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イートイン休止、ECサイト開始。アフターコロナに向けた和音人の決意

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十五弾
アフター・コロナの活路 後編

 
さて、和音人にこの度の新型コロナウイルス禍が降りかかった。今年に入り1~3月の業績は前年を上回っていたが、4月に入ると通常の3割以下に減少するようになった。
政府は4月7日に「緊急事態宣言」を発出した。それを受けて、狩野氏は9日より和音人の7店舗中6店舗の営業を自粛することをFacebook上で発表。ここからの同社の行動は俊敏であった。それは、以下のようなものだ。
 

(1)4月10日より、7店舗中6店舗はイートイン営業を休止しテイクアウト営業に切り替え、無添加・無化調の食事を提供することにした。

デリバリーは、業者ではなく同社の社員が行った。これは業者委託の経費を削減するだけではなく、地域密着で育ってきた同社として地域との結びつきを大切にしたため。
メニューは「彩り稲荷寿司」「三種のブリトー」「鰹節のフォカッチャ」(500円)、「料理人七人の日替わり弁当」を始めとした弁当(1000円)、オードブル(3000円、5000円)、和音人がセレクトした日本酒やオリジナルのクラフトサワーなど。デリバリーの場合は2000円以上購入の場合は送料無料、2000円未満の場合は送料300円としている。
開始してから1日80食を販売するようになり、大口の注文が入ると100食になることもある。
 wajin05【「和音人」のテイクアウト・デリバリーの試みはテレビで取り上げられた。(テレビ朝日)】
 

(2)ECサイト(通販)を立ち上げ、オリジナル商品を「和音人 月山 STORE」というサイトで発信した。

商品のコンセプトを山形の月山に求める姿勢は創業当時より一貫している。
まず「おうちde 芋煮」「おうち de 餃子」(1700円)を開発、また「山形斉藤の千日和牛」という和音人のブランド牛(1000日飼育の黒毛和牛の雌)を部位別にラインアップ。
また、和音人のアンテナショップでも販売している「無添加手作りのレモンサワー」(1300円)や「からみそ鶏白湯スープ」「月山水炊き鍋〆ラーメンスタイル」(1500円)を逐次ラインアップ。開始して1週間で40万円を売り上げた。
 wajin06【テイクアウト・デリバリーの商品の一つ「彩り稲荷寿司」3個500円(税込)】
 

(3)「社長をタダで貸します」――代表の狩野氏が、他者の社員の勉強会に講師として出講。

営業を自粛している中で、この期間に社員教育や、幹部研修をしたいという会社の要望に応えて、狩野氏が勉強会を行う。ちなみに、4月27日の場合、ホテル業界の(株)温故知新よりオファーがあり、「みんなの知らない危ない食べ物の話」「最強の組織を作る人創り」などをテーマにzoomで60人に向けて講演を行った。
狩野氏は30代を中心とした外食経営者の会員制サークル「外食5G」の代表幹事として、また「日本食文化100年研究会」の代表としてさまざまな機会に講演活動を行っている。
 

(4)オンライン飲み会「zoom de BAR」を開催。

4月10日から、不定期ながら週に3回程度のペースで開催。三軒茶屋のバーから狩野氏を始めとした3人が司会を務め、参加者と盛り上がる。参加者は和音人の顧客、関係者の友人、知人など。東京だけではなく、マレーシア、アメリカ、スイスなど多岐に及んでいる。
4月21日は「スラムダンクの勝利学に学ぶ」をトークテーマとして10人程度が参加し1時間強行った。「zoom de BAR」を進行している合間には、和音人のECサイトの内容を紹介している。
wajin07【和音人の主催で不定期に行われるオンライン飲み会の「zoom de BAR」】
 

外食は「あきらめたら、試合終了」

この4月21日に行われた「zoom de BAR」の内容は熱がこもっていた。
『スラムダンク』は高校バスケットボールをテーマにした漫画であり、コーチングやチームワークについての在り方が論じられている。「zoom de BAR」に集まる人々は和音人のメンバーと同世代の30代であるが、彼らにとって『スラムダンク』は青少年時代のバイブル的存在であった。このような背景もあって、代表の狩野氏や、参加者のそれぞれにとって「最も印象深い名場面」が存在し、それぞれがそれぞれのシーンに引かれた理由を語っていた。
・目標設定の重要性――主将の赤木剛憲は「全国制覇」を言い続けた。
・共通目標を理解することがチームワークの原点。
・チームとは一人一人のいいところを活かしていくこと。
・「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」(安西先生の言葉)
…このように、参加者からさまざま胸に迫る言葉が挙げられた。そして、代表の狩野氏は今回のコロナ禍対策で決断したことをこのように語った。
 
「テイクアウト・デリバリーを行なうに際して、どのような商品をつくるかみんなで考えた。そこで出てきた言葉は『和音人の闘い方で勝てなかったら、アフター・コロナは勝てない』ということ。そこで和音人が守ってきた無添加・無化調のお弁当をつくることになった」
 wajin08【ECサイト(通販)の商品の一つ「おうちde芋煮」2食分1700円。調理済みで加熱するだけで食べることができる。】
 
この記事の前半で、和音人が三軒茶屋に創業5年で7店舗の陣容をつくることができた要因について、狩野氏の「新しい外食産業をつくる」という信念で営業に臨んできたことを述べた。
今回の「緊急事態宣言」後の俊敏な行動と、そして「あきらめたら試合終了」という言葉から、アフター・コロナに向けた強い決意と、その時の外食の在り方を捉えつつある気配を感じた。
 
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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