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物語コーポレーションが都心に進出、業態合体で圧倒的な目的来店をつくる

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第七十七弾

 
株式会社物語コーポレーション(本社/愛知県豊橋市、代表/加藤央之)が、その成長の勢いを増している。同社の2024年6月期の売上は1071億5600万円であったが、25年6月期は、対前期113.4%の1215億3400万円を計画している。
 
筆者は同社のことを1990年代の旧株式会社げんじの当時から注目していた。同社が大きく成長拡大路線に舵を切ったのは、95年12月郊外ロードサイドに「焼肉一番カルビ」(いまはない)を出店したことが、その始まりと見ている。そして、同社は97年6月「物語コーポレーション」に社名を変更。FC展開を行うようになり、さらに「丸源ラーメン」「お好み焼き本譜」「寿司しゃぶしゃぶ ゆず庵」と業態を増やしていった。
 
同社のこのような業態ポートフォリオは、それぞれの業態が苦境に立たされたときに、補完するような役割を果たしてきた。例えば、2001年(日本)と2003年(アメリカ)に発生したBSE(狂牛病)によって焼肉分野は苦戦を強いられたが、それをラーメンが補ったという具合である。
 
こうして、同社は郊外ロードサイドをメインに各種専門店を展開して、それぞれ圧倒的な店舗数を築くようになった。2024年12月末のデータでは、焼肉業態1位(339店舗)、ラーメン業態2位(226店)、すし・しゃぶしゃぶ業態3位(101店舗)、お好み焼き業態3位(101店舗)となっている。
 

郊外ロードサイドの繁盛業態が都心に進出

物語コーポレーションの各業態は郊外ロードサイドで強さを発揮してきたが、近年、都心のビルインに出店する事例が見られてきている。
 
その端緒は「焼肉きんぐ」で、2022年5月にオープンした東京・浅草ROX。その後、神奈川・川崎東口、東京・池袋、中目黒を展開している。また、「ゆず庵」は初の都心ビルインを2024年11月秋葉原に出店した。
 
この2つのブランドが、6月25日、30日と、同じビルの1フロアに中に、隣り合わせで出店した。前者は「ゆず庵」、後者は「焼肉きんぐ」である。これらの郊外ロードサイドの既存店は、みな100坪あたりの大型店である。100坪規模の隣り合わせという物件をよくぞ見つけたと思う。
 
「ゆず庵」の店内、「ゆず庵」96.35坪で124席(31卓)。配膳ロボットが動きやすいフロア構成【「ゆず庵」の店内、「ゆず庵」96.35坪で124席(31卓)。配膳ロボットが動きやすいフロア構成】
 
この物件は新宿西口の大ガードの隣のビルの6階、以前スポーツジムが入居していたスペースである。「ゆず庵」96.35坪で124席(31卓)、「焼肉きんぐ」は115.28 坪で130席(26卓)。記者発表の時に、両方の店舗をつなぐ扉を開放して公開されたが、圧巻の広さで、また作業動線が整っていることに感銘を受けた。
 
ちなみに、「ゆず庵」「焼肉きんぐ」ともに食べ放題で100分の時間制、オーダーはタッチパネルでテーブルバイキングである。
「ゆず庵」のメニューは、店名の冠のとおりに、すしとしゃぶしゃぶがメインで、コース別に、豚しゃぶしゃぶ・すし、牛しゃぶしゃぶ・旬のすし・天ぷら、黒毛牛しゃぶしゃぶ・上すし・上天ぷらを、タッチパネルで選ぶ形。
 
「焼肉きんぐ」の場合、主として肉のグレード別に3つのコースに分けられている。メニューの中には「五大名物」という「おすすめメニュー」が存在、それは「きんぐカルビ」「炙りすき焼カルビ」「壺漬けドラゴンハラミ」「ねぎポンで食べる大判サーロイン」「厚切り上ロース~ガリバタ醤油」というもので、これは「きんぐコース」「プレミアムコース」で食べることが出来る。さらに、それぞれ特典を付けて、それぞれのグレードを保っている。また、幼児は無料で、幼児向けのメニューを豊富にしている。
 
これまで郊外ロードサイド一本で展開していた当時、価格はメニューのグレードや品数で3タイプに分けられて一本化されていた。それが、都心に出店するようになって、「都市型価格」を設けた。また「焼肉きんぐ」は都心に近い住宅地にも出店していて、「準都市型価格」も設けている。
 
それぞれの価格をここで紹介しよう(税込価格)。
■ゆず庵
・郊外ロードサイド
お手軽コース:2948円、季節のゆず庵コース:3608円、贅沢コース:4708円
・都市型価格
お手軽コース:3278円、季節のゆず庵コース:3828円、贅沢コース:4928円
おすすめコース(秋葉原店、新宿西口大ガード店限定)
和牛食べ放題贅沢コース:7678円
*すべて、幼児無料、小学生半額、65歳以上500円引き
■焼肉きんぐ
・郊外ロードサイド
58品コース:3168円、きんぐコース:3608円、プレミアムコース:4708円
・準都市型価格
58品コース:3278円、きんぐコース:3380円、プレミアムコース:4380円
・都市型価格
58品コース:3498円、きんぐコース:3938円、プレミアムコース:5038円
*すべて、幼児無料、小学生半額、60歳以上500円引き
*きんぐコースの特典は「五大名物」「裏メニュー」「期間限定」
*プレミアムコースの得点は「特選」「国産牛」「五大名物」「裏メニュー」「期間限定」
「ゆず庵」の「和牛食べ放題贅沢コース」
 
「ゆず庵」のメニュー、すし、しゃぶしゃぶ、天ぷらはじめ、和食のご馳走がそろう【「ゆず庵」のメニュー、すし、しゃぶしゃぶ、天ぷらはじめ、和食のご馳走がそろう】
 

目的来店の業態が2店つながった「250席」の圧巻

「焼肉きんぐ」「ゆず庵」ともに、時間制食べ放題のオペレーションの中に、ロボットを導入することで提供方法の効率化を図っている。「焼肉きんぐ」では、配膳ロボットを2021年1月から順次導入していて、また、特急レーンを21年3月から導入している。新宿西口大ガード店では特急レーンを採用している。
 
「焼肉きんぐ」の店内、115.28 坪で130席(26卓)。全テーブルに特急レーンで商品が届けられる【「焼肉きんぐ」の店内、115.28 坪で130席(26卓)。全テーブルに特急レーンで商品が届けられる】
 
このように接客を効率化することによって、「焼肉きんぐ」「ゆず庵」ともに「おせっかいマスター」という人材を店内に配置している。それは、「焼肉きんぐ」の場合は「最適の焼き加減の、おいしい状態で食事をしていただく」とか、「ゆず庵」では「お客様に最高のサービスを提供する」といった、ハイタッチのサービスを行う存在である。
 
要するに、店内フロアの作業の中で、単純作業はロボットが担い、感情労働を人が担ってそのホスピタリティのクオリティを充実させるということだ。
 
「焼肉きんぐ」の「おせっかいマスター」。すべての客席への目配り、気配りが充実している【「焼肉きんぐ」の「おせっかいマスター」。すべての客席への目配り、気配りが充実している】
 
 
「焼肉きんぐ」「ゆず庵」ともに、これらの内容がパッケージとなった、いわば「テーマパーク」的な存在感を発揮しているということが、業態の持ち味となっているのであろう。これらの既存店を訪ねてみると、お客の食事を楽しむ「熱気」が存在している。
 
「食べ放題」の店が2つ並列して営業することで、カニバリが生じるのではないかという懸念を抱く人もいるだろう。しかしながら、「食べ放題」「ゆず庵」ともに、主要客層は絶妙に異なっている。具体的には「焼肉きんぐ」は20代がメイン、そして小さな子供連れの若いファミリー。「ゆず庵」は、それより若干年齢層が上、という具合。
 
いずれにしろ、この2つの店とも目的来店の店で、客単価が高いとは言え、それを容認して来店している。この2つの店で「250席」を超える「新宿西口大ガード店」は、これから「新宿の名物」となっていくことであろう。
 
「焼肉きんぐ」のメニュー。グレード別に3つの価格帯が設けられていることから、リピートするのが楽しい【「焼肉きんぐ」のメニュー。グレード別に3つの価格帯が設けられていることから、リピートするのが楽しい】
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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