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パート・アルバイトへも社会保険の適用拡大 人手不足を防ぐために助成金を上手く活用しよう

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2024年10月から、従業員51人以上の企業では一定の基準を満たすパート・アルバイトにも社会保険への加入が義務付けられました。飲食店にとっては保険料の負担が増えるだけでなく一方で、中には保険料の天引きを避けるために勤務時間を短くしたいと考えているパート・アルバイト従業員も多く、人手不足という問題も生じてしまいます。こうした問題を防ぐにはどうすれば良いか、制度の詳細とともに解説していきます。
 

◆「従業員数51人以上」の数え方は?

「従業員」といっても正社員・パート・アルバイトなどがありますが、今回は下のようにカウントします。
 

「従業員数」のカウント方法
(出所:厚生労働省リーフレット
 
ここでいう「従業員数51人」というのは、フルタイムで働く人に加え、週の労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員で、つまり現在厚生年金の対象になっている人の数ということになります。そして、今回加入が義務となるのは、下の条件全てに当てはまる人です。
 

新しく社会保険の加入が義務づけられる人
(出所:厚生労働省リーフレット
 
なお、上でいう「所定内賃金」には、基本給に諸手当が含まれます。ただ、通勤手当・残業代・賞与等は含まれません。
 

◆社会保険適用拡大で「働き控え」も

しかし、パート・アルバイト従業員の社会保険への加入には「106万円の壁」「130万円の壁」と呼ばれるものがあります。
 
「106万円の壁」というのは、配偶者などの被保険者の扶養から外れて社会保険に加入しなければならない年収、「130万円の壁」というのは、扶養から外れ国民健康保険か社会保険に加入しなければならない年収の目安です。
 
保険料の天引きで手取りを減らしたくないパート・アルバイトの場合、これらの金額を超えないように働く時間を調整している人も少なくありません。
 
マイナビバイトの調査によれば、今回の社会保険適用拡大について説明したところ、対象の従業員の反応は下のようなものでした。
 

新しく社会保険への加入が義務付けられる従業員の反応
(出所:「【働き控えを防ぐために】2024年10月改正の社会保険適用拡大にあたり、人事・店長が従業員に説明すべきこと」株式会社マイナビ
 
「手取りが増える労働時間数まで働くことを希望」する人が多かったという結果です。しかし全体の33.7%は「保険料で手取りが減らない労働時間数で働くことを希望」しています。「106万円の壁」「130万円の壁」を超えて給料から保険料を天引きされないように、働く時間を減らそうというわけです。
 

◆飲食店における人手不足の深刻さ

このような「働き控え」は、人手不足に直結します。もともと飲食店は人手不足が深刻な業種です。帝国データバンクによれば、2024年4月では飲食店の人手不足の割合は74.8%と、若干の改善は見られるものの高い水準で、かつ他業種より最も多くなっています。
 

業種別の人手不足の割合
(出所:「人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)」帝国データバンク
 

人手不足の行き着く先〜「人手不足倒産」も

そして慢性的な人手不足は倒産に繋がりかねません。人手が足りないために事業を継続できなくなる「人手不足倒産」の存在が以前から指摘されています。
 
同じく帝国データバンクによれば2024年上半期の「人手不足倒産」は過去最多を更新した2023年度を上回り記録的なペースとなっており、飲食店で大幅に増えているといいます。*1
 
*1 「人手不足倒産の動向調査(2024 年度上半期)」帝国データバンク
 

◆助成金や支援制度の活用で人手不足を防ごう

そこで、助成金を活用したいものです。
 
社会保険の適用拡大にあたって使えるのが、まず厚生労働省の「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」です。
 
「手当等支給メニュー」「労働時間延長メニュー」および、それらの「併用メニュー」があります。
 

1)手当等支給メニュー
まず手当等支給メニューは、パート・アルバイトなどの従業員に新たに社会保険を適用させるために助成金が支給されるというものです。3年間にわたり異なる要件が定められています。具体的には以下のようなものです。
 

社会保険適用時処遇改善コース「手当等支給メニュー」の内容
(出所:厚生労働省リーフレット
 
1年目、2年目は、対象者が社会保険に加入することによって手取りが減らないように、賃金の15%以上を対象者に追加支給することで、対象者1人あたり年間20万円の助成金が出るというものです。
 
3年目は追加支給額を賃金の18%に増額させることで、年間10万円が支給されます。労働時間を延長することで実質的に賃金を上げるという方法でもOKです。
 

2)労働時間延長メニュー

こちらは文字通り、今回の社会保険適用拡大の対象とならない人であっても労働時間を延長することで社会保険に加入させる場合、延長した時間に応じて対象者1人あたり最大30万円が助成されるというものです。
 

社会保険適用時処遇改善コース「労働時間延長メニュー」の内容
(出所:厚生労働省リーフレット
 

3)併用メニュー

上記の2つを組み合わせるのが併用メニューです。1年目に手当等支給メニューを、2年目に労働時間延長メニューを行った場合に、対象者1人あたり2年間で最大50万円の助成金が支給されます。
 

社会保険適用時処遇改善コース「併用メニュー」の内容
(出所:厚生労働省リーフレット
 
これらはいずれも、パート・アルバイト従業員が社会保険に加入しても、それまでと同じ賃金を維持できるような時限措置です。
 
なお、いずれの助成を受けるにも「キャリアアップ計画書」を提出しなければならないことに注意が必要です。こちらのリンクに書式があります。「キャリアアップ」と聞くと難しい計画を立てなければならないのでは?と思われるかもしれませんが、そうではありませんので必ずチェックしてください。
 
この制度を上手に活用すれば、「これまでと同じ、あるいはそれ以上の時間働くことができて、手取りは減らないようにしたい」と考える働き手にとっては魅力的な職場となり、離職防止や新しい人材の確保に繋がることでしょう。
 
なお、この助成金の窓口や問い合わせ先は各都道府県のハローワークです。まず問い合わせてみてはいかがでしょうか。
 

清水 沙矢香(しみず・さやか)

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。
 

 

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