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職場の熱中症対策が義務化 飲食店が具体的に取るべき措置とは?

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2025年6月1日から、職場の熱中症対策が企業に義務付けられました。このところ熱中症での死傷者は増加傾向にあります。職場での熱中症で死者が発生するケースも多く、そのうち9割以上は初期症状の放置や遅れが死亡に至った原因だという統計もあります。そこで今回の対策義務化は、熱中症のおそれがある人についての連絡・報告体制を決めること、熱中症のおそれがある人の重篤化を防止すること、この2つがメインになっています。
 

◆飲食店には高温になる要素がたくさん

飲食店では、ほとんどの業態で熱中症のリスクがあると言っていいでしょう。ラーメン屋では常に大量のスープを炊き続けていますし、イタリアンでも常にパスタを茹でるための湯を沸かし続けたり、ピザ釜といった大きな熱源があります。厨房が高温になるだけではありません。中華料理店では、従業員は強力な火の前で重い鍋を振る力仕事が必要ですし、焼き鳥屋では熱い焼き台の前での長時間の仕事、といった高温下でかつ体力を使うのが日常です。室内ながら、熱中症になりやすい環境です。
 

◆義務化の具体的な内容

まず、今回の義務化の具体的なポイントは以下のようになっています。義務化に違反した場合は、6か月以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金が科されることになっています。
 

熱中症対策義務化のポイント
(出所:厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」 p4
 
対象となる労働環境は定められていますが、詳細は後述します。まず、上記のポイントについて詳しく見ていきましょう。
 
1つ目、2つ目の項目に共通しているのは、いずれも「熱中症のおそれがある従業員を発見した時の、速やかな報告ルートの作成と関係作業者への周知」という点です。重篤化の防止のための行動や連絡経路を確立することです。熱中症の従業員が発生した時、初期対応をしつつ誰にどんなルートで連絡するのかをあらかじめ決めておく必要があります。
 

◇初期対応が生死を分ける

実は、熱中症による死亡の理由は「初期症状の放置・対応の遅れ」がほとんどなのです。
 

熱中症による死亡の原因
(出所:厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」 p1
 
初期対応の大切さがわかります。では、具体的にはどのような初期対応をすれば良いのでしょうか。
 

◇初期対応、具体的にはどうすればいい?

今回、厚生労働省は、熱中症のおそれがある人を発見したときの行動フローの事例を示しています。
 

熱中症のおそれがある人への対応フロー
(出所:厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」 p5
 
上のフローでは確認事項として「意識の以上の有無」「自力での水分摂取の可否」が判断材料になっています。しかし判断が難しい場合には熱中症を甘く見ず、必要に応じて救急車を呼ぶことは常に頭に入れておきましょう。あるいは救急相談センター「#7119」にダイヤルしましょう。状況を伝えると医師や看護師といった専門家が救急車の要・不要を24時間365日体制で判断してくれます。
 

◇事前にできそうなこと

さて、このフローがわかったところで、初期の初期といえる対応をすぐ取れるように、
 
・移動させられる涼しい場所
・体を冷やすために使える氷嚢(凍らせたペットボトルも有効と筆者は考えます)
・経口補水液
 
を、常に確保しておくと良いでしょう。また、衣服をゆるめるという対応も必須です。
 

◆「暑さ指数」について

そして今回の義務化を守るにあたって、「WBGT」という暑さ指数を知る必要があります。厚生労働省は今回の義務化の対象環境として「WBGT値」を採用しています。これは暑熱環境による熱ストレスを評価する指数です。WBGT値は実際の「気温」とは異なり、人間の熱バランスに影響が大きい気温、湿度、輻射熱といった要素から算出されるもので、
 
・屋外:WBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
・屋内:WBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
 
で、算出されます。ただ、これだと少しややこしいので、気温と湿度でWBGT値を把握できる表があります。参考にしてみましょう。
 

WBGTと気温・湿度の関係
(出所:日本生気象協会「「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3確定版 p3
 
今回、厚生労働省は対策義務の対象を、
 
・WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で、
・連続1時間以上または1日4時間を超えて実施することが見込まれる
作業、と定めています。
 
WBGTが28度を超えると熱中症患者の発生率が急増することがわかっていますので、それがひとつの目安といえるでしょう。日々この表をチェックし、警戒度が高い日は従業員に周知しましょう。
 

◆飲食店で必要な熱中症対策

では、飲食店で必要な熱中症対策をご紹介していきます。飲食店で最も熱中症に関係がありそうなのは、誰もが思いつく厨房でしょう。火や熱を発する機器、また食器や機器の洗浄のために水を使い続ける厨房は高温多湿になりがちです。こうした環境で熱中症を防ぐポイントを、①設備と②個人の心掛けの点から見ていきましょう。
 

◇①設備-1:厨房内の機器で環境を緩和する

厨房の場合、排気・換気によって空気の流れを起こし、熱気を取り去ることをメインに考えましょう。以下、有効と考えられる対策をご紹介します。まずは機器の選定です。フライヤーなど厨房機器では、東京ガスや大阪ガスなどが「涼厨®︎」というシリーズを出しています。これは厨房機器が発する熱を低減化し、厨房内を涼しく快適にする厨房機器です。
 

「涼厨®︎」の特徴
(出所:東京ガス「涼しいガス厨房機器「涼厨」
 
厚生労働省が策定した「大量調理施設衛生管理マニュアル」で推奨される厨房温度25度以下を実現しやすくするとされています。
 

◇①設備-2:排気を妨げないための清掃

排気口にグリスフィルターをつけている厨房は多いかと思います。グリスフィルターに付着した油は排気の妨げになりますので、こまめに清掃して厨房内の空気の流れを守りましょう。
 

◇①設備-3:冷房機器の導入

他には、スポットクーラーや気化式冷風機の導入です。ただ、両者には違いがあります。スポットクーラーはエアコンと同様に外気を取り込み、それを冷却したものを送風するものです。強力な冷風を送り出すことができますが、一方で発生した熱を排出するダクトを設置できる場所があるかどうかが問題になります。
 
一方で気化式冷風機は内部の貯水タンク内の水を冷却し涼しい空気を送るものです。ただ冷気の勢いとしてはスポットクーラーほどにはなりません。ただ、特定の場所を冷やすのには良いでしょう。ですので、スポットクーラーを利用できる環境であれば設置するのも良いですし、気化式冷風機をサーキュレーターと共に使用するという冷房の導入方法が考えられます。家電店で体験してみると良いでしょう。
 
では、以下は個人で取れそうな対策をご紹介します。
 

◇②個人-1:休憩時間の配分

今回の対策義務には、一定以上のWBGT値のもとで「連続1時間以上または1日4時間を超えて実施することが見込まれる作業」という、業務継続時間が盛り込まれています。この規定に沿うように、休憩時間を細かく設定し、かつ暑さから逃れられる休憩スペースを確保しましょう。
 

◇②個人-2:服装の工夫

コックコートは耐熱性が高く火にも強いという理由からよく利用されますが、逆に衣類の中に熱を溜め込みやすいという特徴もあります。そこで、熱を溜め込みにくい、通気性の高い素材のものもありますので積極的に導入しましょう。最近は冷感効果を持つインナーウェアも売られていますので積極活用したいところです。
 

◇②個人-3:こまめな水分補給

そして絶対的に必要なのが水分の補給です。一定の時間おきに必ず水分補給するよう厨房に張り紙をする、くらいの注意喚起が必要です。
 

◆お客さんにも配慮を

熱中症は、事前の対策と早期発見、直後の対応が何よりも大切です。労災にもつながりかねない症状や後遺症を残したりする可能性もあります。また、お客さんにも配慮が必要かもしれません。アルコールを摂取した状態では脱水症状が起きやすく、冷房の効いた店内と、暑い店外とのギャップで熱中症を起こす可能性があります。その点をお客さんにも周知できるとなお良いでしょう。暑い夏でも、いや暑いからこそ美味しい料理で元気を出す。そんな店作りのために、様々な努力を怠らないようにしたいものです。
 

清水 沙矢香(しみず・さやか)

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。
 

 

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