コロナ禍で3Dフリーザーを武器にECにチャレンジする
青森料理「ごっつり」 後編
「ごっつり」が青森料理専門店となってから、店舗を東京・南千住、東京・浅草橋と展開し「ごっつり」は4店舗となった。店舗数が増えるにつれて「八戸前沖さば」の使用量も増えて、通常の時で月に1t、年間で13~15tを仕入るようになった。
また、10年ほど前に「八戸前沖さば」を使用するようになってから、八戸前沖さばブランド推進協議会が認定する「八戸前沖さば県外PRショップ」となった。これによって、東京で開催されるイベントで地方産品をアピールする機会があると赤字覚悟で「八戸前沖さば」をはじめ青森食材のアピールに努めている。
西村氏は「青森食材、青森料理をアピールすることは私の使命、天命です」と語る。この時に西村氏は「ごっつり」の表情になる(一人ほくそ笑むような雰囲気の意味)。
【今年の4月、北千住の大きなマンションの店舗棟に「おそう菜のごっつり」を出店。】
「3Dフリーザー」を武器にECにチャレンジ
そしてコロナ禍がやってきた。「ごっつり」では都からの要請にすべて従った。営業時間短縮や酒類の提供停止などのすべてである。遠方からのファンも足が遠のくようになった。店を休業することもあり、売上は通常の時の9割ダウンとなった。
この間に考えたことはEC(通信販売)に取り組むこと。「八戸前沖さば」を使用した商品を冷凍にして全国の家庭に届ける。そのための専門施設を構えようと準備を進めた。当初は北千住にある足立市場の近くを望んでいたが、そこで見つけることが出来ずに1㎞ほど離れた大きなマンションに囲まれた店舗棟の路面店を不動産業者から紹介された。
【「ごっつり」を象徴する「サバ」の加工品を多数ラインアップしている。】
物件は元歯科医院で17坪。ここに水回りの工事を行い、キッチンと惣菜売場、事務室をつくった。こうして今年の4月に「おそう菜のごっつり」をオープンした。
この施設のポイントは「3Dフリーザー」を持っていること。これは、食品の品質を保ったまま素早く冷却する急速冷却冷凍装置である。特徴としては、「庫内の高湿度化を実現し、食品の水分量を保ちつつ急速冷凍を行うことが可能」「高湿度冷気で包み込むように均一に急速冷却することから、食品の細胞にできる氷結晶は小さく歪にならない」「食品の細胞にできる氷結晶が小さいことから解凍時間が短縮されドリップが出ない」ということだ。
鮮魚を多く扱う「ごっつり」では仕入れによっては価格の変動が生じる。商機に波が生じたときにはロスを発生させることもある。「3Dフリーザー」はこのような仕入れの価格変動に対応することが出来て、ロスの発生を抑えることが出来る。また、「おせち料理」のように需要期が定まっている商品の食材を価格が低い時季に仕入れて調理して冷凍保存をしておくということも可能になる。
現在は、ECで販売する商品を実験している状態で、サバ由来の商品を当初は2~3種類から始めて10種類ほどに増やし「ごっつり」のブランディングを展開していく意向だ。現在はECのプラットホーマーの認可を待っている状態で、認可がされたらすぐに実践していく。
【ECの展望を大きく切り拓く「3Dフリーザー」。】
製造直売惣菜店でありCKとしても稼働
また、リアル店舗が通常の状態に復活した時にこの施設はCK(セントラルキッチン)として活用されることになる。魚をマルで仕入れてここで集中調理を行うことにより一匹の魚を無駄なく使い切ることが出来る。そして、店舗段階での仕込み作業が変化することによって働き方改革にもつながるだろう。
この施設は惣菜の製造直売所ともなっている。新鮮な魚介類の刺身もパック詰めで並べられていて、リピーターとなっている近隣の顧客は早い時間からまとめ買いをしていく。「ごっつり」の顧客にとっては、「ごっつりが惣菜屋さんを始めた」ということで、“ごっつりクオリティ”を楽しみにやってくる。
【物販でも、青森・八戸の名産品を多数取り揃えている。】
同店を取り囲むマンションには450戸が入居していて、これらの住民から親しまれる活動も地道に行っている。ゴールデンウイークの5月2日には「マグロの解体ショー」を行った。ハラ抜きの40kgの生本マグロを捌いて200人前の刺身をつくったところ、盛り付けたそばから売れていき完売した。また、7月25日には「焼鳥販売」を行った。従業員が焼鳥を焼きながら、4月から惣菜店を営業していることをアピールした。
このように北千住の「ごっつり」がコロナ禍にあっても前進する姿勢を崩していないのは、西村氏が「青森料理」に的を絞るようになってからだ。これによって何事もぶれることが無くなったからであろう。
【キッチンを大きく構えることによって、今後セントラルキッチンとしての稼働が期待される。】
現在、北千住駅東口の「ごっつり」の立ち飲み店ではお酒を提供していないが、他店でお酒を飲んできた常連客が従業員に会おうとふらりと立ち寄り、ノンアルコールでサバ串を楽しんでいる。コロナ禍が終息することが待ち望まれる。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第三十弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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