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フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸 連載第九弾 当店のメニューは他店の商品です  前編

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他の人気メニューをパクることは恥ずかしい

フードサービスの原則は「QSC」である。これは「Quality」「Service」「Cleanliness」の頭文字をつないだもので、フードサービスにミッションとは、毎日「おいしい料理をつくろう」「素敵なサービスをしよう」「ピカピカの店にしよう」ということを徹底して行うことがミッションであることを唱えているものだ。その日雨が降っても雪が降っても、フードサービスはまずQSCなのである。

前述したとおり、「Q」の部分は料理のことである。QSCの先頭にあるということは、それだけ料理が重要ということだ。だから、誰もが「看板商品をつくろう!」という。コンサルティングで最も人気なのは「売れるメニューのつくり方」である。だから、どこかの人気メニューを真似た商品が出ると「あれはパクリだ」と言われる。とても恥ずかしいことだ。フードサービス記者歴三十数年の筆者も「その通り!」と思っていた。

 

しかしながら、近年「セレクトショップの飲食店」が話題になることが多くなった。セレクトショップとは、他にある複数のブランドを選んで販売する形態のことで、アパレルの世界では一般的なことだ。つまり、「他の店の商品をメニューにしている飲食店」が進んだ飲食店として注目されているという。
烏森百薬 内装

 

今日、この形態の飲食店として象徴的に取り上げられるのは「烏森百薬」である。東京・新橋の烏森神社の参道に2018年9月にオープンした。ランチタイムはコーヒーと定食、ディナータイムは気軽な居酒屋となる。

同店を経営するのは株式会社ミナデイン(本社/東京都港区、代表/大久保伸隆)。代表の大久保伸隆氏はエー・ピーカンパニーの副社長を務めた人物だが、これまでのフードサービス業が抱えてきた課題を解決することを志して2018年6月に退任して、「烏森百薬」をオープンした。
烏森百薬 外観

利益率の低さを解決するために生まれた発想

大久保氏は前職でさまざまことを学びながら、課題として感じていたことがあった。その筆頭は、売上が上がると仕込みが増える。売上が上がると経営者はうれしいが、現場にとっては大変なことで、これが労務問題につながっていく。その根本は利益率が低いことであり、これを解決することをミッションとした。
烏森百薬 メニュー

 

「烏森百薬」のメニューのほとんどは、大久保が厳選した他店の商品を提供している。自前のものは5品のみである。このようなメニュー構成となったのは、オープンした当初料理人がいなかったことが要因であった。そこで大久保氏はこのようなことを考えた。

 

「例えば、起業した僕が人気のフランス料理店に行って感動して、僕が料理修業を始めてここのシェフに勝ったところで、お客さまは満足しないのでは。では、僕が持っているスキルを使ってお客さまの満足を最大化できるコンセプトとはどのようなものだろう」

 

そこで、ファッション業界のセレクトショップを思い出した。「僕が日本一と思う食べ物をそろえてキュレーションする(情報を選んで集めて整理して新しい価値を付け加える)ことができれば、お客さま満足度はそれなりに取れるだろう」――このように大久保氏は考えた。

仕込みの大半はパソコンで完結し、キッチンでは5品だけつくればいい。キッチンもホールも営業時間中の余裕を持って仕事をすることができる。ホールの担当者はフードやドリンクのことをお客さまに詳しく説明することで、お客さまとのコミュニケーションが図られ、スマイルが豊かになり、結果お客さまの満足度は上がる。
烏森百薬 メニュー要望

 

「烏森百薬」で使用する名品のメインは から揚げ、餃子、マグロの3者である。後はこれまで同様に普通の業者から仕入れている。これもある程度セレクトしてもらっていて、同店では試食をして確認している。

同社では2019年12月、千葉県佐倉市のユーカリが丘に、2号店となる「里山transit」をオープンした。昼はファミリーレストラン、夜は居酒屋の二毛作店舗である。

ここのメニューは、地元の人が食べたいメニュー取り入れるという「メニュー総選挙」でメニューを決めている。さらに、地元の人がつくる野菜を持ち込んでもらう形で仕入れ、食べてもらうという試みを行い、これを「持参自消」と呼んでいる。このような「セレクトショップの飲食店」によって地元のコミュニティハブとなることを志している。
烏森百薬 カウンター席

 

(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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