13坪で月商700万円目前に勢い、野菜炒め専門店「ベジ郎」の秘訣とは
奇跡の業態「ベジ郎」誕生物語 前編
12月1日、東京・渋谷、東急百貨店本店の向かい側に「肉野菜炒め ベジ郎」(以下、ベジ郎)という店がオープンした。黄色い看板で店名の文字は赤と黒、デザインに新しさはまったくないところが、昔から営んでいる雰囲気を醸しだしている。メニューは「野菜炒め」一本。これに肉が加わり、その量で価格が変わる。野菜とトッピングの背脂は“大盛無料”。この割り切った新業態の店舗にウエーティングができている。
同店を運営するのは株式会社フードサプライ(本社/東京都大田区、代表/竹川敦史)。野菜の卸業で、全国の生産者や市場と取引をして、現在関東圏を中心に約5000の飲食店に野菜を供給している。昨年は、コロナ禍で飲食店が通常通りに営業できなかったために、これらの野菜は行き場を失った。しかしながら、同社ではこれらの野菜を非接触の販売方式で一般消費者に販売する「ドライブスルー八百屋」を生み出し全国で展開するようになった。このような同社の成り立ちと活動については後編で詳しく述べる。
【連日12時近くなるとウエイティングができる】
メニューは「野菜炒め」一本でカスタマイズ
「ベジ郎」は13坪、15席。カウンター越しにオープンキッチンとなっている。メニューは「野菜炒め」一本と前述したが、詳しくはこうなっている。
野菜炒めの味付けは「醤油」「ぽん酢」「味噌」の三種類(すべて同価格)。野菜の量は「普通」が400g、「少なめ」300g(+0円)、「マシ」500g(+0円)、「マシマシ」600g(+50円)。成人の野菜摂取目標量は350gと提唱されていて(厚生労働省)、日本人の平均摂取量は290g、20代~40代では7割弱しか摂れていないという(同『国民健康・栄養調査』令和元年)。
【店頭にはカスタマイズのお品書きが並べられている】
「ベジ郎」の野菜炒めの「普通」は400gで、野菜摂取目標量の350gを優に上回る。その量は圧倒的だ。この一食で1日分の野菜が摂取できるということは実にお手軽である。「ベジ郎に行けば安心」という消費者心理が生まれることだろう。ご飯とスープのセットは100円で、野菜定食として食べる場合はこれらの価格に100円プラスとなる。
野菜炒めに“こってり感”を加えるために「背脂」を選べるようになっている(基本は「なし」)。「中脂」20g(+0円)、「大脂」40g(+0円)、「鬼脂」80g(+50円)で中と大は無料だ。
肉野菜炒めの場合は肉の量で価格が変わる。肉は鶏肉の唐揚げを使用。「肉中盛り(100g)野菜炒め」700円、「肉大盛り(150g)野菜炒め」800円、「肉特盛り(200g)野菜炒め」900円。これらの他に「追加パクチー」(+50円)、「追加バター」(+50円)がある。ドリンクは「生ビール」「本搾りレモン」「黒ウーロン茶」はいずれも「+200円」となっている。
【お客はまさに老若男女と幅広い】
このように「ベジ郎」のメニューは「野菜炒め一本」で、そのボリュームの多寡や、定食セット、肉、ドリンクはすべて「+」、つまりお客がカスタマイズしていく。
野菜炒めの“味変”として「カレー粉」と「ベジの素」(鷹の爪を漬けたもの)をテーブルに用意し、野菜炒めをカレー味と辛味に変化させることで飽きることなく楽しむことが出来るようにしている。
伸びる居酒屋チェーンの倍の生産性
代表の竹川氏によると、「ベジ郎」の構想は今年の4月に立ち上がったという。
「当社が生産者と直結しているというストーリー性は、他者が真似ることが出来ません。このB to Cを発揮しようと考えた。」
そして、生産性を緻密に考えた。まず、チェーン展開していくために客単価を抑えた。
「居酒屋チェーンで伸びる業態は『客単価2500円』とされているが、4人掛けテーブルとして1卓2.5人となる。これが2時間滞在して1席あたり1600円弱。ベジ郎は客単価900円で滞在時間は30分で、客単価2500円の居酒屋よりも席効率は高くなる。」
客単価2500円の居酒屋での2時間滞在のパターンに「ベジ郎」をあてはめると、4人掛けに4人が座り(ベジ郎はカウンター席)、2時間は「ベジ郎」の滞在時間30分の4倍となるので、「900円×4」で1席あたり3600円となる。
前述したビールの追加が「+200円」となっているが、この容量は一般のジョッキで、居酒屋の価格の半値以下である。
「このビールの存在感は販売促進です。ビールで儲けようとしているのではなく、このビールがベジ郎で野菜炒めを食べるきっかけとなればと考えている。ビールは野菜炒めが出来上がる間に飲んでいただく。」
【これが「味:醤油」「肉の量:中盛り100g」「野菜の量:普通400g」「背油の量:20g」800円の定食】
従業員は4人。通常は11時~23時の通し営業だが、現在はオペレーションを整えるために15時~17時をクローズしている。この営業体制で1日客数250人、ざっと月商670万円を超えるペースとなっている。「現状の売り方にデリバリーが加わると確実に積み上がる」(竹川氏)と想定している。近いうちに直営店を3店舗の体制にして、FC展開に進んでいこうとしている。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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