開業ノウハウ

飲食店の厨房にグリーストラップ「グリスト」を設置する義務や必要性はあるのか?

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飲食店を開業する場合、日々の営業から生じる排水中の生ごみや油脂などをどのようにして処理をするのかについて必ず考慮しなければなりません。特に、飲食店の場合、一般家庭での料理と比べると排水中の生ごみや油脂の量は多くなります。このような排水をそのまま排水管に流してしまうと、排水管の中に油脂が固まってしまい詰まったりすることや、自然環境への悪影響なども考えられるので、飲食店の業務用厨房においては、これらの問題を解決するための設備であるグリーストラップ「グリスト」が活躍することになります。ここでは、グリーストラップとは具体的に何なのか、その構造と仕組み、種類、必要性、設置義務や清掃基準などグリーストラップについてのあれこれを解説していきます。
 


 

◆グリーストラップ「グリスト」とは?

グリーストラップとは、飲食店などの業務用厨房に設置する油脂分離阻集器(建設省告示第1597号)で排水中の生ごみや油脂などを直接下水道に流さないために一時的にためておく設備です。略して「グリスト」と呼ばれることもあります。また、グリーストラップの英語表記は、「Grease Trap」です。Grease(油)に対してTrap(罠)を仕掛けて流出を防ぐ構造の意です。グリーストラップの具体的な構造や仕組みについては、後ほど説明をしますが、このような設備が設置されていることで、排水管の詰まりや環境汚染のリスクを抑えることができるのです。なお、排水には下水道に流してもよいとされる水質基準があるので、グリーストラップを設置しないと水質基準を満たすことができなくなる可能性があります。
 
参考:建設省告示第1597号|国土交通省
 

◆グリーストラップの構造と仕組み

グリーストラップの構造は、1つの槽をスライド板で3つに分けた3槽構造となっています。それぞれの漕にて機能を果たすことで、排水中の油脂や生ごみなどを直接下水道に流すことなく排水がされます。
 
次に、それぞれの漕ごとにどのような機能を果たしているのかを説明しています。
 
・1漕目
排水中に混ざっている生ごみなどを取り除きます。大きな生ごみなどは金網のバゲットで受け止め、細かいものなどは沈殿させます。2漕目に流れてしまうのを防ぎます。
・2漕目
水面に浮上する油脂と沈殿する汚泥を分離させます。3槽目に流れてしまわないように上部のスライド板で止めます。
・3漕目
ある程度、油脂や沈殿物など分離してそれらの含有率が低い状態で槽の下部にあるパイプのトラップ管より下水道へ排水します。
 
グリーストラップの重要な役割を果たす主要な部分は以下のとおりとなります。
・バスケット:排水中の生ごみなどを集積させるためのもの。
・スライド板:槽の中の仕切り板の役割を果たすもの。
・トラップ管:油脂を取り除いた水を下水道へと流すためのもの。
・蓋:臭いの拡散を防いで人が落下するのを防ぐためのもの。
 

◆グリーストラップの種類

グリーストラップの種類は大きく分けると地中埋設型と床置き型の2つの形態があります。
 

◇地中埋設型

地中埋設型は、厨房などの床下に埋めこむタイプのグリーストラップのことです。床下に埋めこむため、調理の邪魔にならない点がメリットです。床置き型と比べると、排水の処理能力は高いことから油を多く使用する飲食業態(焼肉店、ラーメン店、中華料理店など)に適しています。
※地中埋設型には屋内埋設型と屋外埋設型があるのですが、首都圏において、屋外埋設型をあまり見ることがないので、ここではその詳細についての説明を割愛しています。
 

◇床置き型

床置き型は、シンクの下などの厨房の床に置く箱型タイプのグリーストラップのことです。シンクの下などに置くだけなので、設置工事費用が地中埋設型と比べ安価な点がメリットです。ただし、床置き型のグリーストラップは、多くの排水を処理することができないので、油を多く使用する飲食業態には適さないです。カフェ・喫茶店などの軽飲食向きです。
 
グリーストラップの素材は大きく分けると以下の2種類となります。
 

◇ステンレス製

ステンレスを加工して製造されたグリーストラップです。ステンレス製の特徴は、非常に錆びにくく、強度などに優れています。また、きちんと清掃をしていることが前提ですが、光沢があり、清潔感があります。
 

◇FRP(強化プラスチック)製

強化プラスチックを加工して製造されたグリーストラップです。強化プラスチックのFRPは、Fiberglass Reinforced Plasticsの頭文字をとった略名です。FRP(強化プラスチック)製の特徴は、軽量で、腐食に強く耐久性に優れていることです。
 

◆グリーストラップの設置義務

法律においてグリーストラップの設置義務は明確に定められていませんが、自治体によっては条例で設けられている場合があります。(詳しくは各市町村の担当窓口にお問合せください。)ここで注意が必要なのは条例等でグリーストラップの設置義務が設けられていない場合は設置しなくてもよいかというとそういうわけではないということです。飲食店において業務用厨房がある施設は、建築基準法、下水道法、水質汚濁防止法という法律で定められているところにより排水基準を満たす義務があります。この法律に違反した場合は、営業停止になる可能性もあります。よって適切な処理をすることで排水基準を満たさなければなりません。その他、グリーストラップを設置しないと保健所から営業許可が出ないこともあります。結果、これらのことにより、間接的にグリーストラップを設置することが義務付けられているという見方もできます。
 
東京都の場合、東京都下水道条例施行規程の第三条の二(阻集器の設置)において以下のとおり規定がされています。ここでいう阻集器とはグリーストラップのことを指します。
 
「汚水が油脂、ガソリン、土砂その他排水のための配管設備の機能を著しく妨げ、又は排水のための配管設備を損傷するおそれがある物を含む場合においては、有効な位置に阻集器を設けなければならない。」
 
この規定から東京都の飲食店では、阻集器(グリーストラップ)の設置が義務であることがわかります。
 
参考:阻集器に関する取扱要綱|東京都水道局
 

◆設置するメリット・必要性

グリーストラップを設置することのメリットを実感するためには、定期的に清掃やメンテナンスをしっかり行い本来のグリーストラップとしての機能を発揮することが前提となります。その上で、設置するメリットとしては、排水管の詰まりを防ぐことができること、悪臭を予防できること、ゴキブリやネズミなどの害虫・害獣などの発生を抑制することなどの他、これらのメリットがあることで、飲食店を利用する顧客に対して、環境面や衛生面においてネガティブなイメージを与えることを間接的に抑制する効果があることが上げられます。店舗を管轄する自治体の条例に設置の定めがない場合であっても飲食店の厨房にグリーストラップを設置するメリットは大きいと考えられますので設置の必要性についてしっかり考えなくてはなりません。
 

◆設置にかかる費用の目安

グリーストラップを新規で設置する際、本体の購入費用および設置工事費用がかかります。設置にかかる費用は、本体のサイズやタイプ、工事の規模にもよりますが、大まかな費用の目安は以下のとおりとなります。
・地中埋設型
工事が大がかりとなります。一般的には~100万程度費用がかかります。大規模な飲食店だと200万を超えることもあります。
・床置き型
床の工事が必要ないので、~30万程度と埋設型と比べて費用を安く抑えることができます。
 
あくまで目安なので具体的な金額を確認するため実際に業者に見積りをとってみてください。
 

◆グリーストラップの清掃基準

飲食店を営業するにあたり他の設備に比べて特にグリーストラップは非常に汚れやすいので定期的に清掃をすることが必要となります。清掃をせずに放置してしまうと排水管の詰まりによる排水の逆流のおそれや腐敗して雑菌が繁殖し悪臭が発生したりするほかグリーストラップに溜まった生ごみが害虫・害獣の餌となり、ネズミやゴキブリなどの害虫・害獣が発生しやすくなります。また、油脂と水の分離機能が低下してしまいグリーストラップとして正常な処理を行うことができなくなります。これらのことを防ぐために適切な清掃を正しい頻度で定期的に行わなければなりません。
 
既に説明したとおりグリーストラップは3漕に分かれています。それぞれの漕に合った清掃方法で清掃を行わなければなりません。
・1漕目
バスケットは、排水中の生ごみ等が溜まる場所です。このバスケットに生ごみなどがたまりすぎると目詰まりが発生して油脂が金網をすり抜けていくことができずグリーストラップ本来の機能を果たせなくなってしまいます。ですので、毎日1回は生ごみ等を取り除き掃除するようにしましょう。バスケットにネットをかぶせると手間をかけずにスムーズに生ごみ等を取り除くことができます。試してみてください。
・2漕目
この2漕目は、油脂が表面にたまり、底は汚泥がそれぞれたまります。これらのものがたまりすぎると悪臭発生の原因となってしまいます。週に2~3回の頻度でストレーナーなどを使用して清掃するようにしてください。油を多く使用する飲食業態(焼肉店、ラーメン店、中華料理店など)の場合は、それ以上の頻度で清掃を行うことを推奨します。
・3漕目
3漕目のトラップ管(排水管)は2~3ヶ月に1回の頻度で清掃をしてください。このトラップ管内は油脂分がこびりついていることもあります。トラップ管の蓋を外して汚れをしっかり除去してください。
・グリーストラップ全体の蓋
グリーストラップ全体の蓋も汚れが付着しているのであれば、除去するようにしてください。劣化がひどいようであれば危険なので交換が必要です。目安として、耐用年数は、ステンレスで10年程度と言われています。
・グリーストラップの消臭
上記のとおりグリーストラップの清掃を行った後は消臭も忘れずに行うようにしましょう。異臭が発生して客席まで匂いが漂ってしまうと店舗のイメージダウンに繋がってしまいます。窓を開けて換気するだけでは足りないことも考えられるので、グリーストラップを清掃する際は、事前に消臭剤を用意するようにしてください。なお、業務用でグリーストラップ専用の消臭剤というのもありますので調べてみてください。
 
グリーストラップの清掃は、自身で行うこともできますが、それなりに清掃の負担が大きいので専門業者への依頼を検討することも考えられます。業者については、産業廃棄物処理業の許可を得ているか、業者として優良認定を受けているか、実績は豊富かなどを基準に選定をしてみてください。
 

◆グリーストラップの清掃後のゴミ等の処理

グリーストラップを清掃することによって出たごみなどについて、1槽目のバスケットにたまる生ごみは一般のごみとして処理しても問題ないのですが、2槽目の表面にたまっていた油脂分と2槽目、3槽目の底にたまっていた汚泥は、産業廃棄物になります。通常のごみと同様に処理することはできないで必ず専門の業者と契約をして処理を依頼するようにしてください。
 

◆飲食店の居抜き物件におけるグリーストラップの注意点

前テナントが定期的にグリーストラップの清掃を行っていなく、また、退居してからある程度時間が経過している飲食店の居抜き物件のグリーストラップや排水管は要注意です。グリーストラップ内に油脂(特に動物性の油脂はかたまりやすい)がかたまりきってしまっているケースが多々あります。こういった物件を借り受けて、グリーストラップなどに問題があるとは知らず、そのまま何も対策をせずに営業を開始してしまった場合、排水が逆流して厨房内が大変なことになり営業を中断しなければならない事態になってしまうこともあり、せっかくの店舗のオープンが台無しになってしまいます。このような事態を避けるためにも事前に営業開始前までにグリーストラップや排水管を高圧洗浄などで清掃して万全を期してください。

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