個性的な個人店の魅力を「未来に残すビジネス化」でFC事業につなげる
東京レストランツファクトリー(本社/東京都目黒区、代表/渡邉仁)では、2022年から「未来に残したい日本 継なぐプロジェクト」(以下、未来に残したい日本)と銘打って、業態を発掘すると共にFC事業を行っている。
同社は代表の渡邉氏(53歳)が2003年に独立して会員制のバーを起業したことにはじまる。同年6月に同社を設立、以来高級焼鳥ブームの先駆けとなった「鳥幸」や、日本酒の温度帯別の楽しみを広めた「ぬる燗 佐藤」など、料理人の技術によるクオリティの高い料理を基軸にして多様な業態を展開してきた。海外でも店舗展開を行い、ミシュランの1ツ星を獲得している。店舗数は約60店舗で、売上高55億円(2024年7月期)となっている。
未来に残したい店を「ビジネス化」する
同社が「未来に残したい日本」の事業を手掛けることになった発端は、渡邉氏が東京・渋谷にあるスープパスタ専門店「ホームズパスタ」を「未来に残したい」と考えたことであった。
【「ホームズパスタ」は1986年から、東京・渋谷のペンギン通りに面したビルの3階で営業している】
同店は1986年に創業。「絶望のスパゲッテイ」と称するニンニクが効いたトマトソースのスープパスタが看板メニューで、オーナーをはじめとした少人数で運営。渡邉氏は同店に青春時代から食事に訪れ、こよなく愛する店であった。
【「ホームズパスタ」の看板メニュー「絶望のスパゲッティ」はニンニクが効いていて記憶に残りリピート率が高い】
その同店では、オーナーが高齢に達していたことから、渡邉氏は表題どおりの志を持って、知人を介してオーナーに相談する機会をいただいた。そして「ホームズパスタのビジネス化」の提案をした。
そこで、東京レストランツファクトリーが運営する東京・品川にあるピッツェリアの店を「ホームズパスタ」の伝統的メニューを取り入れながら、サイドメニューを豊富にした「ホームズパスタ トラットリア」としてリニューアルオープンした。これが2022年5月のことである。
渡邉氏はこう語る。
「当社が『ホームズパスタのビジネス化』に取り組むことに、オーナー様が納得してくださった背景には、当社に多くの料理人が存在していることが挙げられます。『ホームズパスタ』のソースの再現性はとても難しいのですが、当社の料理人の技術と栄智によってそれが可能になり、当社のセントラルキッチンでつくることになりました」
【東京レストランツファクトリー代表の渡邉氏は、料理人が醸し出す外食文化を大切にしている】
企業が運営することで全時間帯型店舗に転換
そして、リニューアルした店舗の営業状況について、こう語る。
「『ホームズパスタ』は『スープパスタ専門店』で人気を博してきましたが、お客様はパスタのみを目的にしてやってきますのでディナーの売上が思うほど取れていませんでした。そこで当社が展開するようになって、ディナーにピッツァやサラダ、アンティパストなどとメニューを広げることによって女子会などに対応できるようになりました。こうして自然と売上が上がっていきました」
実際にリニューアルした品川の店では、ランチタイムには「ホームズパスタ」伝統のスープパスタがお客を引き付け、ディナータイムには、アンティパストによってカジュアルレストランとして利用されている。さらに、カフェタイムにはこだわりのコーヒーやドルチェセットを提供。こうしてフルタイムで店を回転させている。
【「ホームズパスタのビジネス化」はアトレ品川3階の店をリニューアルすることから始まった】
伝統である「絶望のスパゲッティ」は先に紹介した通りの食味であることから強烈に記憶に残り(クセになる、という感覚)、リピーターをもたらす。品川の店の場合、リピート率は80%になっているという。
そして「未来に残したい日本 継なぐプロジェクト」を掲げたストーリーは人々を引き付ける。老舗の伝統を受け継いでいることに、飲食業のプライドを感じさせる。
【品川の店よりパスタだけではなくアンティパストを増やして利用動機を広げた】
業態転換をしてアイドルタイムに営業しない
同社ではこの業態をFC展開することとし、2023年11月に事業説明会を行ったところ、40社以上の企業から問い合わせがあり、このうち11社と契約した。すでに3店舗がオープンしている。
2024年12月末の「ホームズパスタ」の店舗数は東京レストランツファクトリー直営の店舗が2店舗、FC3店舗となっている。FC契約をしているほかの企業では今年から順次オープンしていく模様という。
【東京レストランツファクトリー直営2号店は東急プラザ渋谷の7階に出店し、メニューの実験を行っている】
FC契約した会社は東北から九州までの地元では大きな外食企業、メガフランチャイジーなどだ。これらの企業が「ホームズパスタ」に期待していることは「業態転換」であるという。
それは既存の駅ナカや商業施設に出店している、おもにファストフード系からの業態展開を図ろうとしているという。既存の業態では客単価800円程度、「ホームズパスタ」の場合は2000円あたりとなる。既存の業態ではディナータイムが弱いが、「ホームズパスタ」では前述のとおりカジュアルレストランとなる。
渡邉氏はこう語る。
「FC契約をされた企業では『ホームズパスタ』に業態転換をしたら、アイドルタイムはクローズしたいと言います。この時間帯でシフトについてくれる人はなかなかいません。また、この時間帯に低価格のコーヒーを売ったとしても何もなりません」
このような談話に、地方都市における人材採用の状況とFCフォーマットの生産性の在り方に転換が迫られていることが感じられる。
【POPな壁画も「ホームズパスタ」のキャッチとなっている】
「サスティナブルな存在感」が求心力をもたらす
この事業の第2弾として「鶴橋串焼き松よし」のFC展開を図っている。この店は1974年、近鉄・JR・大阪メトロが交差する鶴橋駅駅のガード下で、韓国系串焼きを提供する屋台として高(コ)姉妹が創業したもの。以来50年間、秘伝のタレと食味の高さが人気を呼び、多くの人々に愛されている。
東京レストランツファクトリーでは2024年6月、東京・新宿西口に同社のこの1号店を出店し、これから展開する店舗のモデル店として同年9月に2号店を三軒茶屋にオープンした。
【「未来に残したい日本」事業の第2弾「鶴橋串焼き松よし」のメニュー(イメージ)】
この事業の展望について、渡邉氏はこう語る。
「『ホームズパスタのビジネス化』と申しましたが、これは古い店を買い取って、それをFC
展開するという感覚ではありません。純粋に『将来残ってほしい』という想いで取り組んでいます。ですから『これから存続させるために協力してほしい』という相手様に何でも応えてしまうということはしません。『きちんと事業化できるのか』ということを考えて取り組んでいます」
渡邉氏は、この事業のテーマは「一事業というよりも会社の色になっていくと思う」と語る。
「当社にはいま、さまざまな会社でいろいろな経験を積んできたいい人材が集まってきています。彼らはこれまでの経験から『未来に残したい日本』というものがイメージできているのです。特徴のはっきりした個人店が衰退していく中で、われわれが出来ることがあるはずだとみな考えているのです」
いま、飲食業にとって必要な業態とは「おいしい料理」だけでは満たされない。未来につないでいく「サスティナブルな存在感」というものが、従業員にもお客にとっても求心力になっていくと、筆者は感じ取った。
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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