女性従業員対策で取り組んだ「高級食パン」事業がコロナ禍を切り抜ける
コロナ禍での「高級食パン」事情 後編
神奈川・川崎と東京・自由が丘エリアで「Omochi」という高級食パン専門店が店舗展開を行っている。経営はDEED(本社/神奈川県川崎市、代表/千葉俊宏)で、現在販売店を3店舗、カフェ併設店を2店舗擁している。
同社代表の千葉氏は1978年2月生まれ、川崎育ち。現役の美容師であり、「Omochi」以外に美容院、飲食業、雑貨販売を営んでいる。建築業を営んでいた父からは常日頃「手に職をつけるように」と言われ、高校卒業と同時に美容師見習いとなった。その才に恵まれて、20歳で国家資格の「美容師免許」を取得。21歳で美容室を展開する会社に転職、23歳で店長に就任した。
そして2002年11月、24歳で独立を果たす。その美容室が川崎駅西側にある「TypeAB」だ。70坪のスペースがあり、現在ここではセット面15席の美容室(60坪)と、雑貨店(10坪)を営んでいる。川崎駅の西側には2006年9月商業施設のラゾーナ川崎がオープン、中央に芝生の公園を設けた施設づくりは人々の憩いの場所となった。周辺には新しいビルが建設され近代的な都市機能が備わるようになった。そして住宅が広がっていった。
【2019年11月、ラゾーナ川崎の近くに「Omochi」の本店となる1号店をオープン】
「高級食パン」で夜営業から昼営業にシフト
DEEDが飲食業に参入したのは2010年1月横浜に出店したことに始まる。2012年11月東京・自由が丘に出店。この店がきっかけとなり、今日自由が丘エリアにドミナントを形成するようになった。
同社の事業内容で飲食業の比重が高くなっていったのは、それぞれの業種の特性が背景にある。美容室は国家資格を有した従業員が勤務していて、ほとんどが独立志向であること。一方の飲食業の場合、従業員は社員とそれを補うアルバイトで運営することが出来る。このような状況から、「会社の成長を考えた時に飲食業を広げた方がそれを見込むことができる」と千葉氏は考えている。
【本店は住宅街を後背にする商店街にあり「街のパン屋さん」という存在感を放っている】
「Omochi」を開業したのは2019年11月、会社本部の近くに20坪路面の物件を確保して、パン工場と物販店を構えた。その狙いは、従業員対策であった。千葉氏はこう語る。
「会社が大きくなるにつれて、女性の社員が増えてきました。これからのキャリアプランを想定すると子育てがあって夜働くことが難しい。いつかは昼営業中心の業種を手がけてみたいと考えていて、食パンの製造・販売がふさわしいと考えた」
「Omochi」の食パンの特徴は、特別な製法を施した小麦にもち粉を配合していて食感が“モチモチ”としていること。厚切りにしてそのまま食べることでその食味を楽しむことができるが、トーストすると焼いた餅のように表面はカリッとして、中はモチモチとした状態となる。数ある高級食パンの中でも特徴が際立っている。
商品は、シンプルな「オモチ」が1斤550円(税込、以下同)、2斤が880円。レッドチェダーチーズを入れた「オモチーズ」1斤880円。たっぷりと小豆を入れた「小豆のオモチ」990円となっている。カフェ併設の店舗では、サンドイッチとして「たまご」「スイートポテト」各550円、ホットサンドとして「たまご」600円、「すいーとぽてと」各600円、BCH(ベチホ:ベーコン・チェダーチーズ・ほうれん草)650円、「ツナトマ」680円などをラインアップしている。
【2021年4月にオープンした川崎追分店は間口が広く店舗のアピールをいかんなく発揮】
閉店した店の従業員対策として店舗展開
「Omochi」の2号店は2020年8月自由が丘エリアの奥沢にオープン。このオープンにはDEEDの転機となる物語がある。
同社では、東京・恵比寿で短期間ではあるが「GAB」というバルを営んでいた。同店は2011年4月に千葉氏の地元の後輩の独立開業をプロデュースするという形でオープンした店であった。2020年1月にその後輩から営業不振で撤退するという報告を受けて、従業員ごと店舗を買い取った。
同社にとって同店の経営サポートは数年前に終了していたが、千葉氏の各分野で活躍する友人を集めてつくり込みをしてきて格別の思い入れがあったという。同店は赤字に転落していたが、コロナ禍で先が見えなくなったことから同社では従業員の雇用確保を優先して同店を買い取ることを決断した次第である。
【川崎追分店はカフェ併設店舗として地元客が定着していて喫茶を楽しむ光景が見られる】
しかしながら、客数は回復することなく同店は5月に閉店、そこで「Omochi」の2号店をオープンして、恵比寿の従業員を2号店の勤務に充てた。同社の業容は現在飲食6店舗、高級食パン専門店5店舗、美容室1店舗、雑貨販売店1店舗となっている。
美容室から始まった同社の事業は、飲食事業に拡大し、高級食パン専門店の販売店とカフェ併設店へと広がってきた。これらは従業員を大切にする姿勢が、時代性に合わせて展開されてきた。川崎と自由が丘エリアという二つの地元に根付いてことから、地元密着で事業をさらに深化させていくことであろう。
【カフェ併設店ではもち粉を入れたパンならではのサンドイッチをラインアップ】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第三十五弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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