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三軒茶屋でドミナント。新しい外食文化を醸成する和音人

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十五弾
アフター・コロナの活路 前編

 
政府の非常事態宣言に始まり、「STAY HOME」が提唱されるようになって飲食業では休業するところが増えたが、一方ではテイクアウトやデリバリー、またECサイト(通販)を立ち上げるところが増えてきた。これはアフター・コロナにおける飲食業の新しい活路と捉えていいのではないか。今回は、アフター・コロナを予測させるような飲食業の取り組みを取り上げる。
 
株式会社和音人代表の狩野高光氏【株式会社和音人、代表取締役の狩野高光氏】
 
東京・三軒茶屋にドミナントで7店舗展開している株式会社和音人(わいんびと、本社/東京都世田谷区、代表/狩野高光)という飲食企業がある。三軒茶屋で創業した「焼鳥月山」は2015年6月にオープン。以来、5年間でこのような陣容を築き上げているのは、創業社長の狩野高光氏とそれを支えるメンバーのブレのないミッション共有の賜物であろう。
 
狩野氏は1987年1月生まれ、飲食業で独立する道を一貫して歩み、グローバルダイニングを含めてさまざまな職場で経験を積み、28歳で独立を果たした。
 

三軒茶屋に新しい外食文化を醸成する

創業の店のコンセプトは「山形」に由来するが、それは起業の時に目的とした、「社員の夢を一つずつかなえていくこと」が根底にある。和音人の立ち上げメンバーであり現在同社の執行役員を務める齋藤太一氏が山形県西川町大井沢の出身で、父が現地の町おこしで活躍している。齋藤氏は父の活動を応援したいという想いがあったことから、狩野氏も創業店のコンセプトをその町を盛り上げていく趣旨のものにした。立ち上げメンバーは店がオープンする1年半前から、現地の酪農家、農家、酒蔵などさまざまなところと交流して食材を仕入れるルートをつくった。
以来、和音人は三軒茶屋にドミナントを形成していくのだが、狩野氏の狙いは明確である。
「私が飲食業を勉強していた当時、代官山や恵比寿で長く働いていました。その過程で、ここはアンテナが高い人がたくさんいるが、街としての成熟度が低いと感じていました。私にとって成熟度が高い街とは、中野、学芸大学、三軒茶屋といったところで、ここで起業してから、街の人と共に老舗になっていくイメージです」
和音人が店舗展開する三軒茶屋すずらん通【和音人が多店舗展開を行う三軒茶屋の象徴すずらん通】
 
「起業をするに際して、最初からランチェスター戦略にある局地戦で戦っていこうと考えて、ドミナント展開をすることで地域のシェアを獲得しようと努めました。その点、三軒茶屋は結構飲食店の移り変わりがあり、また3店舗以上を展開している店が存在していないことから、当社のような路線が勝てるのではないかと考えました。とにかく、店舗数においても年商においても3年間で三軒茶屋の地域一番店となることを目標にしました」
お江戸熟成割烹雫月【丸いロゴイメージで統一されたお江戸熟成割烹雫月】
 
こうして、和音人は三軒茶屋における現在の地位を築き上げた。

和音人の店舗は料理のクオリティが高いと同時に客単価も高い。7店舗の中に餃子の店があり客単価3500円だが、他の店はどれも5000~8000円のレベルになっている。
この狙いについて、狩野氏は「日本の外食の価格は安い。どちらの店も現状のものから1000円、2000円は引き上げるべきだ。私はこのようなところから日本の外食の地位向上を図っていきたい。私たちの店がモデルケースとなって広がっていってほしい」と語る。
和音人の店の存在感は「クオリティが高く、客単価も高い。同時に従業員は誇り高い」といえる。店のQSCを高度に保てば、三軒茶屋の地元やその周辺には、それをきちんと評価する顧客が存在する。
和音人焼鳥月山【焼鳥 月山の内装】
 
「焼鳥 月山」がオープンした当時の客単価は6000円であるが、2015年当時の三軒茶屋ではこの客単価は空白だったという。そこで同店はブルーオーシャンの中で営業したという。その後、三軒茶屋に新規参入するところは類似の客単価でレベルの高い営業をするところが増えていった。三軒茶屋は「さんちゃ」という愛称で語られて、今や地元のお客さまだけではなく遠方からもやって来る飲食の街である。「焼鳥 月山」の営業に込められた飲食店の在り方が、顧客から愛されて結びつきを強くしているものと思われる。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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