浸水した飲食店の営業再開に気を付けるべきことは? 食中毒などのリスクと正しい掃除方法を知ろう
集中豪雨や河川の氾濫などによる水害が頻繁に起きるようになりました。もし飲食店が浸水した場合、水が引けばまた営業を再開できるかというと、そう簡単にはいきません。水害の場合、濡れるだけでなく食中毒や感染症の原因になる細菌に汚染される可能性があるのです。店舗が水害を受けた時、営業再開までにやらなければならないこととその方法、注意点をご紹介します。
◆飲食店が浸水した時の基本的な対応
まず飲食店が浸水した場合、水や土砂を取り除いてから営業再開までにやるべき基本動作は以下の通りです*1*2。
◇電気・ガス・飲料水の確保
これらがなければ営業できないというのは当然ですが、井戸水を使う場合は水質検査などで安全性を確認しましょう。
◇食品の廃棄と消毒
停電で温度が上がった冷蔵庫、冷凍庫の中や、水につかった食品を廃棄し、機材や調理器具、食器などを洗浄し消毒します。洗浄や乾燥、消毒が難しい木製の器具等は廃棄する必要があります。
消毒は普段使っている消毒剤や洗浄剤で可能ですが、特に汚れがひどい、長時間浸水しているものの場合は、次亜塩素酸ナトリウムが好ましいとされています。
浸水後の主な消毒方法
(出所:「浸水した家屋の感染症対策」厚生労働省リーフレット)
◇保健所への連絡
上記を行ったうえで、最寄りの保健所に相談しましょう。
◆浸水後の飲食店は、感染症のリスクだらけ
清掃や消毒を徹底しなければならないのには理由があります。
大雨などによる浸水は、川の水や外の土なども巻き込み、自然界に存在する病原菌を店内に運んでくるからです。マンホールからの下水の逆流も、細菌を含んだ水です。
また、湿った状態が続くことでカビも繁殖しやすくなります。
家屋や飲食店で浸水後にリスクが高まる感染症には、以下のようなものがあります。
◇レジオネラ症
河川や土など、自然界にはレジオネラ属菌が生息しています。レジオネラ属菌が人の体内に入ると、2~10日の潜伏期間を経てレジオネラ症に至ることがあります*3。症状としてはおもに、重症のレジオネラ肺炎と軽症のポンティアック熱に分かれます。
レジオネラ肺炎では全身倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などに始まり、咳や38℃以上の高熱、寒気、胸痛、呼吸困難といった症状が現れます。また、意識レベルの低下、幻覚、手足が震えるなどの中枢神経系の症状や、下痢がみられるのもレジオネラ肺炎の特徴と言われています。まれではありますが、心筋炎を起こすこともあります。
一方、ポンティアック熱では急な発熱、悪寒、筋肉痛などの症状が出ますが、これらは一過性のもので自然治癒します。
◇レプトスピラ症
次に、野生動物(ネズミなど)、家畜、ペット(イヌやネコなど)といった多くの哺乳類が持っている「レプトスピラ属菌」による感染症があります。路上にはペットの糞尿があり、家屋や店舗の浸水の際には水と一緒に入ってきます。
レプトスピラ属菌に感染した場合、5~14日の潜伏期間の後レプトスピラ症にかかることがあります。風邪や発熱といった軽症型から、重症の場合は黄疸、出血(皮下出血、鼻出血、肺出血など)、腎不全に至ることもあります*4。
◆店内清掃と「破傷風」
また、店内を清掃する時に気をつけなければならないのが破傷風です。もちろん清掃時にレジオネラ属菌やレプトスピラ属菌を吸い込んでしまう可能性もありますので、清掃の際にも注意が必要です。
清掃にあたってはゴーグル・マスクを着用し、土埃などから菌が入らないように気をつけましょう。また、作業後には石鹸を使った手洗いや、うがいなどを徹底する必要があります。
また、作業中にケガをしないように服装や手袋、靴は丈夫なものを選んでください。病原菌まみれの店内を掃除するようなものだと考えてください。なお、傷口に細菌が入り込むと破傷風になることがあります。破傷風は適切な治療を行わない場合、死亡することもある病気です*5。
◆浸水の深さだけで自己判断するのは危険
上記のような細菌の存在を考えると、床が少し濡れた程度だから水や泥を掃き出せばすぐに営業再開できるだろう、と考えてはいけません。外部から汚染水が侵入している以上、感染症対策は必須です。また、清掃にあたって水道水から異臭がする場合は、そのまま使用せずに水道局に連絡しましょう。
*1 「一般家屋や食品営業施設における浸水後の消毒の相談について」厚生労働省
*2 「浸水した家屋の感染症対策」厚生労働省リーフレット
*3 「レジオネラ症」厚生労働省
*4 「レプトスピラ症」国立保健医療科学院
*5 「浸水した家屋を清掃される方へ 感染症予防のためには清掃と乾燥が最も重要です」厚生労働省リーフレット
清水 沙矢香(しみず・さやか)
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。
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