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低価格、同一価格が生み出す安心感。すし居酒屋の人気は衰え知らず。

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十九弾
「すし酒場」というニューウェーブ 後編

 
最近、出店事例が相次いでいる「すし酒場」の後編は「鮨・酒・肴 杉玉」(以下、杉玉)である。1号店は、2017年8月にオープンした西宮北口の店舗(兵庫県)で、今年8月末段階で23店舗(関東14店舗、関西9店舗、うちFC2店舗)となっている。
2018年3月にオープンした「杉玉」神楽坂店。同店より同業態の存在感が増していった【2018年3月にオープンした「杉玉」神楽坂店。同店より同業態の存在感が増していった】
 

低価格均一によって「安心感」をもたらす

筆者は、8月26日にオープンしたばかりの鶴ヶ峰店(35坪程度)を訪ねた。場所は横浜駅から相鉄線で約15分程度のローカルである。
 
まず11時30分に訪ねたところ、ランチを楽しみにする中高年の人々が列をつくっていた。しかしながら、従業員から「ランチは9月2日からです」という説明があって、大層残念そうに店を後にしていた。
「杉玉」のメニュー表(関東版)。ユニークで興味が引かれるものが多い【「杉玉」のメニュー表(関東版)。ユニークで興味が引かれるものが多い】
 
夕方19時ごろ再度訪ねたところウエーティングの状態で、従業員は「今、お席の用意をしています」と説明して、10分程度で5組が入店していた。この時間帯で店が1回転しているということだ。客層は老若男女、若いカップル、ベビーカーを押した若いファミリー、親子三世代とさまざまでにぎわっている。40年ぐらいに勢いを増した郊外のファミリーレストランの様相によく似ていた。
 
「杉玉」の特徴は、メニューのほとんどが「299円」となっていること。これは母体が回転すしを主力としていることから生まれた発想であろう。低価格同一価格なので、価格を気にすることなく注文することができる。メニューは茶豆、アジフライといった大衆居酒屋定番のおつまみを30品程度ラインアップしている。
 
すしは「極み寿司」と「王道寿司」と二つのカテゴリーが設けられている。
極み寿司は「雲丹といくらのこぼれ軍艦」(一日限定10食)をはじめ、高級ネタを使用した1貫の「赤海老 他人の子持ち」「キャビア寿司」「ホタテの雲丹炙り」などが7品目、2貫で「飲めるサーモン」「えんがわの昆布〆炙り」をはじめ4品目をラインアップしている。
「杉玉ポテトサラダ」は提供方法からして記憶に残る
【「杉玉ポテトサラダ」は提供方法からして記憶に残る】
 
王道寿司は一般的なすし店のメニューで構成され、「欲張り三貫」として5品目、「王道三貫」17品目、「厳選二貫」7品目、「特選一貫」5品目、「中太巻き寿司」5品目となっている。特選一貫は、生うに、穴子一本、あわび、本鮪大とろ、本鮪大とろ炙りとなっている。極み寿司の商品とネーミングは遊び心に満ちていて、王道寿司はまさに伝統的なすし店のメニュー構成である。
 

〝直球″と〝変化球″のメニューが記憶に残る

サイドメニューの内容もありきたりではない。象徴的なものにポテトサラダとシュウマイが挙げられる。
「雲丹醤油で食べるシュウマイ。」は遊び心を感じさせる【「雲丹醤油で食べるシュウマイ。」は遊び心を感じさせる】
 
まず、「杉玉ポテトサラダ」と名付けられたメニューは半熟に近い卵黄をボール状にしたポテトサラダに中に入れ、周りにあおさなどをまぶすことで外見を杉玉に模している。お客はそれを皿の上で崩して食べる。「雲丹醤油で食べるシュウマイ。」はシャリ玉の形にしたシュウマイの上にエビ、イカ、ウナギをのせて蒸しあがったものを提供する。これらはお客の記憶に残り口コミとなることであろう
 
フロアスタッフは基本的に若い女性が担当するようだ。カジュアルレストランのような高度な接客をしないが、お客からユニークなメニュー名の内容を尋ねられるとそれに答えるという具合に、お客とのコミュニケーションを保っている。奥ゆかしさを感じるふるまいが安心感をもたらしている。
 
筆者の会計はここでも2800円台で収まった。これは大衆マーケットを捉えた業態と同じレベルのものだが、「杉玉」で得た満足感は数段高いものと感じた。
ランチタイム限定10食の「舟盛り丼」990円(税込)はコスパが高くインスタ映えもする【ランチタイム限定10食の「舟盛り丼」990円(税込)はコスパが高くインスタ映えもする】
 
「杉玉」では、改めて「すしは外食の王様」ということを感じた。ただし、「あきんどスシロー」というすしの王道の会社が〝直球″で勝負していてはお客の心には響かない。「杉玉ポテトサラダ」や「雲丹醤油で食べるシュウマイ。」、また「極み寿司」に象徴される遊び心満載の〝変化球″がお客の興味をかきたてて、記憶に残る店となるのであろう。
 
今回の前編、後編で「や台ずし」「杉玉」と紹介したが、いみじくもこの2つのブランドが「すし酒場」が隆盛した理由と、これからのアピールの仕方を物語っている。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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