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社員・アルバイトを雇用したら、必ず交付しなければならない書類とは? 飲食店経営で必要な労働法

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社労士 浦辺里香が指南する「はじめての飲食店経営で必要な労働法」Vol.1

 
4月ということで、入社や異動など新たな顔ぶれによるスタートを迎えた企業が多いでしょう。いうまでもなく、新入社員にとっては「慣れない環境での第一歩」となりますが、これは経営者にとっても同じです。人が変われば会社も変わる――。起業を検討している"未来の社長"も含めて、労働者を雇う際に交付義務のある書類について確認してみましょう。
 

労働者を雇用するならば「この書類」はマスト!

飲食店のように顧客対応が必須となる接客業は、マンパワーの重要性が他業種よりも圧倒的に高いといえます。店舗の未来を左右するといっても過言ではない、労働者との信頼関係はスタートが肝心。言い方を変えると、労働力という高い買い物をするわけで、当然ながら「契約書の存在」が重要となるのです。
 
労働者を雇用するということは、労働契約を締結することを意味します。民法では「契約は口頭でも成立する」とされていますが、労働契約については労使合意の上で、書面またはメール添付等の方法で労働者へ交付する必要があります。正確には、労働(または雇用)契約書の交付ではなく、「労働条件通知書の交付」が使用者の義務となります(労働基準法第15条)。
 
労働条件通知書の内容は、労働契約を締結する際に必要な項目が網羅されているため、「労働条件通知書(兼)雇用契約書」という形で作成するといいでしょう。そして明記が必要な条件として、
 
・労働契約の期間
・就業場所
・従事する業務の内容
・始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇
・賃金の決定、計算、支払い方法および賃金の締め切り、支払い時期
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)
 
以上の項目が挙げられます。
 
「じゃあ、時給1,500円ってことで」
「シフトの空いてるところへ入ってもらうから、よろしくね」
このように、労働条件の一部を口約束で交わしてしまうことがありますが、後々、
「交通費はどうなるんですか?」
「最低でも週20時間は働きたかったのに…」
「ホール希望なのに、キッチンをやらされるなんて聞いてない!」
といった不安や不満から、会社に対する不信感が募り離職へと繋がりかねないのです。
 
会社側からすると「当たり前」だと思っていたことが、労働者にとっては「寝耳に水」という事態は往々にして起こります。これらはすべて、労働条件通知書を作成・交付していれば防げたはずの、無駄で不毛なすれ違いなのです。
 
労働力の確保が困難な今のご時世において、労働者は貴重な人材です。従業員に安心して働いてもらうためにも、そしてできるだけ長く在籍してもらうためにも、採用時に労働条件の確認と書面の交付を徹底しましょう。
 
参考:労働条件通知書の見本/厚生労働省
 

労働条件通知書作成における、ワンポイントアドバイス

それでは一歩進んで、労働条件通知書を作成する際に注意すべき点を紹介します。今さらですが、守るべきは「ウソを記載しない」ということです。当たり前すぎて拍子抜けかもしれませんが、たとえば過去にこんな経験はありませんか?
 
「たまに残業があるけど、入社を辞退されたら困るから『残業無し』と伝えよう」
「ここ数年は賞与を出してないけど、今年は出すかもしれないから『賞与有り』と言っておこう」
 
人材確保の観点から、見栄えのいい労働条件を提示したくなる気持ちは分かります。そして、実際のところ残業はゼロで、久しぶりに賞与が支給されるなど、希望的観測が現実となる可能性もあるでしょう。しかし、これはNGです。もしも「残業無し」「賞与有り」と記載したならば、それに従う必要があるので、これらを根拠に労働者とトラブルになった場合は会社側に責任が発生します。
 
ではどうすればいいのでしょうか?
 
正解は一つではありませんが、個人的には「実情に沿った正確な労働条件を記載した上で、会社側の考えや思いを補足的に伝える」という方法を推奨します。
 
たとえば、残業時間の目途が立っているならば「残業有り/月10時間程度」、賞与に関しては「賞与無し/ただし業績によっては支給を検討する」というように、具体的かつ過度な期待をさせない書き方で伝えることです。これならば、単に「残業有り」「賞与無し」と記載するよりも、齟齬や勘違いを最低限に抑えることができるからです。
 
くり返しになりますが、労働契約はスタートが肝心です。そのためにも、労働条件の正確な記載と面接における対話が、重要な意味を持ちます。貴重な人材をもれなく確保するためにも、書面と対話とのダブルチェックで向き合い、より良好な労使関係を築き上げましょう。

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文:浦辺里香 特定社会保険労務士、ライター。飲食店などの接客・サービス業を中心に顧問を務める。趣味はブラジリアン柔術(茶帯)、クレー射撃スキート(元日本代表)。
 

 

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