開業ノウハウ

飲食店独立開業者必見!創業計画書・経歴等の書き方

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第1回の総論では、総論として公庫からの借り入れについてお伝えました。
 
第2回になる本稿では、日本政策金融公庫(以下、「公庫」と略します)から開業資金を借りる際に提出が求められる『創業計画書』について、洋風居酒屋を開業する場合の記入例(*以下、「記入例」と略します)を取り上げながら、記入時の注意点・ポイントを解説していきます。
 

 

▶ 1 創業の動機

なぜ飲食店を開業したいと思ったのか、具体的なきっかけやその想いについて記載する欄です。記入例では、「自分の店が持ちたい」「ちょうど良いテナントが見つかった」「事業の見通しがたった」等、ポジティブな動機や実際に飲食店をやって行けそうな事柄が記載されています。
 
ここでの注意点は、「今の仕事が嫌だから…」「会社勤めが辛いから…」といった“後ろ向きの動機”を書かないことです。このような情熱を欠いたビジネスは、長続きする可能性が低く映るからです。どうせ記載するのであれば、「飲食店を絶対にやりたいんです!」といった情熱を伝えた方がベターです。
 

▶ 2 経営者の略歴等

この欄は、何となく自分の職歴を書き連ねるのではなく、飲食業に関連した経歴・スキルにフォーカスして記入して下さい。記入例も、学生時代からバイトしていた飲食店に勤務し続けた経緯や、居酒屋チェーンで店長まで務めた経験を有している事(店舗運営のマネジメント・スキルがある事)が読み取れる内容となっています。
 
大事なことは、公庫サイドに、「この人ならできそうだ」→「貸したお金もきちんと返済してくれそうだ」と認識してもらうことです。アピールできそうな事柄が多々あるなら、別紙で職務経歴書を添付しても良いでしょう。
 
なお、記入例には、「現在の月給30万円」「退職金70万円」等のカッコ書きがあります。これは、開業にあたり、「私はそれなりにお金を持って(貯めて)いますよ」というアピールでしょう。通常、履歴書等に給料や退職金額を記載することはありませんが、貸付金が返ってくるか否か不安な公庫(金融機関)に対しては有用な情報と言えます。
 
その他、『過去の事業経験』『取得資格』『知的財産権等』の有無に関する欄が続きますが、これらも、あなたが本当に飲食店を開業できるか否かを公庫が判断する上で必要な情報となります。「知的財産なんて私には関係無い…」と記載を省略することなく、その有無について明確に回答するようにして下さい。この手の書類を作成する際は、自分勝手に空欄をつくらないのが鉄則です。
 

▶ 3 取扱商品・サービス

この欄は、ビジネスを展開していく上で、考慮・検討することが不可欠な事柄が並んでいます。十分に考え抜いた上で記入しましょう。可能であれば他の人に見てもらい、客観的な意見をもらうと良いでしょう。
 
① 『取扱商品・サービスの内容』
記入例の洋風居酒屋では、昼と夜にわけて、提供する料理・ドリンクの概要と客単価を記載しています。その上で、売上シェアは、昼19%、夜81%(合計100%)と設定しています。昼と夜以外の切り口としては、店頭販売とデリバリーやWeb通販でわける方法もあります。別紙でメニュー表や料理の写真等も提示できると、公庫の担当者もイメージしやすいでしょう。
 
② 『セールスポイント』
ビジネスにおける“強み”を記載する欄です。ここでの“強み”とは、差別化ポイント(顧客に選ばれる理由)と理解して下さい。記入例では、「200種類のドリンク」「隠れ家的な雰囲気」「アコースティックギターの生演奏会」等を挙げています。
 
「“強み”なんて無い!」と感じる方もいるかもしれませんが、営業時間をライバル店とずらしたり、料理の提供時間を短縮する等、切り口は探せば色々あるはずです。また、料理人として、コンテスト等で入賞した実績や有名店で働いた経験等も差別化ポイントと成り得ます。出店する場所が生まれ育った地元で、知り合い(見込客)が多いというのも立派な“強み”の一つです。
 
③ 『販売ターゲット・販売戦略』
記入例では、販売ターゲット(顧客像)を「30~40代の◯◯地区周辺の会社員」としています。実は、この顧客像を具体的かつ明確に定義できないと、「どんなメニューを提供すれば喜んでもらえるか!?」「価格は幾らぐらいが妥当か!?」といった事柄(上記①)を決めることができません。順番的には3つ目の項目となっていますが、①より先に検討・記入して欲しい事柄です。
 
また、記入例には記載がありませんが、設定した顧客像に対し、「どのように知ってもらうか!?」「どうやって来店を促進するか!?」といった方法論も追加的に書き込んでいけると尚良いです。近年は「SNSで集客します!」という方が非常に多いのですが、どのプラットフォームを使って、どんな情報をどんな頻度で打ち出していくのか、公庫サイドから質問されたとしても、具体的な回答ができるようにアイディアはまとめておいて下さい。ちなみに、「どのような情報発信をするか!?」についても、顧客像が明確になっていないと決めることが困難です。ビジネスにおいて、顧客像を定義することは最も重要な事柄の一つなのです。
 
④ 『競合・市場など企業を取り巻く状況』
単純に言うと、「ライバルはいないか!?」「ニーズはあるか!?」について記載する欄です。同じようなスタイルの飲食店があると、顧客の争奪戦や価格競争に巻き込まれるおそれがあります(故に、差別化は重要)。また、どんなに自分が素晴らしいと思っている料理や店舗であっても、顧客から求められるものでなければビジネスは成立しません。
 
記入例では、「人通りは多い」「落ち着いた雰囲気の店舗は少ない」の2点が記載されています。前者は、店舗周辺にターゲット顧客(上記③)がたくさんいる事を伝えており、後者は、お店の隠れ家的な雰囲気をセールスポイント(上記②)にする事と整合性のとれた内容となっています。
 
飲食店にかかわらず、ビジネスは常に外部環境の影響を受けます。よって、経営者は、ライバルや市場の動向を常に予測し、先回りしたビジネスを展開していく必要があります。「その点について、どうお考えですか!?」と、公庫の担当者にチェックされていると思って記入して下さい。
 
 
次回、「4 取引先・取引関係等」以下を解説します。
 
◆経営コンサルタント(中小企業診断士・社会保険労務士)加藤健一郎

1975年生まれ、三重県四日市在住。大学卒業後、デパートの販売促進部に勤務。30歳で退社後、中小企業診断士・社会保険労務士の資格取得後、経営コンサルタントとしてのキャリアを積む。2012年、四日市に個人事務所 『さくら経営支援室』 を開設。中小企業の会社経営を財務・労務の両面からサポートしている。
 

 

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