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フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸 連載第十九弾 「すし酒場」というニューウェーブ 前編

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客単価3000円を切る大衆向け新業態の魅力

ディナー帯の大衆マーケットで「すし酒場」が存在感を増している。
筆者は、数年前に横浜の野毛の奥で崩した筆文字の看板の店で、お手軽につまみも寿司も食べられるという「や台ずし」のアピールに引かれて入店し、普通に食事をして3000円を切っていることに感銘を受けて以来、これに類する店が続々とオープンしていることに気付くようになった。人が感動する業態は多くの人を感動させているのである。
崩した筆文字の看板で親しみやすさと、握りすしの低価格を訴求している【崩した筆文字の看板で親しみやすさと、握りすしの低価格を訴求している】
 
「や台ずし」はヨシックスという名古屋発のすし酒場である。後にPR timesでもアピールするようになった「鮨・酒・肴 杉玉」(以下、杉玉)は回転寿司最大手スシローのグループのスシロークリエイティブダイニングの店。さらに、新宿、中野、吉祥寺に出店した「立ち寿司横丁」はエー・ピーカンパニー。そして、川越に出店した「町鮨とろたく」はSFPホールディングスと、それぞれの母体も知られるようになった。
 
これらに共通している点を挙げると、まず冒頭のとおり客単価3000円を超えない、大衆居酒屋の単品メニューがある、どんなお客も最終的にすしをつまんで帰る、ということだ。
この後「や台ずし」と「杉玉」の特徴については詳しく触れるが、「立ち寿司横丁」は座って食べることもできるが立って食べると安くなる、これはサクッと食べる需要を喚起させる、つまり回転率を上げる戦略ではないか。「町鮨とろたく」はすしのバラエティに加えて天ぷらによってご馳走感を出している。いずれにしろ、これまでの大衆業態にプラスアルファの楽しさが存在している。
 

居酒屋メニューの粗利ミックスでお値打ち感創造

「板前の握るすし」は価格に対してお値打ち感が高い【「板前の握るすし」は価格に対してお値打ち感が高い】
 
上記の4ブランドの中で、まず「や台ずし」のことを詳しく述べるのは、この分野の草分けだからである。1号店は2000年3月にオープンした「や台ずし葵町」(名古屋市東区、後に業態転換)で、この6月末で27都府県に250店舗展開している。同店のこだわりは、「鮨は職人が握ったクオリティの高さ」ということで、この文言が店頭はじめ至る所に掲載されている。
つまみでは看板商品となっている「手羽先の唐揚」450円(税別)【つまみでは看板商品となっている「手羽先の唐揚」450円(税別)】
 
参考までに筆者が視察で入店した十条北口店のメニューを紹介しよう。
メニューブックはファイル形式になっていて、まず「にぎり」が2ページで構成されている。59円(税抜、以下同)、99円、129円、159円、199円、299円、399円、599円と分類されている。59円は、たまご、げそなど、599円は特大一匹穴子である。次のページから単品メニューが展開する。鶏ハツ炭火焼き599円、う巻き599円、まぐろカマ焼599円、手羽先唐揚げ(5本)450円、豪快!いかの天ぷら799円、海鮮サラダ799円、もつ鍋(二人前)1980円――等々、あらゆる居酒屋メニューがラインアップされている。ざっと数えて70品目、価格は499円、599円、799円が目立つ。
 
さらに「刺盛」と続き、3点盛799円、5点盛1299円、7点盛1899円、ぜいたく盛とお得盛(どちらも約3人前)2499円、このほか刺身は単品でも注文できる。メニューを列挙したが、一人客、グループ客などさまざまな客層に応えられる構成だ。ドリンクも大衆居酒屋のラインアップと同様で、定番になった観がある「チンチロリンハイボール」もある。
 
また、キャンペーンにも力を入れている。新規オープンに際しては、期間限定で「最初の1杯9円」のキャンペーンを恒例としている。この価格のインパクトは地域のお客に響くようだ。
顧客から待望されているものに「ど~んとまぐろ祭」が挙げられる。これは不定期で開催しているものだが、本まぐろすし5貫にドリンク1杯付きで500円で提供される。これは通常価格1485円となるものだ。LINE会員限定でクーポンを発給しているが、このキャンペーンを目当てにLINE会員は増える。
不定期で開催される「ど~んとまぐろ祭」。これを開催するとLINE会員が増える【不定期で開催される「ど~んとまぐろ祭」。これを開催するとLINE会員が増える】
 
さらに、この7月からサブスクリプションサービスを手掛けている。ドリンク、すし、つまみの3つのカテゴリーで、それぞれ1000円を支払うと「ドリンク1杯無料」「大とろ1貫無料」「手羽先唐揚1人前5本無料」のサービスが受けられる。ただし条件として「購入者本人のみ有効」「お一人様1日1回限り」「お持ち帰り不可」「本パス1回ご利用について別途フード500円(税抜)以上を注文」「アルコールには別途お通し代219円(税抜)」の条件がつく。これは全店一斉ではなく、順次このサービスを行う店舗を増やしていく模様だ。
 
さて、筆者の食事代は2800円台だった。満足度の高さに対して値段の低さについて考えたのだが、それは居酒屋メニューならではの粗利ミックスであろう。
 
(後編)に続きます。

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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