飲食店はコスト増にどう対応すべき?大手外食チェーンで「都心型価格」の導入相次ぐ
食材、エネルギーの価格高騰は長引いており、経営努力で対処できる範囲を超えてきている。大手外食チェーンも例外ではない。昨年から今年にかけて価格改定を実施するチェーンが増えているが、中にはひとつの特徴を持った値上げを実施しているところもある。「都心型価格」を導入するという方法だ。どのようなメリット、デメリットがあるか紹介したい。
ガストでのモーニングは地域により165円の差も
昨年10月のメニューから都心型価格を導入しているのが、すかいらーくグループである。ガストやバーミヤン、ジョナサンなどで価格改定を実施しているが、例えばガストではこのような値上げ設定になっている。
まず、ガストについては地域区分を決め、全店舗を3つに分けるという初めての制度を導入している。
(出所:「10月の価格改定のお知らせ」すかいらーくホールディングス)
そして、値上げ幅を地域によってこのように変えている。
(出所:「10月の価格改定のお知らせ」すかいらーくホールディングス)
これにより、例えばチーズINハンバーグの場合、地域によって110円の価格差が生じることになる。モーニングの目玉焼きセットに至っては、「地方都市」と「超都心」の間で165円の価格差が生じている。
マクドナルド、リンガーハットも
そして今年に入り、マクドナルド、リンガーハットも、7月から値上げにあたって地域によって異なる価格を設定している*1。マクドナルドはこれまでも、空港や駅、遊園地、サービスエリアといった特殊な立地及び都心部の一部の計約40店舗では、賃料、人件費等の店舗運営コストを勘案して、その他の店舗と異なる価格設定をしてきた。
今回はさらに新たな都心型価格を設定、適用する。異なる価格になる対象は全国約3,000店舗の約6%にあたる184店舗で、東京、名古屋、関西地域の都市型店舗が該当している*2。
*1 「都心型価格の適用店舗再編のお知らせ」日本マクドナルド
*2 「価格が異なる店舗一覧」日本マクドナルド
リンガーハットも同様に、東京23区・沖縄・北海道を地域別価格の対象とし、値上げの幅を大きくしている。背景には原材料や燃料の高騰、そして人件費の高騰がある。
(出所:「『リンガーハット』価格改定のお知らせ」リンガーハット)
人件費の推移
特に大きくのしかかるのが人件費の高騰だろう。リクルートの調査によれば、各業種のアルバイト・パートの人件費は、2023年5月ではこのようになっている。
(出所:「-2023年5月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査-三大都市圏の5月度平均時給は前年同月より27円増加の1,150 円」リクルート p3)
同レポートによれば「販売・サービス系」「フード系」が三代都市圏全体で過去最高額を更新しており、特に「フード系」は3か月連続での過去最高額を更新しているという*3。下にみるように、特にコロナ後の上昇が顕著である。
(出所:「-2023年5月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査-三大都市圏の5月度平均時給は前年同月より27円増加の1,150 円」リクルート p5)
都市部ほど高い賃金で、かつ多く人を雇わなければならないのは明白である。しかし物価全体が上がっている中で、そのツケを地方の消費者にも支払わせるにはいかないという経営判断だろう。
なお、リンガーハットが沖縄や北海道も値上げ幅を高く設定する地域にしているのは、原材料の運搬にかかる燃料代の高騰があるとみられる。いずれにせよ、理由を明確にして地域別に異なる価格設定をしているのが特徴といえる。
*3 「-2023年5月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査-三大都市圏の5月度平均時給は前年同月より27円増加の1,150 円」リクルート p1
ステルス値上げは限界か
さて、チェーン展開していない飲食店や食料品販売店であっても、値上げにあたっては注意しておきたいことがある。それは量を減らして価格を維持する「ステルス値上げ」に対して「不誠実」と感じる消費者が増えていることである。消費者庁の調査によると、ステルス値上げに対する消費者の意識はこのようになっている。
(出所:「COLUMN1 実質値上げ(ステルス値上げ)に関する消費者の意識(物価モニター調査結果より)」消費者庁)
8割以上の人がステルス値上げの存在を感じ、また、「実質値上げが原因で買う商品を変えた(やめた)」「実質値上げは不誠実」と感じる人は4分の1近くにのぼっている。大手チェーンのこうした「わかりやすい理由」をもとに地域別の値上げをするのと同様に、大きなコストアップを防げないメニューについては値上げの理由をきちんと説明してくれれば受け入れるという来店客も少なくはない。「店にきたからには、食べたいものは食べたい」からだ。
ただ、「漠然とした全体的な値上げ」「写真と明らかに違う料理」に対しては、食料品の値上げが続いていることを知っている来店客ですら、良い思いはしない人は増えていることだろう。
この物価高騰はまだ続く見通しだ。秋には値上げの「第3波」がやってくるという観測もある。今までどれだけ耐えてきたとしても、メニューへの価格転嫁はもはや避けられない状況になっている。
ただ、注意点がある。それを「全体でなんとなく吸収するのか」「説明を尽くして人気メニューは売り続けるのか」といった視点は、これから飲食店が持つべきもののひとつだろう。
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