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1社の業態メインで展開していた「かんなん丸」が業態の多様化で再生を進める

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第七十弾

 
さいたま市に本拠を置く外食企業に株式会社かんなん丸(代表/野々村孝志)がある。筆者はいま同社の動向を応援するスタンスで見守っている。それは、同社がいま企業再生に取り組んで、成果を挙げてきているという点に注目している。
 
同社は、いまから40年以上前にさかのぼる「大衆居酒屋ブーム」の中で立ち上がった会社である。創業者の佐藤榮治氏は繁盛飲食店の経営者であったが、1980年38歳のときに、繁盛の勢いを増していた株式会社大庄に入社。その2年後に独立をしてかんなん丸を設立。大庄のFCジーとして事業を拡大した。ピーク時は北関東エリアに100店舗を超える陣容を誇っていたが、急速出店だったために業績は低迷する。そこで企業再生を要請されたのがサントリー出身の野々村氏(67歳)である。
 
野々村氏は、創業者の佐藤氏からの信頼が厚く、2022年に㈱かんなん丸に入社し、同年9月に代表取締役社長に就任した。この野々村氏の指揮の下で企業再生が進められている。野々村氏に取材をして、以下の記事をまとめた。
 

オリジナルの「大衆居酒屋」業態を開発

筆者が、かんなん丸の企業再生が力強く進んでいることを察知したのは、JR武蔵浦和駅近くの「大衆すし酒場 じんべえ太郎」(以下、じんべえ太郎)の活気ある繁盛風景を見てからだ。かつては大庄のブランド「日本海庄や」として営業していたが、いつの間にか「じんべえ太郎」となっていて、従業員もお客も年齢層が若くなっていた。かつては50代60代であったが、いまでは20代から40代が中心となっている。
 
かつて「日本海庄や」(120坪)として営業していた武蔵浦和1階路面の物件を3分割して、「じんべえ太郎」を出店。【かつて「日本海庄や」(120坪)として営業していた武蔵浦和1階路面の物件を3分割して、「じんべえ太郎」を出店。】
 
「じんべえ太郎」は、「ザ・大衆酒場」といったイメージの居酒屋で「こぼれ寿司」ふつう盛1088円、「魚だし肉豆腐」483円、「くじら刺し」659円、「酒場の玉子焼」362円を「名物」としてうたっている。客単価は2800円。
 
じんべえ太郎」のメニューのボリュームは少人数のお客を想定している。写真上から下に「くじら刺し」659円、「魚だし肉豆腐」483円、「こぼれ寿司」ハーフ盛604円。【「じんべえ太郎」のメニューのボリュームは少人数のお客を想定している。写真上から下に「くじら刺し」659円、「魚だし肉豆腐」483円、「こぼれ寿司」ハーフ盛604円。】
 
 
1号店はJR北浦和駅の西口すぐのロータリーに面した立地。ここはビル1棟で「庄や」を営業していたが、2018年にこの1~2階を「じんべえ太郎」に業態転換した。
 
2号店は、若葉店(埼玉県坂戸市)。これ以降は、川間店(千葉県野田市)、白岡駅店(埼玉県白岡市)、東松山店(埼玉県東松山市)と続いていった。野々村氏によると「この川間店から、当社の中に『かんなん丸を再生させる業態だ』という意識が高まってきて、この業態を本格的にブラッシュアップしていこうというムードになっていった」という
 
2024年7月にオープンした三郷中央店(埼玉県三郷市)が完成形で、「じんべえ太郎」は現在10店舗になっている。これらは、旧店舗である大庄のブランドからの業態転換でオープンしている。
 
「じんべえ太郎」三郷中央店の店頭。「大衆居酒屋」のメニューの名前をずらりと並べて親しみやすさを訴求。【「じんべえ太郎」三郷中央店の店頭。「大衆居酒屋」のメニューの名前をずらりと並べて親しみやすさを訴求。】
 
「じんべえ太郎」三郷中央店の店内。入ってすぐのところにカウンター席とオープンキッチンを設けている。【「じんべえ太郎」三郷中央店の店内。入ってすぐのところにカウンター席とオープンキッチンを設けている。】
 

これらの試みは、「お金を掛けられない」という絶対的な条件があったという。業態転換はコロナの最中に勧められたが、この間にお客は一人客や、気心の知れた2~3人での利用が定着するようになり、少人数での利用で楽しむことができるメニューを考案していった。「それが、コロナがあけてからの『じんべえ太郎』の勢いにつながっているのではないか」(野々村氏)という。
 

コロナ期間の営業で少人数客のニーズをつかむ

大衆居酒屋ブームは1970年代、80年代に巻き起こったが、「庄や」をはじめとした大庄の業態は、「魚が旨い」を前面に、板前がつくる料理を提供する大衆割烹として、ほかのチェーンとは明確に差別化していた。
 
かんなん丸の場合、埼玉や北関東のローカルで展開して「地元意識」によってお客に喜ばれた。「喜ばれるから出店をする」という形で100店舗の陣容となった。しかし、大衆居酒屋のトレンドは大きく変わっていった。大きな宴会ではなく、小グループやカップルを対象にした「籠り感」のある業態が人気を博すようになった。
 
一方のかんなん丸の場合、急ピッチで出店したために、人が育っていないという実態があったことは事実。店長もすぐに異動させていたので「地元意識」につながらなくなっていった。かんなん丸は大庄のFCジーということで、本部で決めたグランドメニューを提供していた。そして、社内ではメニュー開発をする機能が備わっていなかった。こんなことで地元のお客様の想いとの乖離を生じさせたようである。
 
それは、コロナになる前に、同社の店の客数が「全盛期よりも少なくなっていた」ということに現れていた。ローカル立地では、競合の店が増えることはほとんどない。にもかかわらず客数が減っていくのは、店が地元のお客のニーズに合致していなかったことがその要因ではないか。そこで同社では、「看板を変えよう」という判断に至る。
 
また、「庄や」「日本海庄や」では料理人が必要になる。同社の料理人は、現在50代が3割、60代が5割という状況で、今後、料理人を必要とする業態を継続していくと、なかなか若い料理人は集まらないのではないか、と考えた。「じんべえ太郎」のメニューは料理人がいなくても調理を組み立てることができるようになっている。
 
ただし、すべての看板を変えてしまうのではなく、既存の業態でも勝負できるところは伸ばしていき、変えた方がベストと判断したところは新しい看板に変えることにした。
 

女性専用フィットネスでシナジーを模索

さらに、イタリアンキッチン「VANSAN」(以下、バンサン)に加盟した。同社は2000年代に「牛角」で一世を風靡した西山知義氏が率いる株式会社ダイニングイノベーションのグループで、近年おもに地方都市で急成長を遂げている。この業態も料理人が不在でも運営が可能となっている。
 
かんなん丸がバンサンに加盟したのは、2021年12月に「日本海庄や」岩槻店の業態変更を行ったときが最初で、かんなん丸に新しい考え方や手法を取り入れることを目的とした。
 
「バンサン」武蔵浦和店の自動レジ。同チェーンではDXが進んでいる。【「バンサン」武蔵浦和店の自動レジ。同チェーンではDXが進んでいる。】
 
次に、宴会中心で運営していた大型店対策に取り組んだ。「じんべえ太郎」に業態転換をする前の「日本海庄や」は120坪あったが、これを一度スケルトンにして、40坪ずつ3つの区画をつくった。
 
「じんべえ太郎」は、従来の部分改装では表現できなかった「活気があってスタッフが動きやすいようなレイアウトにした。そして、武蔵浦和では高層マンションが増えており、若いファミリーが増えていることから、「35歳女性」をターゲットにしている「バンサン」に着眼した。
 
武蔵浦和の3つめの区画は、女性専用フィットネスクラブの「FÜRDI」(以下、ファディー)を出店した。「ファディー」はフロー型ビジネスの飲食とは異なり、ストック型ビジネスである。女性専用であることから、女性がメインターゲットの「バンサン」の隣にあって、「シナジーも期待できるのではないか」と考えたという。
 
「バンサン」武蔵浦和店の隣に出店した女性専用フィットネスの「ファディー」武蔵浦和店。【「バンサン」武蔵浦和店の隣に出店した女性専用フィットネスの「ファディー」武蔵浦和店。】
 
また、北浦和の「ファディー」の加盟店が2024年5月に店舗を手放すということで、本部から当社に引き継がないかと打診された。北浦和には『じんべえ太郎』の1号店と、本部の直営だが「バンサン」も存在していることから、武蔵浦和と同じパターンで、北浦和でもシナジーができるのではないか、と考えた。野々村氏はこう語る。
 
「活気が盛り上がっている『じんべえ太郎』と『バンサン』の武蔵浦和店をこれから当社の中核としていきたい。この店舗を基点に社員募集を仕掛けていって、研修店舗にしていきたい」
 
かんなん丸では、このように業態の多様性によって新しい基盤が整ってきている。この路線によって、企業再生が着実に行われているものと拝察している。同社が擁する現在の店舗は、「庄や」14店舗、「日本海庄や」2店舗、「歌うんだ村」1店舗、「じんべえ太郎」10店舗、「バンサン」4店舗、「ファディー」2店舗となっている。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
 
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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