「自分でできることは何か」「ここから学べることは何か」と現実を知る
コロナ禍を乗り切る言葉 前編
父が残した借金40億円を16年で返済した経営者
『ある日突然40億円の借金を背負う――それでも人生は何とかなる。』という本がある。
発行されたのは5年前の2015年8月、筆者は神奈川県鎌倉市のJR大船駅近く居酒屋を2店舗「七福水産」「海福」を展開する株式会社ユサワフードシステムの代表、湯澤剛氏である。実に衝撃的なタイトルだが、本書の内容はこうだ。
湯澤氏は1962年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。大手ビールメーカーのエリート社員であったが、湯澤氏の父が1999年1月に突然亡くなった。この時、湯澤氏は36歳。父は神奈川県下に飲食店33店舗をはじめさまざまな事業を展開していた豪快な経営者であった。
葬儀の後、自分が勤める会社を2週間休み、父の会社に入ってみたところ、父がつくった40億円の有利子負債の存在を知る。父の会社で書類を調べて、社員や業者さんと接する中で、湯澤氏はいつしか周囲から「社長」と呼ばれるようになっていた。そこから湯澤氏の、大いなる戸惑い、苦悩、そして 奮闘が始まる。
メガバンクとの応酬があった。行き届かない店舗管理は、現場の士気を著しく下げていた。従業員には疑心暗鬼となり、被害者意識の塊になった。この当時のことを湯澤氏は「どん底の、さらに底」と振り返るが、そういう中でも借金を返し続けていく。光が見えかけてきたときに起きたノロウイルス、信頼していた社員の死、そして店が火事で全焼……次々と苦難が降りかかる。
【株式会社ユサワフードシステム、代表取締役の湯澤剛氏】
それでも湯澤氏は利益を生み出していく。利益を増やしていくために不採算や、非効率なことから撤退する縮小均衡策を取った。店舗を拡大していくのではなく、事業を縮小していくことによって利益を生み出していった。そして、40億円の借金は 16年間でほぼ返済された。
新型コロナウイルス禍は終息の時季が見えないこともあり、気分の晴れない日々が続いている。このような逆境にある時に、40億円の負債の返済をしていた日々を振り返りながら、湯澤氏はどのようなことを考えて行動しているかを教えていただいた。
【テーブルの上に食材をアピールするアイデアは会議で生まれた(画像は全て「七福水産」)】
プラスに考える経験値を高めると発想がプラスになる
湯澤氏にとって、40億円の負債の返済に加えて、食中毒を出したり、火事が起きたり、社員がなくなったりなど、精神が持たないという状態がたくさんあった。
この渦中にあって気分を切り替えることができるようになったのだが、そのきっかけは「自分は徹底的に落ちてしまった」ということに気付いたことだという。「今考えられる最悪の状況」というものを確認することができた。
「最悪の状況」を確認しないと、「最悪の想像」が頭の中でどんどん肥大化していく。それを阻止するために、湯澤氏は自分で想像する「最悪の状況」を紙に書き出してみた。感情を抑えて、「最悪の状況の底打ちをさせる」ということ。つまり、ここに足がついているという感覚は「ここが最悪」であるから結構安心することができたという。後はこれから自分で這い上がっていくだけである。
その後は、「自分でできることは何か」「ここから学べることは何か」という二つを自分自身に問いかけるようにした。湯澤氏はこう語る。
「今回のコロナの問題はどうしようもないことです。『感染拡大はなぜ減らないのか』ということで悩むのは自分でそれをコントロールすることができないから。私は借金を抱えていたときいつも天気の状態を心配していました。「雨が降ったら、雪が降ったらどうする」とか。でも、自分でどうすることもできない。ですから今はできないことは諦めて、『自分でできることは何か』を常に考えるべきです」
もう一つ重要な「ここから学べることは何か」ということについて。
「次から次と問題が起きていた当時はとてもつらい日々でしたが、途中から変わることができました。それは『プラスに生かすことができるものがある』ということに気付いたからです。例えば、金銭横領の問題が発生します。その時思うことは『再発防止の仕組みについて考えるいい機会だ」ということです。どんなにひどいことが起きても、そこから『学べるものは何か』を考える』
【小上がり席のPOPも今回一新してにぎやかになった】
このような経験値が高まることによって、さまざま生じた問題をプラスに活かすことができるようになったという。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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