北海道の六次化で個性的な季節定番メニュー、食物販を誕生させる
イーストン 後編
イーストンでは同社の主要となるカジュアルイタリアンと焼鳥の業態を他社と差別化するために六次化を進めてきたことを前編で述べた。
その最初の取組みとなった一次産業の「あべ養鶏場」は「下川六〇酵素卵」というブランド卵を育てて、レストランで使用するほかに、これを使用したプリンの製造・販売も行なうようになった。使用食材の牛乳、生クリームは北海道産、同様にミネラルを多く含んだビート糖や「宗谷の塩」(稚内産)を使用している。
商品名は「あべ養鶏場のえっぐぷりん」(1個札幌エリア・EC410円~〈税込、以下同〉、関東エリア450円~)。EC販売の他に、リアル店舗を札幌(JR札幌駅構内)、東京・新宿(西武新宿ぺぺ)、立川(グランデュオ立川)、武蔵境(エミオ武蔵境)に構えており、商品としての認知度がたかまってきている。リアル店舗ではプリンの他に「下川六〇酵素卵」(生)、「下川六〇酵素卵の燻製卵」「下川六〇酵素卵ゆで卵」も販売している。
ここでは季節メニューを取り入れるようになり、直近では8月11日から10月初旬まで北海道でしか収穫できないハスカップを使用した「ハスカップぷりん」480円を販売。このハスカップはあべ養鶏場がある下川町の及川農園で生産されたものである。さらに、10月8日~10月31日に“ハローインスイーツ”として「かぼちゃぷりん」480円を発売。このかぼちゃには北海道北見市で生産された「くり将軍」が使用されている。
同社では「飲食店経営」に加えて、このような形で「食物販」の事業が確立するようになった。
【季節メニューとして8月11日から10月初旬まで販売された「ハスカップぷりん」480円】
独創的な季節メニューを定番化
イーストンの六次化の取組みは、カジュアルイタリアンである「北海道イタリアン ミアボッカ」での独創的な季節メニューを定番化させている。
一つは、「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」(札幌エリア1680円、関東エリア1780円)、初夏から夏にかけて旬となる「北海道産ムラサキウニ」を使用。ウニの形状を維持するために、食品添加物のミョウバンが使用されることが多いが、このメニューは一粒ずつ丁寧に殻から取り出し獲れたてのウニの鮮度と味を保持するために、海水と同じ濃度の塩水に浸して各店に届けている。また、塩水ウニの旨みを引き立てるものとして「帆立だし」と「昆布だし」を使用している。
このメニューは2006年以来この季節の定番となることで多くのファンを培った。そこで近年は「ウニダブル」2880円もメニュー化するようになった。前年までは「累計25万食」となっている。今年は6月8日~8月31日に開催された。
【「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」(札幌エリア1680円、関東エリア1780円)は2006年以来、夏の季節メニューの定番となっている】
もう一つは、秋の定番となっている「北海道産秋刀魚を丸ごと一本使った贅沢スパゲティ」(北海道エリア1490円、関東エリア1580円)。第1回は2019年の秋で、今年は9月2日より期間限定で販売中。北海道産のサンマを骨まで食べられるようにコンフィ(食材をオイルでじっくり煮るフランスの調理法)に仕上げて、サンマを1本まるごとのせたペペロンチーノとして圧倒的な存在感がある。
今年はサンマを使用した単品メニューとして「北海道産秋刀魚の香草パン粉焼き」980円、「北海道産秋刀魚のアヒージョ」980円をラインアップしている。近年サンマの不漁が続いているが、サンマの季節限定メニューを継続しかつ開拓していることにイーストンの六次化を全うする矜持が感じられる。
【2019年の秋に第1回が開催された「北海道産秋刀魚を丸ごと一本使った贅沢スパゲティ」(北海道エリア1490円、関東エリア1580円)】
旅行気分を醸し出したご当地フェア
イーストンの焼鳥業態「いただきコッコちゃん」では今年7月1日~7月31日にわたって「北海道・道南ご当地グルメフェア」を開催した。同社の道南出身者が開発したということで、これらの名産品が強調された。採用されたメニューの一部は以下のとおり。
・「コッコちゃんのイカスミ塩ザンギ 5個650円:同店の「コッコちゃんの塩ザンギ」は日本唐揚協会主催の「からあげグランプリ」で金賞を3年連続で受賞していて、これをイカスミフレーバーによって真っ黒でまろやかな食味のインパクトのあるメニューを作った。
・「玉子焼き 函館がごめ昆布」650円:「下川六〇酵素卵」に函館周辺の限られた地域でしか取れない「がごめ昆布」を混ぜ込んでつくった玉子焼き。がごめ昆布は食物繊維やビタミンなど栄養価が高い。
・「函館産のイカたっぷり鉄板ナポリタン」750円:函館産のイカをふんだんに使用し、隠し味に函館産の塩辛を使用したナポリタン。
今夏の旅行シーズンはコロナ禍によって旅行の自粛が迫られたが、このようなご当地フェアは、本来人気の高い「道南旅行」の気分を提供することが出来たのではないだろうか。
このように、イーストンにおける六次化の試みは販売チャネルを豊かにして、次々と新しい可能性を切り拓いていている。
【焼鳥業態「いただきコッコちゃん」で7月に開催された「北海道・道南ご当地グルメフェア」】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第三十二弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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