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酒場事業の充実を図り、たこ焼、主食事業の三本柱を整える

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十七弾
「築地銀だこ」がコロナ禍で推進した大改革 後編

 
前編の冒頭で、ホットランドが大きく成長したポイントの一つとして“酒場”を手掛けたこと挙げた。“酒場”はコロナ禍で著しい売上減となっているが、同社ではアフター・コロナ、ウィズ・コロナに向けてこの事業を充実させた。
 
「日本再生酒場」発の地方版、「日本再生酒場 桐生編」が3月1日にソフトオープンした(筆者撮影)【「日本再生酒場」発の地方版、「日本再生酒場 桐生編」が3月1日にソフトオープンした(筆者撮影)】
 

伝説の酒場「日本再生酒場」を傘下に入れる

ホットランドではこれまでギンダコスピリッツというグループ企業が酒場事業を展開、「銀だこ酒場」「おでん屋たけし」「ごっつい」といったブランドで約70店舗ほど展開していた。そこに昨年12月、い志井グループを事業承継して酒場事業に組み入れた。
 
い志井グループの代表的なブランド「日本再生酒場」は東京・新宿三丁目、末広通りの賑わいの発祥となった業態である。牛や豚の新鮮なホルモン焼が主力商品であり、元気のよい従業員が醸し出すいなせな雰囲気が売り物で、ホットランド代表の佐瀬氏は酒場事業を推進する上で「日本再生酒場」から多くのことを学んだという。
 
「日本再生酒場 桐生編」は15時にオープン。もつ焼きなどの他に定食メニューもラインアップして多様な利用動機に対応している(筆者撮影)【「日本再生酒場 桐生編」は15時にオープン。もつ焼きなどの他に定食メニューもラインアップして多様な利用動機に対応している(筆者撮影)】
 
佐瀬氏は、い志井グループ創業者で代表の石井宏治氏と交流するようになり、コロナ禍で厳しい経営を強いられるようになった石井氏から事業承継についての相談を受けるようになった。そして、同グループを引き継ぐことを決断した。
 
これによって、同社の酒場事業はい志井グループが培ってきた仕入れやノウハウを使うことができるようになり、酒場事業全体のクオリティがアップしてきている。
 
今年に入り、ホットランドではグループ会社を再編。「築地銀だこ」の同社が中心となり、主食事業のホットランドネクステージ、酒場事業のオールウェイズをつくった。さらに、ファインインターナショナルという店舗設計や内装を事業とする会社をグループ化し、ここではこれからECサイトの運営をしていく計画だ。ここからは「日本再生酒場」のもつ煮込み、牛すじ煮込みや、この間育ったたこめしといった商品を販売していくという。
 
「日本再生酒場 桐生編」では奥に個室を設けて、炉端での提供も可能にしている(ホットランド提供)【「日本再生酒場 桐生編」では奥に個室を設けて、炉端での提供も可能にしている(ホットランド提供)】
 
さて、このオールウェイズでは早速斬新な動きを見せている。群馬県桐生市に「日本再生酒場」の地方版を初めてつくり、3月1日にプレオープンした。場所はJR桐生駅から徒歩10分、かつての繁華街で今日ではシャッター通りとなっている路面。地元の酒、地元の食材、地元の取引先など、地元にこだわった独自のメニューを提供していくという。
 
同店の家賃は数万円で、都心の飲食店街のそれと比べると著しく低く損益分岐点が抑えられる。このようなことから、オールウェイズでは人口10万人の桐生市と匹敵するような地方都市で「日本再生酒場」を展開していくことを想定している。
 
3月1日のソフトオープンの時に、い志井グループの創業者・石井宏治氏焼き台に立ち(写真右)、「日本再生酒場」本来のいなせな雰囲気を醸し出していた(筆者撮影)【3月1日のソフトオープンの時に、い志井グループの創業者・石井宏治氏焼き台に立ち(写真右)、「日本再生酒場」本来のいなせな雰囲気を醸し出していた(筆者撮影)】
 

「どんなことが起きても大丈夫な企業グループ」

この桐生の店のもう一つの目的は「教育の場」。そこで以下のような構想を描いている。ホットランドグループでは将来独立を目指して入社してくる人がいることから、前オーナーの石井氏に店に入ってもらい「石井学校」とする。石井氏の元で約1カ月間「商売」についてみっちり勉強する。そこで鍛えられた人物が同社グループの店長になる。また独立のための登竜門とする。
 
この石井氏が執筆した『新宿三丁目日本再生酒場物語~昭和の心がしみている~』という書籍が商業界という出版社から2010年6月に発行されている。この本をプロデュースしたのは筆者である。『週刊朝日』をはじめ数々の書評欄で紹介された。
 
そのポイントは「商売の心」。石井氏が信条とした「ビッグな会社より、ナイスな会社に」という文言に込められた、ここで働く人々、取引先の業者、来店するお客との関係性を大切にしているということだ。筆者としてはこのようなマインドがホットランドに受け継がれて同社が築いてきたものと相乗効果をもたらすことを願っている。
 
「日本再生酒場 桐生編」はJR桐生駅北口から徒歩10分、かつての繁華街で今シャッター街の中にある。ほぼ廃屋のビルの路面に、ホットランドの2つの店舗と並んで営業している(ホットランド提供)【「日本再生酒場 桐生編」はJR桐生駅北口から徒歩10分、かつての繁華街で今シャッター街の中にある。ほぼ廃屋のビルの路面に、ホットランドの2つの店舗と並んで営業している(ホットランド提供)】
 
ホットランドグループは「築地銀だこ」で成長し主力業態となった。このターゲットはファミリーで、テイクアウトが主軸となる強い業態である。これがコロナ禍によって冷凍たこ焼の販路をつくり、郊外ロードサイド立地での可能性を引き出した。そして「野郎めし」によって主食事業の活路を見出した。酒場事業では「日本再生酒場」が加わることで事業内容を深化させるようになった。
 
佐瀬氏はコロナ禍にあって取り組んだことをこのようにまとめた。「どんなことが起きても大丈夫な企業グループをつくった」と。ホットランドグループは大きな災いを転じて大改革を施し、持続可能な体制を整えた。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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