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飲食店ならではの楽しみ、「まかない」を作る時間は休憩?それとも労働時間?

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社労士 浦辺里香が指南する「はじめての飲食店経営で必要な労働法」Vol.5

 
飲食店における労働時間のトラブルで、意外と多いのが「休憩時間の確保」についてです。
「ウチはちゃんと休憩を与えているよ!」そう胸を張る事業主も、休憩時間中の従業員の過ごし方を聞いているうちに、「それは残念ながら、休憩ではなく労働時間になりますね…」ということが多いのです。
 
きちんと休憩を与えているにもかかわらず、なぜ労働時間にカウントされかねないのでしょうか?今回は、想像以上に厳格である「休憩時間のあり方」について学んでいきましょう。
 

法律上の「休憩時間」とは?

労働基準法第34条第1項では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、そして労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与えなければならないと定めています*1。
 
やや話が逸れますが、同条第2項では「休憩時間は一斉に与えなければならない」とされており、原則として、労働者に対して一斉に休憩を与える必要があります。
 
しかし、接客業に就く労働者を一斉に休憩させるには、少なくともその時間帯の営業は停止しなければなりません。それでは顧客にとっても不便ですし、店側としても業務に支障が出かねないため、特定の業種に関しては一斉付与の適用除外が示されており、飲食店はこれに当てはまるのです*2。
 
そのため、店の状況を見ながら適時休憩をとるというのが、一般的なやり方といえるでしょう。では具体的に、「休憩中」とはどのような状況を指すのでしょうか。
 
「休憩時間とは、労働者が労働時間の途中において休息のために労働から完全に開放されることを保障されている時間である。*3」
 
法律ではこのように定義づけされています。つまり、休憩中ならば昼寝をしようが外出をしようが、なにをしてもOKです。ちなみに、休憩について事業主が勘違いをしているケースとして、「バックヤードでスマホをいじったり昼寝をしたりと、自由に過ごしていますよ。混雑時なんかに、電話だけは出てもらいますけどね」という話を耳にします。たかが数分の電話応対であっても、これは立派な「仕事」です。よって、休憩時間中に電話対応をさせてはいけません。
 
繰り返しになりますが、労働者にとって休憩時間というのは、あくまで「自由に利用できること」が原則です。また、他の労働者の休息を妨げてはならないという観点からも、休憩中の労働者に仕事を頼むことは違法です。言うまでもなく、「食事しながらでいいから、チラシ折っておいて!」というのもNGです。チラシを折る作業は業務に関することなので、労働時間内に指示するべき内容だからです。
 
「それじゃあ、全員が休憩に入っている間に、予約の電話が入ったらどうすればいいんですか?」
 
確かに、これは起こりうるシチュエーションです。そしてこの場合、方法は二つ考えられます。まず一つは、「留守番電話にしておく」です。休憩終了後に折り返せるよう、連絡先を録音してもらい、それに沿ってかけ直します。そしてもう一つは、「事業主の携帯電話へ転送するなど、労働者ではない人間が対応する」です。休憩時間中の労働者に電話対応をさせることがアウトなので、事業主や役員が代わりに対応することで解決できます。他にも、「予約自体を電話からネットに切り替える」「休憩時間をずらして交代制にする」といった対応策があります。いずれにせよ、無理のない方法で休憩時間を確保しましょう。
 

「まかない」を作る時間は、労働?休憩?

飲食店で働く労働者の楽しみの一つに、「まかないの提供」が挙げられます。自分が働く店の味を知り、愛着を持つことで顧客への対応もグンと変わるはず。そんな職場の楽しみである「まかない」について、調理をするのが労働者ならば、ちょっとした注意が必要です。
 
職場のルールとして、昼休憩での食事について特段の定めがない(弁当持参やコンビニでの購入、または外食するなど各自の判断で実施)ならば別ですが、求人広告で「まかない有り」と記載していたり、全員に対して「まかないの慣習」があったりする場合は、その調理時間は労働時間とみなされる可能性があります。
 
たとえば、ランチタイム終了後のアイドルタイムを休憩時間とする場合、まかないを作る人だけが休憩時間中に調理をすることもあるでしょう。そんな時は、まかないを作る行為が事業主の指示によるものか否かで、労働時間か休憩時間かに分かれます。
 
これは、使用者の義務か(採用時に「まかないの提供」について労使双方が合意している等)どうかで判断が分かれます。たとえば、労働者が勝手にキッチンや食材を使ってまかないを作るのか、それともまかないの提供がマストのため労働者が交代で作るのか、によって変わります。そして後者の場合、当然ながら義務となります。
 
以上のことからも、まかないが義務である飲食店は、
・まかないを作る時間を休憩前に確保する
・休憩時間中に調理する場合は、労働時間としてカウントする
このような配慮を心がけましょう。
 
後々、認識の違いからつまらぬトラブルに発展しないよう、まかないについての事前確認と明確な基準の設定をおすすめします。
 

休憩は「自由な時間」

他業種での話ですが、夜勤中の仮眠時間や作業の手待ち時間というのは、何もしていなくても労働時間となります。それは、仮眠中でも事態の急変に合わせて仕事に戻らなければならなかったり、指示が出たら作業に取り掛かる必要があったりと、労働者にとって自由な時間ではないからです。
 
知っているようで意外と知らない休憩時間について、正しく把握し良好な労使関係を維持しましょう。
 
*1 労働基準法第34条(休憩)
*2 休憩の一斉付与の適用除外/愛媛労働局
*3 休憩時間自由利用の原則/菅野和夫著 労働法第12版p483
 
文:浦辺里香 特定社会保険労務士、ライター。飲食店などの接客・サービス業を中心に顧問を務める。趣味はブラジリアン柔術(茶帯)、クレー射撃(スキート)。雑記ブログ「URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。」を、毎日投稿中。
 

 

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