飲食店での効率的な駆除のために ゴキブリの繁殖と好きな・苦手な温度などについて知ろう
春先から夏にかけて活発になる害虫の代表格、ゴキブリ。飲食店では目にしたくない存在です。ゴキブリについては、じめじめとした暗いところを好む、繁殖力が高い、といった一般的な特徴をご存じの方は多いことと思います。
では、具体的には何度くらいの場所が好きなのか?繁殖しにくくなる時期はあるのか?といったことはご存じでしょうか?少し細かい知識を身につけることで、効果的な駆除や対策ができます。
◆日本で多く見られるゴキブリの種類
日本には約40種類のゴキブリが生息していますが*1、ほとんどは屋外にいます。屋内に生息するのは「クロゴキブリ」「チャバネゴキブリ」で、特にビルや飲食店に多いのはチャバネゴキブリです。
成虫の体長は1〜1.2センチとクロゴキブリ(3.5センチ)よりも小さく、そのぶん発育期間が短いのも特徴で、孵化して約3か月で成虫になります。
全世界の主に都市部、人口の集中するところに分布しており、本来は低温のところでは繁殖できないものの、暖房施設が普及するとともに生息地を拡大しています。
◇ゴキブリの本当の危険性
ゴキブリに対して人が一番感じるのは「不快感」かもしれませんが、ゴキブリが繁殖することの害はもっと深刻なところにあります。というのは、ゴキブリは汚い場所ときれいな場所の両方を歩き回り、汚い場所で雑菌類を体につけたままあちこちに運んでいるのです。
ゴキブリが運ぶ病原体
(出所:「PCOシリーズ4 不潔の象徴 ゴキブリ」東京都ペストコントロール協会)
さまざまな菌を運んでいますが、最も多いのは食中毒の原因になるサルモネラ菌です*2。ゴキブリは明るい時間には身を潜めています。ですから、見ていないところで食器や食材の上を歩き回っていてもおかしくないのです。
◆ゴキブリ類の繁殖
ゴキブリの生態について「繁殖力が高い」「高温多湿の場所を好む」というのは、よく聞く話かと思います。しかし、なぜ繁殖力が高いのか、何℃くらいの環境を好むのか?といった具体的なところまでご存じの方は少ないことでしょう。ご紹介していきます。
◇一回で40個の「守られた」卵を生む
ゴキブリの卵といえば、どのようなものをイメージするでしょうか?昆虫の卵のようなものでしょうか。ゴキブリの場合、そうとは限りません。ゴキブリ類のメスは「卵鞘(らんしょう)」という卵がたくさん入った袋を、卵がかえるまで持ち歩きます。常に幼虫にとって良い孵化環境を探しているのです。
ゴキブリ類の卵鞘
(出所:「ゴキブリの生活」法人農林水産・食品産業技術振興協会)
チャバネゴキブリの場合、卵鞘には40個前後の卵が入っています。ゴキブリについて「1匹の幼虫を見たら何十匹もいると思え」というのはこのためです。天敵のいない環境では、40匹が一気に孵化しているということになります。また、メスが1匹しかいないということも考えにくく、卵鞘が1つ見つかったときにはその何倍もの卵が産まれていると考えられます。
ゴキブリの寿命と産卵回数
(出所:「PCOシリーズ4 不潔の象徴 ゴキブリ」東京都ペストコントロール協会)
さらに、1匹のゴキブリの寿命自体はそう長いわけではありませんが、その間にチャバネゴキブリは3〜10回の産卵を繰り返します。メス1匹あたり、少なくとも1年足らずで約120個以上の卵を産む計算です。
世代交代を繰り返しながら大量の産卵が続いていると考えれば、見つけた成虫を1匹ずつ追い回して叩いたところで、減りようはないということがわかるでしょう。
◇メスだけで繁殖するゴキブリも
さらに、西日本に多く生息するワモンゴキブリでは、オスがいない環境ではメスだけで繁殖することもわかっています*3。
◆ゴキブリが好きな温度、苦手な温度
次に、ゴキブリ類が「好んで身を隠す」温度についてみていきましょう。ゴキブリ類は一般的に20℃以下の低い温度は苦手ですが、普通は明るい内は暖かい、暗い、狭い場所に潜んでいて、夜間に出てきます*4。オスのチャバネゴキブリ200匹を使って一般暖房のあるビルの中で行われた実験があります。
1メートル四方の区切りの中に餌と水、ゴキブリが身を隠せるような暗い小部屋を配置し、場所によって違う温度になるように調節した結果、小部屋内の温度によって潜んでいるゴキブリの数に大きな違いが出ています。
温度別のゴキブリの潜伏数
(出所:「チャバネゴキブリBlattella germanicaが好む温度域に関する実験的観察」 p69)
「30℃〜35℃未満」がチャバネゴキブリの最も好む環境だということです。そこまで気温が高い場所がなければ、25℃以上であれば好んで潜伏するということもわかります。飲食店の厨房は温度もじゅうぶんに高く、餌や水にも恵まれる最高の潜伏場所です。
逆に、低温では活動量が下がります。チャバネゴキブリでは20℃以下の環境が続くと卵鞘の形成と孵化が妨げられるという研究結果もあります*5。
◆生態から考える飲食店のゴキブリ対策
ここまでゴキブリの生態についてご紹介してきました。卵は一般的に想像する形とは異なり「卵鞘」という形で落とされること、メスは生涯に多くの産卵を繰り返すこと、30℃~35℃の環境を最も好むことです。
20℃以下の環境では活動は弱まりますが、飲食店の場合、冬場でも暖房は使いますし、厨房では火を使う以上そこまで低温状態を維持するのは難しいことでしょう。
よってまず一般的な対策=厨房の衛生を保つ、排水口に蓋をするなど侵入経路を塞ぐ、潜伏場所になりやすい隙間を与えないよう、什器の間はコーキング材で塞ぐ、といったことは必須です。
また、段ボールの中を好むため、物品や食材の仕入れ時には注意しましょう。
駆除にはベイト剤(毒餌)が有効ですが、置き型の場合、それよりも魅力的な餌(食べ物の残りかすなど)があると意味がありません。専門業者の場合は置き型ではなく直接塗布するベイト剤を使いますので、より効果的です。
日頃から基本的な対策をとっておき、幼虫が見つかるなど繁殖が活発になっていそうな場合には業者に委託する、そのような形がベストかもしれません。
飲食店開業応援マガジン[RESTA(レスタ)]編集部
*1 「ゴキブリ -台所のオジャマ虫を退治しましょう-」名古屋市
*3 「ゴキブリはメス集団だけで生き延びる」北海道大学
*2、4 「PCOシリーズ4 不潔の象徴 ゴキブリ」東京都ペストコントロール協会
*5 「ゴキブリ 4 種の発育と増殖の遅延, 特に温度の影響について」J-STAGE
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