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【保存版】食中毒の被害者への損害賠償、行政処分や罰則も 肉の生食提供についてガイドラインを知ろう

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「生肉」「レア」のメニューは人気になりやすく、またお店の仕入れの鮮度を自慢できるものでもあるでしょう。
 
一方で、生肉は強い症状を伴う食中毒の原因になりやすく、実際に食べたお客さんが死亡した例も少なくありません。過去にはチェーンで5人の死者を出した事件もあります。当然、店舗は営業停止を強いられる上、遺族への損害賠償も生じます。
 
仕入れ先から「生食用」というラベルが貼られた食材だから大丈夫、新鮮な状態で仕入れているから大丈夫、といった個人の判断は非常に危険なのです。
 
肉の生食での提供については厚生労働省がガイドラインを定めており、違反すると行政処分や罰則が科されます。
 
「知らなかった」では済まされませんので、過去の事例やガイドラインについて確認しておかなければなりません。
 


 

◆牛の生レバーはなぜ提供禁止になったのか

現在、牛のレバーは食品衛生法に基づいて生食用として販売・提供することが禁止されています。平成24年の7月から始まった制度ですが、きっかけになった食中毒事件があります。
 
前の年、平成23(2011)年4月中旬に、富山・福井などに展開する焼肉チェーン店でユッケなどを食べた181人が食中毒になり、富山県で4人、福井県で1人が亡くなったのです*1。
 
さらにユッケを食べた多くの患者から腸管出血性大腸菌「O111」が検出されました。店が肉の表面を削る「トリミング」をしていなかったことなどが明らかになっています*2。
 
その後、事態を重く見た厚生労働省は段階的に規制を設けています。平成24(2012)年7月からは牛レバーの生食用としての販売、提供を全面的に禁止しています。
 

 

◇なぜ、牛生レバーに厳しい?

厚生労働省は牛の生レバーに限った規制を設けたことについて、こう説明しています*3。
 
・牛の肝臓の内部からは腸管出血性大腸菌が検出されており、生で食べると、十分に衛生管理を行った新鮮なものであっても、食中毒が発生することがあるため
・衛生管理や免許制を設ける、検査で選別する、などのどの方法を検討しても、有効な予防対策を見つけられなかった
・現段階で、牛肝臓を安全に食べる方法は、加熱することだけ(腸管出血性大腸菌は75℃で1分以上の加熱で死滅するとされている)
 
よって、牛肝臓の生食の安全性を確保できる新たな知見が得られるまでの当面の間、牛肝臓を生食用として販売することを禁止する、というわけです。
 

◆罰則や損害賠償、逮捕事例も

実際にこのルールができてからまもなく、牛の生レバーを提供した別の焼肉店の経営者が逮捕されています*4。逮捕された経営者はメニューに「火を通して」と表示してあれば大丈夫だと思っていた、と話していますが、お客さんの判断で自己責任、という話は成り立たなかったわけです。
 
さて、牛生レバー禁止のきっかけになった焼肉チェーンには、遺族らに対して1億7000万円の賠償を命じる判決が言い渡されています*5。
 
なお、厚生労働省が定めた基準に違反した場合、食品衛生法に基づき、行政処分や罰則の対象になります。
 

◆肉の生食提供に関する3つの基準

では、厚生労働省が定める「生食用食肉」に関する3つの基準を見ていきましょう*6*7。
 
ここでいう「生食用食肉」は、「生食用として販売される牛の食肉(内蔵を除く)」を指します。おもな対象は牛ユッケ、牛タルタルステーキ、牛刺し、牛タタキなどです。
 

◇生食用食肉の「規格基準」

東京都のサイトにわかりやすくまとめられた資料があります。具体的な設備や器具、温度なども指定された加工方法などまで示されているので注意してください。
 
それだけでなく、
・生食用食肉は腸内細菌科菌群が陰性でなければならず、かつ陰性確認の検査記録は1年間保管しなければならないこと
・生食用食肉の加工・調理は、「認定生食用食肉取扱者」が行うこと
なども規定されています。
 

◇生食用食肉の「表示基準」

また、生食用食肉を提供するにあたっては、店頭などでの「表示」についても基準があります。飲食店の場合は店頭やメニューということになりますが、包装容器に入れずに提供、販売する場合は店頭やメニューなど見やすい場所に、
・一般的に食肉の生食は食中毒のリスクがあること
・子ども、高齢者などの食中毒に対する抵抗力の弱い人は食肉の生食を控えること
の2点を表示する必要がある、というものです。
 

◇生食用食肉の「施設基準」

そして、生食用生肉を扱う場所についての基準もあります。83℃以上の給湯能力が必要、といった具合に詳細がありますので、こちらもチェックしておかなければなりません。
 

◆生食用生肉を取り扱うには申請が必要

そもそも生食用生肉の調理や加工を始める場合、市区町村の保健所に届出が必要です。そのうえで保健所から交付される受理書を見やすい場所に提示しておくというのが行政のルールです。もちろん、自分の店舗で食中毒が起こること自体好ましくありませんが、料理を食べた人から訴えがあったとき、「届出なしに提供していた」となると、弁解の余地はなくなってしまいます。
 

◆牛以外の生肉なら良いの?豚は?鶏は?

では牛以外の肉を生食用に提供するぶんには問題はないのか、と思われる方も多いかと思います。牛レバーの代替品として豚レバーを刺身で提供する店舗もありますが、豚肉についても、平成27年から豚レバーについても「生食用」として提供することが禁止されています*8。豚肉の場合、内臓かどうかを問わず「加熱用」として販売・提供しなければなりません。
 

 
なお、豚肉の肉や内蔵の生食には牛肉とは少し異なり、劇消化する可能性がある「E型肝炎ウイルス(HEV)」に感染するリスクがあります。また、豚の生食によりサルモネラ属菌やカンピロバクター・ジェジュニ/コリ」などの食中毒リスクがあります*9。
 
なお、鶏に関しては現在のところ法規制はありません。しかし食中毒を引き起こす「カンピロバクター・ジェジュニ」が潜んでいる可能性がありますので、注意が必要です。
 
2024年の2月には、高知市の居酒屋で鶏生レバーなどが原因の集団食中毒が起き、保健所から営業停止処分を受けています*10。
 

◆まとめ

ここまで、生肉の取り扱いについてご紹介してきました。思いのほか厳しいルールだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、食中毒は死者を出すこともあるというのは事実であり、高い意識を持って扱わなければ取り返しのつかないことになってしまいます。
 
また、生食に適した肉かどうかは、ラベルや仕入れ先の情報を鵜呑みにしてはいけません。これから夏場にかけて、特に菌類は活発になります。各種ルールをどこまで守れているか確認しましょう。
 
飲食店開業応援マガジン[RESTA(レスタ)]編集部
 
*1、*5 「ユッケ食中毒、「焼肉酒家えびす」の運営会社が破産 被害賠償半ば」朝日新聞デジタル
*2、*4 「ユッケ集団食中毒から3年 厚労省、生肉規制拡大も検討」日本経済新聞
*3 「牛肝臓の生食(「レバ刺し」等)に関するよくある質問」厚生労働省
*6 「生食用食肉及び牛の肝臓の規格基準が設定されました」東京都
*7 「生食用食肉(牛肉)に関する施設基準について」東京都
*8、*9 「豚のお肉や内臓を生食するのは、やめましょう」厚生労働省
*10 「高知の居酒屋で13人集団食中毒 店17日から3日間営業停止」NHK
 

 

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