麺のチェーン店「丸亀製麺」「坂内」が新業態として展開を開始
いま米麺がにぎわう現象とは 前編
いま米麺を扱う新規開業事例が増えるなど、米麺を扱う飲食店の話題がにぎわっている。大手では「丸亀製麺」のトリドールホールディングス(以下、トリドールHD)が香港で人気「タムジャイサムゴー」の展開を開始。「喜多方ラーメン坂内」の麺食が「88 Asia」を出店し店舗展開を画策している。これらの現象がいまなぜ生じているのかを考えてみた。
香港の人気店をM&Aして世界展開
トリドールHDではグループ企業を通じて香港の人気米麺店「タムジャイサムゴー」の日本展開を開始した。3月31日新宿中央通り店、4月14日吉祥寺店、5月19日恵比寿店をオープン、2年後の2024年3月には国内25店舗を想定している。ちなみに、同グループの店舗数は国内「丸亀製麺」が832、海外644となっている(2022年3月末)。
香港を本拠とする同店は『ミシュランガイド』のビブグルマン(大衆レストランの部)の常連。トリドールHDでは2018年に同店をM&Aし、21年10月には香港証券取引所に上場させた。果敢に店舗展開を進めており、グループ店舗を含めて香港、中国本土、シンガポールで172店舗を展開している(2月末)。
【3月31日にオープンした「タムジャイサムゴー」新宿中央通り店。食事時のウエーティングはオープン2カ月が経っても変わらない。】
同店のメニューの特徴は「米麺の米線(ミーシェン)」「6種類のスープ」「10段階の辛さ」「25種類のトッピング」。ミーシェンとは中国雲南省発祥の米麺で、食感はもちもち、ぷりっとして歯切れがよく、スープによく絡む。6種類のスープとは「クリアスープ」(タムジャイサムゴ―の原点)、「サンラー」(酸味と辛味の絶妙なブレンド)、「ウーラー」(スパイスを軽く焦がしたタイプ)、「サムゴ―サンラー」(中国酢の酸味と辛味が前面に出たタイプ)、「マーラー」(鮮やかなしびれと辛さ)、「トマト」(甘くて酸味の効いたトマト風味)。25種類のトッピングとは、野菜が11種類、肉が6種類、海鮮が5種類、その他として油揚げ、うずらの玉子、ピータンとなっている。これらの組み合わせによって100万通り以上のメニューができるという。上記のシンプルなスープ麺はスープ別に550円(税込、以下同)、610円、670円だが、代表的な具材が入った「クロスブリッジミーシェン」が1100円、1160円、1220円となっている。
【4月14日にオープンした「タムジャイサムゴー」吉祥寺店。店内はフラットで開放がある。】
ホームページのトップ画面や店頭、メニューブックのトップに「まだ日本語に訳せないウマさ。」というキャッチコピーがあり、グローバルチェーンが日本に進出したというイメージをもたらしている。香港発祥の人気店ということで、お客には中国系の若者が多い。
筆者の印象は「スープ麺と一緒に野菜を食べる」という感覚。長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」と肩を並べる存在感がある。「野菜をたくさん食べたいときはリンガーハット」で、さらに「中華系エスニックを味わいたいときはタムジャイサムゴ―」というイメージだ。外食でスープ麺を食べる時の選択肢が広がっている。
【「タムジャイサムゴー」の商品の一つ、「クリアスープ」の「クロスブリッジミーシェン」1100円。】
「タイ料理の町中華版」的な存在感
もう一つの大手、「喜多方ラーメン坂内」(国内63店舗/4月末)をFC展開(うち40店舗)している麺食では5月9日東京・二子玉川に新業態となるアジア料理店「88Asia(ハチハチアジア)」をオープン。「米麺」をメニューのメインに据えた。店名の「88」とは「米」の中にある「八八」、末広がりのイメージなどからつけられた。
同社では若い世代を中心にアジアンフードへの関心が高まっていることなどから、アジアンレストランを展開したいと考えていた。そこで独自の「プレミアム国産生米麺」が完成したことから、フォーを取り扱う業態を開発した。
【「88Asia」はオープンキッチンで白を基調にしたふらりと入りやすい雰囲気の内装。】
また、プロデューサーとして一つ星レストラン「sio」の鳥羽周作氏を起用し活発に発信。「既存のアジアンレストランとは一線を画した、良い意味で『本場』の料理にとらわれない、日本人にとって最もおいしいと感じるアジア料理を提供したい」という。米麺は「野菜を食べるアジアンビーフン」880円、「88フォー」980円、「海老出汁トムヤムクンフォー」1280円。ランチタイム、ディナータイムともに価格は同じで、「揚げ春巻き」「蒸し春巻き」630円、「毛沢東(辛味スパイスの一種)のフライドポテト」580円、「空心菜のタオチオ炒め」880円など、おつまみが16品目。
【「88Asia」の「88フォー」980円。牛骨スープで味わい深くもさっぱりとした口当たり。】
親しみやすいメニューと価格構成と共に、ライトでポップなデザインで女性が気兼ねなく利用できる雰囲気がある。出店場所を選ばない「東南アジア料理の町中華版」的なイメージがある。麺食では同店の動向を見て随時出店を予定していくことを表明している。
このような麺を扱う企業がなぜいま「米麺」に注目するようになったのだろうか。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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