしてほしいですね。
2023年、覚悟をもってインバウンド対策に目を向けてみてはいかがでしょう。
FOODEDITORとは
どんな時にも変わらない視点は、「おいしい体験を楽しく伝えたい」「魅力あるものをより広く伝えたい」ということ。 印刷物やウェブの編集、イベント企画、フードPRやブランディング…etc. 様々な企画/編集した経験を独自の媒体(イベントやWeb)を通して、 より自由に楽しく発信していく、フードプランニングユニットです。
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