高級化することで従業員のモチベーションが高まり利益体質をつくり上げる
高級焼き鳥居酒屋が増えるワケ 前編
最近、高級化した焼き鳥居酒屋が増えてきている。客単価は8000円前後。原材料が高騰しているという背景もあるが、それだけではなく「外食の楽しみ方」や経営する側の事情が変化してきていることも要因として挙げられるようだ。
これらの動向として「焼き鳥高級店」の事例2本を取り上げて、高級化の背景とその意義ついて紹介したい。まず、昨年11月東京・代々木に「代々木鳥松」をオープンしたけむり(本社/東京都港区、代表/小松大地)の場合。
高級すし店のような外観、シンプルな内装
まず「代々木鳥松」の概要はこうなっている。場所はJR代々木駅から西方向へ約5分、小田急線の南新宿駅にも近い。高級住宅街の入口といったエリアだ。車の通行も多い路面で、エントランスは高級なすし店の風情がある。店内も同様で余計な装飾がないところに専門店としての意気込みを感じさせる。店舗規模は18坪でカウンター16席、テーブル6席となっている。
【高級住宅街の入口といった場所の路面で高級店としての風格がある】
焼き鳥の鶏肉は熊本県天草産の地鶏「天草大王(あまくさだいおう)」を使用。これは肉質がよくおいしい鶏肉として重宝されていたが、産卵率が低く卵肉兼用の輸入種が普及したことによって昭和初期に絶滅。しかしながら、この復元を望む声は絶えることがなく、熊本の農業研究センターが10年間をかけてそれを実現した。
一般のブロイラーの飼育日数は40~50日だが、同店では130日をかけた天草大王を丸で仕入れている。これを店内でドライエージングによって熟成。届いた丸鶏を脱水シートにくるんで一日置く。その後5日程度、冷蔵庫の中で熟成させる。こうすると地鶏の旨味がぎゅっと凝集される。丸鶏は店内でさばいている。こうるすことでさまざまな部位を提供することができる。例えば、モモは5つの部位に分けて食感の違いを楽しんでもらう。
これらをアラカルトで注文することも可能だが(税込:むね生姜330円、かしわ330円、ちょうちん440円など)、あえてコースを設けず、おまかせのストップオーダー制を採用している。飲み物はナチュールワインを取り揃えて、おいしい焼き鳥とのマリアージュを楽しんでいただく。
【余計な装飾がないシンプルな内装、専門店としての気概が感じられる】
同店はオープンしてたちまち評判を呼び、すでにリピーターも定着している。想定していた客単価は7000円で一日の客数は30人程度だったが、現状は8000~9000円でボトルが入ると1万2000円になるパターンも多く、一日1回転程度となっている。
「天草大王」によってイメージが一気に具体化
代表の小松氏(40)は大学卒業後グローバルダイニングに進んだ。ここでクオリティの高い焼き鳥居酒屋の開業を準備していた経営者からスカウトされた。同店で高級な丸鶏の捌き方やメニュー設計、経営のノウハウを学ぶ。2008年8月東京・府中に創業の店「炭火串焼 けむり」をオープン。時代はリーマンショックであったが、吉祥寺、立川、八王子と中央線沿線でガンガン攻めた。独立開業者も輩出し、昨年12月には三軒茶屋に貝専門店をオープン、FC6店舗を含め5業態18店舗となっている。
同社メインブランドの「けむり」は客単価3500円。いわゆる大衆的な焼き鳥居酒屋だ。しかしながら、この業態だけでは利益のゾーンは減ってくる。そこで、小松氏は2018年ごろから「高級焼き鳥店」の必要性を感じるようになった。そのイメージは店舗のハードは先に述べた凛とした雰囲気。しかしながら、商品に関してはそれに見合うものをイメージできていなかった。
【高級な食材を使用することから従業員のモチベーションが高まる】
コロナ禍となり構想はそのままとなっていた。が、そんなある日、以前の常連客からメールが届いた。その人物は東京からIターンによって熊本で天草大王の生産者となっていた。「コロナ禍で当社の天草大王が200羽ほど行き場を失っている。小松さんの会社で仕入れてもらえないか」という内容。早速サンプルを取り寄せて、同社の焼き師である濱口雄太氏と共に鶏料理の試作を行った。そこで最高の食味を引き出す方法が前述したドライエージングによる熟成であることを発見した。
こうして「高級焼き鳥店」のフードは決まった。ではドリンクはということで、ナチュールワインの赤・白・オレンジ・泡と合わせてみたところ、商品の歯車が見事に合致した。
小松氏は「高級業態で仕事をすることは、従業員に“成長”というプラスの効果を強くもたらす」と語る。高級業態における従業員は、高級な食材に触り、クオリティの高いメニューづくりにいそしみ、そして外食の経験値の高いお客と対面することになる。このような世界には、「自分を磨く」という向上心とその行動力が必要とされる。焼き鳥居酒屋の高級化は、職場の中にプラスの要素をもたらしている。
【天草大王を丸で仕入れて店内で捌いていることから多様な部位を提供】
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
「ニュース・特集」の関連記事
関連タグ