経営改善にもつながる飲食店のフードロス防止 具体的な方法を紹介
国連が採択したSDGs(=持続可能な開発目標)では、世界のさまざまな問題を解決するための17のゴールが設定されている。そのうちのひとつが12番目の「つくる責任 つかう責任」であり、飲食店も食品ロスを防ぐことが求められる。また、食料品の値上げが続く中、フードロス削減は経営の改善にもつながる。では、どのような対策方法があるのか、いくつかご紹介したい。
フードロスの現状
農林水産省によると、日本のフードロスは年間約523万トン(令和3年度)で、そのうち飲食店など「事業系」が約279万トン(可食部)と、半分以上を占めている。その中でも飲食店での発生は80万トンにのぼっており、その割合は大きい。
(出所:農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢<令和5年11月時点版>」)
SDGsでは「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」ことが国際的共通目標として示されている。しかしそのような大きな枠組みの話だけでなく、フードロスは他にも問題を抱えている。
フードロスは「もったいない」だけではない
まず、廃棄にかかる費用である。水分を多く含む食品の場合は重くなり、かつ燃えにくくなるため、ごみ処理の経費が高くなってしまう。令和3年度では、市町村でのごみ処理経費は2兆1450億円*1。国民1人あたり年間に1万7000円を負担している計算だ。
同時に、経営に直結する問題でもある。日本は食糧自給率がカロリーベースで38%しかない*2。食料品の多くを輸入に頼っているため、値段が海外の事情や為替に左右されやすい。実際、今がそうであるように食料品の値上げが続くと、経営に大きな影響を与えてしまう。
*1,2:農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢<令和5年11月時点版>」
フードロスの発生原因と対策
フードロスが生まれる主な理由は食べ残し、過剰な仕入れである。また、過度な「鮮度」への意識もあるだろう。しかし、こうしたフードロスをうまく防止している事例はいくつもある。農林水産省の資料などから一部を紹介してみよう*3。
*3: 農林水産省「飲食店等の食品ロス削減のための好事例集」
適量注文
例えば、川越市役所本庁舎の食堂では、小・中サイズのごはんが実際にはどのくらいの量なのかを示すプレートを設置している。これにより、7か月で約34キログラムのフードロス削減を実現した。
岡山県の「cafe&bar zouse」では、事前に出す料理の量内容を伝え、食べられないものがないか確認する、などの取り組みで食品廃棄物の量を3~4分の1に減らした。
頼みたい料理があっても実際はどのくらいの量出てくるかわからない、頼んでみたら多かった、食べられないものが入っていた、という来店客の困惑を改善するのはフードロス削減に効果的な方法だ。
仕入れ量、下処理の適正化
岡山県の「旬彩 はや斗」ではロットの大きい食材の仕入れの際には、料理人仲間と食材をシェアすることで過剰な仕入れを防いでいる。
また、新潟市の株式会社クオリスでは、宴会料理の内容を検証し1人の可食量を算定して発注しているほか、生鮮食品は一時加工後に真空保管。さらに炊飯をこまめにする、宴会では閉店10分前に声かけをすることで残った料理の食べ進みに繋げるなどの取り組みで、食品廃棄物などを年間10トン削減した。
食べきりへのインセンティブ
食べきりによって来店客にインセンティブを与えることで食品ロスを防ぐという方法もある。
福井県の「風の街」では、毎月30日を食べきりの日に設定、その日食べきった来店客にプレゼントカードを渡している。
また、びっくりドンキーでは子供が残さず食べて皿をピカピカにするチャレンジに成功したら、店から表彰状をプレゼントしている。チャレンジに2回成功しスタンプをためると、次回デザートがプレゼントされるという仕組みになっている*4。
*4:株式会社アレフ「残さず食べる挑戦を応援『もぐチャレ』」
食事と食べ手をマッチングするアプリも
また、閉店時間や賞味期限などの理由で捨てざるを得なくなってしまう食事と食べる人をマッチングさせるために登場したのが「TABETE」というスマホアプリである。2018年12月時点では東京を中心に約8万人のユーザーと300店舗が利用している。
これにより、店としても「ただ捨てる」のではなく利益回収にも繋がる。廃棄予定の8~9割が原価回収できたという事例もある。また、このアプリをきっかけに店の料理を体験した顧客の再来店も期待できる。
フードバンクへの提供、持ち帰りがしやすくなる法改正も
その他の食品ロス回避方法として、フードバンクへの提供などが考えられるが、これについて現在法改正が進んでいる*5。大きく変わるのは、食中毒などの事故が起きた時、一定の条件下であれば食品を提供した事業者に対する民事上の責任を問わないという仕組みが検討されていることである。
また、食べ残しの持ち帰りについてもこれまで具体的な制度はなかったが、事故の際の責任について飲食店が責任を問われないようにするといった方向性で調整が進んでいる。フードバンクへの提供、持ち帰りについては飲食店側としては責任を考えて躊躇しがちだが、改正法が施行されれば事情は大きく変化することになる。
消費者の社会問題への意識が高まっている中で、これらの事例や法改正の動きを踏まえ、食品ロスは積極的に解消していきたい。また、食品ロス防止に取り組んでいることをわかりやすい形でアピールするだけでも、一定の効果は期待できるだろう。
*5:読売新聞「『食品ロス』削減へ、食中毒など起きても事業者は免責…フードバンクへの食料提供を後押し」
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