飲食店開業成功者インタビュー VOL.5「No Code」飲食オーナーシェフがもつべきポテンシャルと独立の覚悟/米澤文雄シェフ
月に10~13回、ディナーのみ営業スタイル
NY星付きフレンチレストランでのスー・シェフの経験をもち、帰国後は都内のレストランの料理長を歴任。ビーガンメニューをいち早くダイナミックなメニューとして昇華し、炭火焼きステーキレストランのグランドメニューに取り入れ、ついにはレシピ本も発行。他店のシェフたちがビーガンメニューの参考に購入するなど、東京のレストランシーンの先をゆく米澤文雄シェフ。
満を持してのお店は、西麻布の路地を入ったビルの2F。初めて訪問する際には、迷うこと間違いなしの場所。それでも、お客様の来訪には影響なし。米澤シェフの考え方には、古きよき努力の思考と、これから求められる軽やかなシェフ像を感じました。聞き手は、飲食店の経営も手がける、編集責任者の川瀬亮太(ルーテージ株式会社)。
―本日はよろしくお願いいたします。さまざまな分野でご活躍の米澤シェフですが、独立しオープンされたこちらのお店「No Code」のコンセプトについてお伺いしてよろしいでしょうか。
(米澤さん)はい、今回はカウンター8席のお店で、月に10~13回のディナー営業のみのスタイルとさせていただいています。基本的には完全予約制のおまかせコースですが、21時以降はアラカルト対応もしています。今のところ、紹介のお客様を中心にご予約をいただいているというのが現状です。
―営業日がかなり絞られているんですね。
(米澤さん)そうなんです。今回のオープンに際し、国内外に旅をして、自分自身にインプットをする時間を作ろうと思ったのが、一番の理由です。ほかにも、有難いことにプロデュース業やメニュー開発、イベントへのお誘いなどをいただくため、それらの業務を行うスケジュールも踏まえると自分が確実に厨房にたてる日数を考慮しました。
―勇気のいるコンセプトですよね。それでも、オープンからお客様に受け入れられた理由をどうお考えですか?
(米澤さん)まずは、今までの自分のお客様ときちんと繋がっているという点でしょうか。オープン時から現在までもそうですが、インスタのDMをはじめ、各種SNSで直接予約がはいるんですね。なので、特に広告系の予約サイトを使う必要がないんです。お席に余裕がある場合も、自分のSNSで発信できますし。カウンター席からはすべてキッチンが見渡せる状況なので、来店していただいたお客様ときちんとコミュニケーションを図ることができます。そこで、同行の新しいお客様へのアプローチもできます。
―今回の物件との出会いを教えていただけますか。
(米澤さん)この物件に出会うまでには、いくつかリサーチをかけていました。条件での優先順は、サイズですね。サイズの次に、立地です。自分が知っている土地であることが重要です。その場所にお店を作ることで、今までのお客様がスムーズに来店いただくことができるかということを念頭において、物件探しをしていました。
そんな中、この物件と出会うわけなんですが、もともとは、1F、2Fと配達用のレストラン厨房として運営されていた場所でした。オーナーとの付き合いがあったことから、2Fの場所を紹介されました。そのときに、知人であっても条件面の交渉は大切なのでしっかりとしましたね。結果、スケルトンの状態に戻してもらってから契約をしました。西麻布という立地に加え、広さがちょうどよかったというのが決め手です。
―独立の際に、事業計画書は作成されましたか。
(米澤さん)もちろんです。僕の考えですが、事業計画書は最低でも3回は書き直しをした方がいいと思います。 事業計画書って、資料というか机上の空論なんですよ。エクセルできれいに数字がそろうことで満足してしまいます。いわゆる、自分の理想で。「これでいける」と思ってから「いや、本当にいけるか?」と何度も突っ込み、ダメになるシチュエーションを考え、ブラッシュアップをすることをおすすめします。こんなことをいうのもなんですが、勢いとノリだけで、進めてしまう人が、オープン後に苦しむことになると思うんです。売り上げに対して、人件費が重くなってきたり。
―このサイトの読者はこれから独立を目指す方も多いのですが、米澤さんからシェフ目線のアドバイスはありますか?
(米澤さん)まず、シェフ経験がないのに、独立するのはおすすめしません。いわゆる、調理スタッフ経験のみで独立してしまうパターンですね。なぜなら、指示を受けて働いていた立場から、突然人に指導するというのは、思っている以上に大変なんです。現場のメニュー開発、試作、原価計算、スタッフ管理に加え、オーナーになると、様々な契約や、支払い業務も発生します。前職が大手であればあるほど部署がわかれていて、プロフェッショナルな担当によりスムーズに進んでいたことが、人事も含め、すべて自分に降りかかってくるんです。
―やはり、圧倒的に経験値が大切ということですね。
(米澤さん)時代的に言いづらい部分もありますが、若手のころは「寝る暇を惜しむ努力」をしてほしいです。無理ができる時期は限られます。体力も気力も。でも、どれだけ、若い時期にどん欲に知識を詰め込み、経験を積んだかが後々響いてくるんですよね。雇われシェフは、もしかしたら自分の目指すことがすべて形にできないかもしれません。でも、お給料をいただいているわけで。ある意味、お金をいただきつつ、勉強をさせてもらえる状況なんです。メニュー試作の費用をはじめ、集客の広告も、メニューブック作成もすべてお金がかかります。そこの費用リスクがなく、お店のためのチャレンジをさせてもらえるというのは、とてもありがたい環境だということを認識してほしいです。
―たしかにそうですね。その上で、独立する前にお客様にファンになってもらわないとですよね。
(米澤さん)はい、もちろん企業に属してはいるものの、常連の方とのコミュニケーションやシェフとして取材を受ける際などは、きちんと自分の個性を出すべきだと思います。僕は、今、お店をもちながらいくつもの外部コンサルやメニュー開発などを行っていますが、営業をしたことはありません。すべて人脈からのオーダーや紹介などなんです。よく、「どうしたら、そういう仕事が入ってくるんですか?」と聞かれたりしますが、いつも「お仕事をいただいた際に、期日を守る、相手が望む以上のアイデアなどを提供するだけ」、としか言えないんですね。取材にきていただいた制作スタッフの方に、「あ、あのシェフは返事がはやいな」とか「また何かお願いできそうかも」と思わせる行動や言動は必要です。それをしていない方が多い気がしています。取材を一回きりの出会いで終わらせないことが大事だと思います。
お店の売り上げがあがることが圧倒的に大事
―今日も出張先に京都から帰京されたばかりと伺いました。大忙しですね。
(米澤さん)2023年は月に一度は国内・海外問わず旅にでていました。お仕事で呼んでいただいたこともあれば、完全なプライベート旅行も含め。かなりインプットを行った年だったと思います。なので2024年はもう少しお店のオープン日程を増やすつもりです。インプットした情報を料理はもちろんコミュニケ―ションにおいてお客様にアウトプットしていけたらと思っています。よく、コンサルというワードだけで、すごく儲かるイメージをもたれがちですが、大半はオープンコンサル、メニュー開発、イベントなど一過性のものが多いんです。そもそも、お店のシェフが本業なので、こちらとしても時間的制約は少なく契約を結びますし。僕がお受けする基準は条件面ではなく、どれだけワクワクが詰まっているかということにつきますね。
―来年の米澤シェフも楽しみです。最後にお店を成功させる秘訣についてアドバイスを。
(米澤さん)とにかく、心に余裕がないといいものは生み出せません。料理も接客もすべて。カウンタースタイルでは、お客様がどんなバックグランドなのか、何を求めているかによって会話も変えないとリピートには繋がらないと思います。そのためには、いかに視野を広く経験を積んでいるかがポイントになるのではないでしょうか。
―とても参考になるインタビューでした。本日はお忙しい中ありがとうございました。
米澤文雄
株式会社No Code 代表取締役
1980年東京都生まれ。22歳で単身ニューヨークへ。インターンを経て、ミシュラン3つ星店「Jean-Georges」で日本人初のスー・シェフに。帰国後「Jean-Georges Tokyo」のオープン料理長に就任。2018年青山一丁目「The Burn」をプロデュースし、料理長として腕をふるう。2022年に株式会社No Codeの代表として、西麻布に「No Code」を開業。国内外のフードプロデュースなど業務は多岐にわたる。
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