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2023年より大卒新入社員の初任給を25万円から30万円に引き上げる狙い

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第四十六弾
一歩先行くKUURAKU GROUP 後編

 
今日、飲食業界の重要な課題は「値上げ対策」と「人材対策」である。食材が高騰するようになり売価に転嫁する必要性がある。そして、人材の採用が難しくなってきたことから、それを克服するためのファクターが求められている。この二つの点においてKUURAKU GROUPには新しい動きがみられる。
 

カナダの焼鳥店はいま客単価5600円

まず「値上げ対策」について。これは同社のアウトバウンドが大きく役立っている。同社代表の福原裕一氏によると「値上げ対策は今日のインフレ問題が起きる5年前から取り組んできた」という。そこで手掛けたことは、共同購入、仕入先の見直し、売価の見直しであった。これによって2022年9月期では、5年前と比較すると原価率が3.59%ダウン出来ているという。ざっくりと売上が7億円あると2500万円くらいのキャッシュが生まれるようになった。「これができたのは、当社が海外の値上げの事情を分かっているから」(福原氏)という。
 
同社が海外に初めて出店したのは2004年でカナダ。このとき焼き鳥1本の値段が日本円ベースで100円ないし120円。これで客単価は2500円だった。「当時『焼鳥の肉はなんでこんなに小さいんだ』とよく言われた」(福原氏)ということで、それを大きくするなどして変化を加えていった。時給は年々上げていくというルールになり、仕入れ値も上がっていった。
 
そこで現在、カナダの店の客単価は5600円あたりになっているという。つまり2004年当時の2倍以上。そして売上も増えている。「このようなカナダでの現実を見ていたので、日本で値上げに対する恐れはあまりなくなった」と福原氏は語る。
 
こうして2018年から徐々に値上げをしてきて、現在同社のミドル業態の「福みみ」は3800円あたり。全体で10%程度を値上げした。
 
【銀座、新宿の店舗は過去最高売上を更新中。「おいしいですよ」「おいしかった」というアナログの接客によって、日本滞在中に再来店してくれるパターンもある】
 
また、高価格帯にシフトした業態転換や新規出店も行っている。まず「くふ楽銀座一丁目店」を業態転換して「焼鳥くふ楽銀座総本店」に変えた。もともとは「福みみ」と同じ3800円であったが、それをアッパーミドルの6500円にした。
 
40坪70席の店であったが、これを「福みみ」と同じ仕組みで営業していて、家賃の関係で損益分岐点が800万円となっていた。それを40席に減らしたところピークタイムの従業員を抑えることができることから550万円に下げることができた。
 
同店は京橋にあって東京駅に近いことから法人需要がある。アッパーミドルに切り替えることによって宴会需要も「にぎやかな宴会」ではなく「ディナーミーティング」の形となった。かつては元気いっぱいのお出迎えをしていたが、その空気感をなくした。このように変えたことで9割が予約で埋まるようになった。
 
2018年、東銀座の歌舞伎座の隣に比内地鶏の専門店「銀座かしわ」をオープンした。当初はなかなか利益が出なかったが、オープンから半年ほどで軌道に乗る。2022年10月に過去最高売上を記録、11月は日割りで過去最高、客単価1万3500円で坪月商55万円を記録した。
 
カジュアル路線では「元屋」という店を北千住や千葉・松戸などの下町に展開していて、この業態は3200円あたりで、これも上がってきている。
 
【かつては中国からのお客が多かったが、いまは圧倒的に韓国からのお客が多い。従業員は「ウェルカム感」を大切にして接客している】
 

自社の成功よりも「ウェルビーイング経営」

コロナ禍にあって従業員の待遇を重視した。社員は給料そのまま。アルバイトは雇用助成金を活用してシフトが減った際にも8割支給とした。2022年3月社員にコロナ一時金として10万円を支給した。また、2022年4月から全社員の給料を一律1万円アップした。銀座エリアのアルバイトは新宿、渋谷と比べると採用がしにくいことが難点であったが、2022年夏に時給1200円を1500円に引き上げたところ充当できるようになった。
 
そして、思い切った決断。2023年の大卒新入社員の初任給をこれまでの25万円から30万円に引き上げる。実に5万円、20%のアップである。福原氏はこう語る。
 
「これまでの初任給25万円とは十分に生活できる金額です。ここに5万円プラスする理由は社員の資産形成を考慮した上でのこと。そこでこれから積み立てNISAをはじめとしたマネー講座を社内で開講して社員の資産形成に役立ててもらいます」
 
【海外からのお客は現地のKUURAKU GROUP店舗のファンであり、日本の店を体験して感動し本国に帰る】
 
また、2022年4月からインセンティブ制度に取り組んでいて社員の所得が増える仕組みを整えている。
 
「このようなことに取り組むことができているのは、過去5年間行ってきた原価の低減、値上げの効果によって財務が劇的に変わってきたからです。当社はこれまで自社の成長や成功を追ってきましたが、現在そしてこれからは従業員と社会の幸せを求めていくウェルビーイング経営を進めて行きます」
 
同社の営業状況を拝見し、その内実を解説してくれる福原氏の発言一つ一つにこれからの飲食業のあるべき姿が感じられる。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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