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神田の新店「ラム肉酒場 ラムゴロー」の、神田の居酒屋らしくない目的来店の試み

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十三弾
「ラム肉酒場 ラムゴロー」開業物語(前編)

 
都心の飲食店街はようやく賑わいを取り戻してきた。
 
JR神田駅周辺も同様、夜遅くまで笑い声がBGMのように聞こえてくる。この中に9月22日「ラム肉酒場 ラムゴロー」(以下、ラムゴロー)という店がオープンした。JR神田駅南口を日本橋側に出てすぐの交差点を、東京駅方面に線路沿いをまっすぐのぞむと、大きな黄色い矢印が店を指している。ファサードには壁一面に羊の顔が緻密な線画で描かれている。その上には2階席をのぞき込む羊の人形が置かれている。店頭はカオスだ。
 
JR神田駅南口から徒歩30秒の立地。斬新な外装がよく目出つ【JR神田駅南口から徒歩30秒の立地。斬新な外装がよく目出つ】
 

ビルは4階建てで、ラムゴローは1、2階。1フロア10坪、2層の中に50席を配している。
 
1階は、炭火の焼き場が中央に置かれ、それを取り囲む形で円型のカウンター席がある。さらにその外側はテーブル席が囲むように配されている。炭火の焼き台がステージで客席がそれを取り囲むといったイメージだ。
 
2階の上ると、ファサードの上で2階席をのぞき込んだ羊の顔が出迎える。空間にはテーブル席のみだが、ベンチシートの背中が当たる部分にもふもふシートが掛けられている。「ここに座ってみたい」という感情が湧いてくる。
 

ラム肉専門店に居酒屋メニューが支える

ラムゴローのメニューを紹介しよう。
 
ちなみに、同店のメニューは「メニュー表」や「メニューブック」としてまとめらたものはない。スマートフォンでQRコードを読んで、スマートフォンに表示されるメニューから注文する。最近導入事例が急速に増えてきているモバイルオーダーだ。注文はお客が自分で行うことから、「すみませ~ん」という言葉が発せられることはない。
 
ラム料理専門店の定番「ラムチョップ」1本550円(税込、以下同)【ラム料理専門店の定番「ラムチョップ」1本550円(税込、以下同)】
 

メニューの筆頭にあるのは「ラムチョップ」1本550円(税込、以下同)。ラム肉専門店の定番。画面では「何本でも食べられる」とキャッチを付けてお馴染みのメニューを印象付けている。
 

次は、「絶品!ラムのスペアリブステーキ」1290円。あまり出回ることのないスペアリブを「一番人気」というキャッチをつけて看板メニューとしている。1ポーション160ℊを真空パックにして65度40分間の低温調理を施し、提供する時に表面を軽く焼成して提供する。食べると、肉と骨の間にあるゴムのような食感が印象的だ。
 
「これからは店数ではなく客層を広げる時代」と語るロット代表取締役社長の山﨑将志氏。珍しい部位に低温調理を施した「ラムのスペアリブステーキ」1290円【珍しい部位に低温調理を施した「ラムのスペアリブステーキ」1290円】
 

そして、「ラム肉のたたき」890円。このキャッチは「名物」となっていて、ラム肉のたたきにケージャンスパイスを振りかけ、ネギをトッピング。添えている自家製レモンマヨネーズとホースラディシュを合わせて食べる。
 
付け合わせで味の変化が楽しめる「ラム肉のたたき」890円【付け合わせで味の変化が楽しめる「ラム肉のたたき」890円】
 

さらに、「タン」1本390円。コリコリとした食感で牛タンよりもあっさりしている。自家製のネギ塩だれをかけている。「ラムタンにやみつき」とキャッチをつけて、同店への来店動機になるようなイメージ。ラム串はこれをはじめとして7品目をラインアップ。「ヒレ」1本(以下同)500円、「ランプ」350円、「自家製つくね」「ハツ」「ショルダー」各290円となっている。
 
食味があっさりして新鮮な感覚の「タン」1本390円【食味があっさりして新鮮な感覚の「タン」1本390円】
 

ラム肉の炭火焼のメニューは以上で、この他は「スピード」「酒のあて」「逸品」「揚げもの」のカテゴリーで30品目強がある。ラム肉専門店であるが、一般的な居酒屋のメニューを満遍なく取り揃えている。
 

顧客満足を高める仕組の数々

ラムゴローに滞在してしばらくすると気付くのだが、ここの従業員の雰囲気は一般の飲食店のそれとはかなり違う。それは注文を取りに来ないが(モバイルオーダーだから)、お客が初回客なのかリピーターなのかを察知して語りかける。初回客にはメニューの特徴を説明し、リピーターには前回来店したことを話題のきっかけにしている。従業員は20代前半の女性が多いが、表情がみな優しくかわいらしく見える。
 

このモバイルオーダーの中には「推しエール」という機能が付いている。これはお客が従業員に感謝や応援の気持ちを送るといういわば「投げ銭」の機能。スマートフォンの画面に従業員一覧と投げ銭ボタンが表示され、接客の感謝の気持ちとしてチップを送ることが出来る。
 

また、このモバイルオーダーはお客のLINEから取得することができるID情報と、お客の注文を自動連携させることが可能となって、「誰が」「何を」食事したかを分析し、従業員がお客に適切にアプローチできる。さらに取得したデータを「LINE公式アカウント」によって、店舗利用履歴に応じたメッセージを送ることが可能で、またカスタマイズしたクーポンを配信することが出来る。
 
顧客管理を行い従業員満足度も高めるモバイルオーダーを採用【顧客管理を行い従業員満足度も高めるモバイルオーダーを採用】
 

さらに、しばらく滞在して気付くことだが、BGMが1970年代、80年代の洋楽である。ポップスからディスコミュージックまでさまざま。筆者の学生生活は1980年あたりで、当時「ディスコ」が流行していたことからとても懐かしい気分に浸った。同店の客単価は3800円と聞いたが、同店のメニューの持ち味を理解し、この客単価に満足することできる比較的上の年代を狙う上で、とても効果の高いBGMと言えるだろう。
 

「ラムゴロー」の内容を長々と説明したが、この店がどのような背景を持ってオープンしたのかを後編で詳しく述べる。
 
(後編)に続きます。

 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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