コロナ禍前からの外販戦略・瓶詰めミートソースが営業を支える
アフターコロナの生産性対策 後編
後編は、飲食店の名物メニューを外販商品に育てた事例。
この類はこれまでパスタ専門店やカジュアルイタリアンのドレッシングの事例がみられるが、これには「イタリアン」「大衆業態」という共通項がある。ここで紹介する取り組みも同様だ。
この商品は「日本一おいしミートソース」というパスタのソースである。製造している会社はイタリアンイノベーションクッチーナ(本社/東京都渋谷区、代表/四家公明)で、「トスカーナ」「東京ミート酒場」という店名で13店舗を展開している。この商品は全店舗の名物でかつ一番の人気メニューとなっていて、合計で月間6100食を販売している。また、同社は無化調を信条としていて顧客にはよく知られている。
【2階にある代々木店では路面のA看板にお得なセットメニューで訴求している】
原価を気にしないで開発したことの成果
同社代表の四家公明氏はスパゲティ専門店の名店である「スパゲティハシヤ」(以下、ハシヤ)で修業し、1992年26歳のときに独立、東京・武蔵小山に「とすかーな武蔵小山総本店」を開業した。
ミートソースを名物にしたのは、1999年5月にオープンした代々木店から。「ここの店のミートソースは日本一おいしいね」と言ってくれるお客がたくさんいたことから、店頭の看板に「日本一おいしいミートソース」と宣伝したところ、どんどんとお客が来店するようになり、グランドメニューもこの名前にした。
【同社オリジナルの配合でつくっている生パスタにも特徴がある】
2010年6月、神谷町店をオープンするに際して、「日本一の名前に恥じない商品にしよう」とあらゆる食材と作り方を一つ一つ見直すことから始めた。
四家氏が仕込みを行う時にはパスタのソース72人前を一度に行なうのだが、マッシュルームを中国産缶詰から国産の生に切り替えたり、赤ワインを無農薬フルボディに変えたり、原価を気にすることなく試行錯誤を繰り返した。
四家氏は「このメニューが上手くいったのは、社長である僕が原価を気にしないでつくったから」と述べるが、それを1200円という親しみやすい売価に落とし込んだことも人気メニューに定着させた要因であろう。
この商品はテイクアウトとしても求められ、最初は簡易なパックで提供していた。武蔵小山総本店は8坪の店だが、コロナ禍以前からテイクアウトで毎日1万円程度を売り上げていた。さらに販売量を増やしたいと思い、麺をビニール袋にソースはパックに入れて手提げ袋に入れて販売していた。
しかしながら、忙しい営業時間中に従業員がこのような商品を詰める作業は非常に煩雑である。そこで四家氏はひらめいた。「ミートソースを瓶詰にすると、営業時間中にパックに入れる作業はなくなる」と。このようにミートソース売り方を思案している最中にコロナ禍がやってきた。
【アットホームで個人店のような雰囲気の代々木店】
顧客にとってリアル店舗の存在感が高まる
さて、人気商品の「ミートソース」は基本となるデミグラスソースを長崎にあるアリアケジャパン株式会社の九州工場で毎月2tを製造してもらい、東京都江東区辰巳の物流センターに集約し各店に配送。各店では、肉を焼いて、マッシュルームを入れて、といったミートソースの調理を行う。
瓶詰についてはキッチンが広い神谷町店で行っている。完成品の一歩手前のミートソースを瓶に詰めてから1時間煮沸する。この瓶詰の賞味期限は常温で1年間となっているが、食品検査では450日間常温で置いていても大丈夫であることを証明されている。
瓶詰商品の発売が開始されたのは、店が休業している最中の4月20日からのこと。まず、通販から着手した。
四家氏はfacebookで活発に発信をしていて、この瓶詰商品の販促もこのfacebookのみで行った。注文は四家氏のメッセンジャーで受け取り、それを四家氏が慎重に書き写して着払いの郵便サービスで商品を届けた。
【瓶詰の商品は「日本一のミートソース」の他に2種類】
この瓶詰商品は3人前のミートソースが入っていて1瓶1600円。また、この瓶詰1個、自家製生パスタ3食分、調味バター3食分、「おいしく作るためのレシピ」1枚がセットとなり2800円になっている。
これらの外販商品は店内で展示されていて、店内で購入することもできる。前述の発売開始以来、瓶詰は6月末に1000本を超えるようになり、今後、食品スーパーへ販路を広げるために、レトルトパック商品も2300パックを用意した。
「当社が無化調にこだわっていることでお客さまから信頼をいただいている。常連さんが当社の店で瓶詰のソースを購入して、『店で食べるのとまったく同じように作ることができて感動した』とおっしゃる。それを家庭で食べたお子さんが『今度は店に行ってみたい』とのこと。このように外販商品がもたらす販促の効果はとても大きいものと考えます」
このように四家氏は語るが、人気商品を外販することによってリアル店舗の存在感は一層高まることであろう。
【ディナー帯は鮮魚のメニューを訴求している】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第十七弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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