繁盛店への道

飲食店が陥りがちな雇用調整助成金に対する勘違い【社労士に聞く 第一弾後編】

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新型コロナウイルスの影響で苦境が続く飲食店。従業員を守る方法や飲食店が取るべき対策などについて、多くの飲食店の顧問を務めている社労士の浦辺里香さんに伺った。多くの飲食店が頼りにしている雇用調整助成金だが、思わぬ罠もあるという。また、これから開業する飲食店が気をつける点についてもお話しいただいた。
 

 

雇用調整助成金や時短協力金に頼り切ってはいけない

Q.助成金で店を維持し続けようという考えでは飲食店の経営は厳しくなるということですが、どういったことでしょうか。
 
A.そろそろ時代の流れに柔軟に沿って行かなければならないということです。
 
今回、コロナの影響で従業員を休業させているのに事業主都合なのか、という点について国は態度をはっきりさせていません。にもかかわらず、労働基準法にある「賃金は全額支払うこと(24条)」「事業者都合で休業させた場合は賃金の6割以上を支払うこと(26条)」の原則は守れと言っているわけです。
 
状況がいつ好転するかわからないまま、しかし雇用調整助成金は未来永劫続くわけではありません。ですから、日々の目先の現金にとらわれて、今までのままで助成金で食いつないでいこうとだけ考えているとリスクしかないんです。
 
柔軟な業態転換や従業員の副業を認めるといったことを考えながら、雇用調整助成金は新しい体制が整うまでのあくまで「つなぎ」と考えるべきです。通販、宅配、持ち帰りなど、自分たちが変わることが前提です。
 
Q.従業員のモチベーションが下がるということにもなりそうですが。
 
A.そうですね、でもお金をちゃんと払ってあげればまだつなぎ止めることはできるのでしょう。しかし、やはりお客さんのためにも新しいことをやるぞ、工夫してみるぞ、と経営者が旗を振っているとこには人材が定着しています。長い目で見れば大切なことではないでしょうか。
 
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雇用調整助成金申請で、実は多くの飲食店がハードルを抱えている

Q.浦辺さんのところには、雇用調整助成金の申請の依頼は多く来ていますか?
 
A.取り扱ってはきました。ただ、幸い私の事務所ではほとんどなかったのですが、そもそも助成金の申請が通らないというケースがよくあります。しかも、多くは飲食店側に理由があってのことです。
 
Q.どのような理由でしょう。
 
A.飲食店側が、そもそも労働関係の法律を守っていないという理由です。特に個人経営の飲食店に多いのですが、労働保険や雇用保険に加入していない、資格がある従業員を各種保険に加入させていない、など様々な瑕疵が飲食店側にあるんです。
 
普段は法律を守っていないのに困ったときには補助金が欲しい、というのはさすがに話になりません。でも、申請手続きの途中でそういった問題が噴出する飲食店は多いんです。
 
Q.不正受給も問題になっていますが。
 
A.そうですね。でも、多くは従業員から話が漏れます。自分たちが悪いことに加担しているのではないか?と思ってしまい、他のところで働いている人に聞いてみる、そこから話はどんどん広がっていってしまいますので。
 

これから開業する飲食店が注意すべきこととは?

Q.厳しい中でも、これから開業しようとする経営者も多くいます。アドバイスはあるでしょうか。
 
A.まずコンプライアンスは徹底して欲しいです。労務管理はどうしたらいいかわからない、その時は多少費用がかかっても専門家をつけるべきです。そこをないがしろにしていると、今回のように非常時に助けてもらえなくなります。
 
費用が、と思うかもしれませんが、私たちは経営者に対して専門知識を提供しています。それは、私たちが店に出向いてプロの料理にお金を払っているのと同じことですよね。
 
労働に関する法律を守れないのなら、人を雇ってはならないと思います。従業員は自分の一部と考えるべきです。自分が手足をケガしたときにお金を払って病院に行くのは当然のことです。それと同じように考えなければなりません。
 
飲食店の経営者に多いのは、ご自身が時間を問わず修行を重ねてこられたという人です。その感覚で、従業員にも同じように残業代に対してルーズな管理をしていると、法律はそれを許しませんので。
 
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Q.開業にはやはり、コンプライアンス重視が必要ということですね。
 
A.もちろんです。詳細まで詰めておかないと、悪評や訴訟に繋がります。とにかく労働条件について詳細な契約書を作り、お互いが守るべき確認事項を文書で残すべきです。でないと、リスクのほうが大きすぎますから。文書がないことを逆手に取られる訴訟はたくさんありますから。
 
Q.踏み込んだお話をありがとうございました。
 
A.ありがとうございました。
 

<開業のポイント> 一人でも従業員を雇う場合は、最低限以下の準備が必要。
 
①労働条件通知書:賃金や労働時間など、働く上で必要な情報を記載し労働者へ交付。雇用契約書と兼ねる場合もある。
 
②労働保険の成立:労災や通勤災害のための保険。
 
③雇用保険の事業所設定、資格取得:週20時間以上働くすべての労働者は雇用保険への加入手続きが必要(学生は除く)。
 
④社会保険の適用、資格取得:事業主が法人の場合、週30時間以上働く労働者は加入手続きが必要(適用拡大あり ※社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省))。
 
⑤36(さぶろく)協定:残業をさせる場合、その上限時間などについて労働者と合意・締結の上、労働基準監督署への届出が必要。

 
浦辺里香(うらべりか)
URABE社会保険労務士事務所代表(特定社会保険労務士)/ブラジリアン柔術紫帯/ライター
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞社を経て社労士として開業。
■4コマ漫画的ブログ https://uraberica.com/
■Twitter https://twitter.com/uraberica
 
川瀬 亮太
RESTA編集責任者/ROOTage株式会社 代表取締役
飲食店の開業サポート、自社でも飲食店を経営する

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