試飲会を行い従業員の勉強意欲を高める「日本酒原価酒蔵」
日本酒を売る力 後編
「日本酒原価酒蔵」という日本酒専門の居酒屋チェーンがある。経営は株式会社クリエイティブプレイス(本社/東京都品川区、代表/中村雄斗)で、現在東京、神奈川、埼玉に計22店舗を展開し、うちFCが10店舗となっている。
店では入館料490円を支払うと約60種類ある日本酒を原価で飲むことができる。どれも100㎖のオリジナルのボトルに入れてあり、人気銘柄で言えば「獺祭」が283円となっている。日本酒のメニューブックは日本酒に関する「精米歩合」「用語」などの知識が詳しくまとめられ情報が豊富だ。
【日本酒は100㎖のボトルに入れて提供】
この業態は2015年4月に新橋で立ち上ったものだが、私は2016年の3月に上野御徒町店を訪ねたことがあった。その後同店が多店化していることに気付いて、今年の1月上旬に新宿東口店を訪ねてみた。
同店に入ってすぐにポジティブな「空気感」が感じられた。対応してくれた従業員は大きな目がキラキラとしたショートカットの女性だった。この店は日本酒専門店で、いろいろな種類を少量ずつ楽しんでもらうことが狙いであることを前置きして、筆者が日本酒選びに迷っていると、「私が好きなタイプは……」といろいろな種類を教えてくれた。
【日本酒リストの情報が充実していて、迷っていると従業員がアドバイスしてくれる】
店の体質を技術や経験に依存しないものにする
同社社長の中村雄斗氏は、学生時代に歌舞伎町の居酒屋でアルバイトをしていて、同店の仲間3人と「将来一緒に事業を立ち上げよう」と話していた。その後、それぞれは別の仕事についていたのだが、再会して話したことは「飲食店をはじめよう」ということだった。
会社を設立したのは2012年3月で和食の居酒屋を展開した。日本酒にこだわる店を営業するようになったのは、入社してきた人物が「日本酒の居酒屋をやりたい」と申し出たことがきっかけである。
日本酒にこだわることによって大層繁盛したが、そこで感じたことは「日本酒は高いもの」というイメージがあることだった。それを気軽に楽しんでもらおうと業態を練り込んでいくことで現在の形になっていった。
現在のスローガンは「日本酒って楽しいを世界へ!」。各店は連日ほとんどが予約で埋まっている。これまで積み重ねてきたソフトのノウハウは追随を許さない状況になっている。では、冒頭で述べたポジティブな従業員の対応はいかにして生まれたのだろうか。中村氏はこう語る。
「どうすれば皆が楽しく働くことができるのか。『従業員満足』というものを、どのように実現するか。KPI(重要業績評価指標)とどのように連動させるのか。このようなことに細かく取り組んできました」
こうして、2016年あたりから会社に明らかに変化が見られてきた。同社が日本酒に特化した業態にシフトする以前は、調理技術を必要とする和食居酒屋で、技術や経験に依存する体質があった。これらは従業員満足をはじめ店舗展開を妨げる要因であることに気付くようになった。
「飲食店とは技術や経験の前に、コミュニケーションを商売にしている」と考えた経営陣は、店や会社の中のコミュニケーションを円滑にすることに傾注した。そこで取り組んだのは「360度評価」。一人の社員がいろいろな社員から評価を受ける、というものだ。この評価制度を土台に求めるKPIと給与や役職を連動させることによって、技術や知識だけでは評価されない環境をつくった。
【テーブル上のセッティングは清潔で整っている】
試飲会で自分の好きな日本酒を探してもらう
日本酒を売る店であるが、従業員に日本酒のテストは課していない。その代わりに月に一度充実した試飲会を行っている。「ここで自分が好きになった日本酒を探してね」と伝えるのだが、このような日本酒と巡り合うとお客さまに伝えたくなる。そこでお薦めして飲んで楽しいと感じたお客さまから褒められる。このような経験をすると、日本酒についてもっと勉強しようと意欲が湧いてくる。こうして、コミュニケーション能力は磨かれていくという。
企業活動としては、フォーラムの「NCL(日本酒原価酒蔵チャンピオンズリーグ)」、蔵元や、酒販店に協力を仰いだ「日本酒セミナー、試飲会」、「BBQ大会」、社員の家族をもてなす社員限定特別割引の「Thanks Family Dinner Ticket」、「蔵元訪問」、「蔵元と共同で商品開発」、「酒造り」などを行っている。日本酒の学ぶ機会が充実している。
日本酒を良く売る店にはコミュニケーションが充実している。それは、従業員同士や上司部下との間、そして業者さま、お客さまとの間である。これが活発になっていくほど、日本酒を媒介とした人間関係が充実するように繁盛店となっていくのであろう。
【日本酒に合うお薦めの料理も適宜新しくラインアップしている】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第十三弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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