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店が休業して冷凍たこ焼をコンビニで販売、新立地・新業態を手掛ける

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十七弾
「築地銀だこ」がコロナ禍で推進した大改革 前編

 
「築地銀だこ」はたこ焼を“和のファストフード”として定着させた存在である。同店は1997年群馬県笠懸町(現・みどり市)で誕生し、今や全国に約500店舗のチェーンとなっている。同チェーンを展開するホットランド(本社/東京都中央区、代表/佐瀬守男)がこれまで隆盛してきた局面で筆者は何度も取材をしてきた。
 
ホットランドが大きく成長したきっかけは“人が集まる施設”の常連となったこと。それができるたびに「築地銀だこ」が増えていった。そして“酒場”の業態開発を行ったこと。「築地銀だこ」は過去都心部の商店街での展開にチャレンジしたが、たこ焼だけでは粗利が低く撤退を余儀なくされてきた。それがドリンクニューとして“ハイボール”を取り入れ、たこ焼をフードメニューに位置付けることで「銀だこ酒場」をつくり上げ、都心部の商店街で展開するようになった。これが現状約70店舗となり業態としての基盤を築いている。
 
「築地銀だこ 本店」は東京・築地の中心部となる交差点の角地にあり名所的存在(筆者撮影)【「築地銀だこ 本店」は東京・築地の中心部となる交差点の角地にあり名所的存在(筆者撮影)】
 
さて、このホットランドの成長を押し上げた“人が集まる施設”と“酒場”は、言うまでもなくこの度のコロナ禍で売上を大きく減じた存在である。ホットランドの場合も同様である。ではこの間、同社はどのようなことに取り組んだのか、というのが今回のお話。
 

たこ焼の冷凍商品と新立地開拓を推進する

ホットランドがコロナ禍で売上を大きく減じたことの対策として行ったこと。それはまず、「冷凍たこ焼の製造・販売」である。
 
そもそもホットランドでは冷凍たこ焼を製造・販売を行っていたが、コロナ禍で冷凍たこ焼の需要が拡大することを予測し、休業した実店舗の従業員を群馬県桐生市の自社工場に集結させ、冷凍たこ焼の製造を集中して行った。桐生市内のホテルを貸し切り、工場はフル稼働で延べ人数70~80人がこの作業を行った。
 
ドリンクメニューに“ハイボール”を取り入れ、たこ焼をフードメニューに位置付けることで都心部での展開が可能になった(筆者撮影)【ドリンクメニューに“ハイボール”を取り入れ、たこ焼をフードメニューに位置付けることで都心部での展開が可能になった(筆者撮影)】
 
冷凍たこ焼の販売は、大手コンビニチェーンに直談判したことによってそれが叶えられた。これによって製造数増、売上増となった。同コンビニにはPBの冷凍たこ焼が存在しているが、「築地銀だこ」の冷凍たこ焼の価格はその倍の540円(税込)。二つ並んで陳列されているが「築地銀だこ」のブランドが目立つ。この製造が桐生の工場だけでは間に合わなくなり、ベトナムに工場をつくり、冷凍たこ焼は日本のみならず海外への輸出も手掛けるようになった。
 
次に、「新立地の開拓」を行った。
 
“人が集まる施設”のショッピングモールやイベント会場では「築地銀だこ」店舗が休業を強いられたことから、2020年の5月ごろからロードサイド型店舗を郊外で展開しようと動き出した。そこから5カ月後の10月東京・立川の五日市街道沿いに、このタイプの1号店を出店した。
 
コロナ禍で冷凍たこ焼の需要が増えると予測して大手コンビニでの販路をつくったことで販売量を大いに伸ばした(筆者撮影)【コロナ禍で冷凍たこ焼の需要が増えると予測して大手コンビニでの販路をつくったことで販売量を大いに伸ばした(筆者撮影)】
 
同社では、東日本大震災の後に石巻でトレーラーハウスを使用してたこ焼の提供を行った。当時のトレーラーハウスを20台近く桐生にある工場で保有していたことから、出店までの時間を短縮させるという趣旨で、それを活用して店をオープンした。するとテイクアウト需要があることが分かり、たこ焼以外の商品開発を行なった。そこで、たこめし、焼そば、たい焼を販売したところ好調となり、月商1000万円を超える月もあった。
 
そこで出店はロードサイドにシフトして、コロナ禍の2年間でこのタイプの店を10店舗出店した。
 
『1300坪という広大な敷地に店舗を構える「野郎めし」は派手でよく目出つ看板でアピールしている(筆者撮影)【1300坪という広大な敷地に店舗を構える「野郎めし」は派手でよく目出つ看板でアピールしている(筆者撮影)】
 

軽食のたこ焼とは真逆の“男飯”を開発

そして「主食業態の開発」に着手した。ホットランドの主要業態「築地銀だこ」の商品は、客層が幅広く、さまざまな時間帯で需要がある“和のファストフード”である。同社ではかねてこの他に主食業態をつくる構想を温めていた。そこで「野郎めし」という主食業態を開発した。コンセプトは、豪快で、ボリュームがたくさんあり、手軽な価格帯で、おなか一杯食べてもらうというもの。いわゆる“男飯”である。
 
昨年11月、群馬県太田市の国道50号線沿いにその1号店をオープンした。敷地はコンビニ跡地で1300坪と広大であることから、大型トラックやトレーラーも駐車することが可能。ここで「しょうが焼」をアピールしたことによって、ドライバーだけではなく周辺に住むサラリーマンやOL、ファミリーなども連日訪れるようになり、稀に見る成功店となった。ちなみに「しょうが焼定食」の並盛は748円(税込)である。これらの定食には「大盛」「野郎盛」もあり、“ガッツリ系”の要望に応えている。
 
「野郎めし」では主食メニューをラインアップし、大盛、野郎盛というガッツリ系を設けている(ホットランド提供)【「野郎めし」では主食メニューをラインアップし、大盛、野郎盛というガッツリ系を設けている(ホットランド提供)】
 
ちなみに筆者が店内を撮ろうとカメラを構えたところ、店長らしき人物から大きな声で「撮影はやめてください」と言われた。さぞや業界人の視察が多いものと思われた。この業態はロードサイド発祥であるが、街中の路面や商業施設内でも人気を博すことであろう。
 
(後編)に続きます。

 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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