「山本のハンバーグ 」、パートナーシップで作り上げた「つくね山本」
最近注目の二毛作業態 後編
店内で仕込み、飲食業の楽しさを植え付ける
「最近、二毛作店舗事情」の後編は、株式会社俺カンパニー(本社/東京都渋谷区、代表/山本昇平)が今年5月にオープンした事例である。
同社の社名は「俺のイタリアン」をはじめとした「俺の〇〇」を展開している俺の株式会社と似ているが、前者は2005年6月に創業、後者は2012年11月で、「俺カンパニー」の方が先行している。代表の山本昇平氏は1981年9月生まれ、現在同社はハンバーグ専門店の「山本のハンバーグ」を直営8店舗、FC6店舗展開している。
かつて同チェーンは「俺のハンバーグ山本」を名乗っていたが、同社の出自である独立支援を行うムジャキフーズとの業務委託経営を満了したことから全店舗が俺カンパニーに統合され、「俺のハンバーグ」はムジャキフーズの登録商標となった。これを機に俺カンパニーの店は「山本のハンバーグ」を名乗るようになった。
「山本のハンバーグ」の特徴は、ハンバーグを各店で仕込んでいること。代表的なメニューは「山本のハンバーグ」1850円(税込)で、客単価1400~1500円とファミリーレストランのアッパーにある。ふわふわでジューシーなハンバーグの食感は子供の頃に憧れたご馳走としてのハンバーグを彷彿とさせる。
【店内で仕込むジューシーでふんわりとした食感が特徴、写真は「アボカドチーズハンバーグ」1580円(税込)】
客単価が高くなってもハンバーグを店内で仕込むことにこだわっているのは、「飲食業としての楽しさを店の中に植え込みたいから」(山本氏)という。前回の消費増税(2014年4月)ではこのタイミングでハンバーグの肉を外国産から国産に切り替えて、価格を2割引き上げた。その理由は「安全性を保つため」ということだが、リピーターは離れることなく、客数は若干減りながらも売上は増えたという。同店の顧客ロイヤリティの高さを物語るエピソードだ。
〝サラリーマンの聖地″で夜に居酒屋営業
さて、本題の二毛作店舗は「山本のハンバーグ 新橋食堂/つくね山本」である。店名の通り、昼は「山本のハンバーグ 新橋食堂」、夜は「つくね山本」として営業する。店舗規模は17.5坪26席、店内にオープンキッチンを大きくレイアウトして、調理をはじめとした従業員とお客さまとの距離感を近くしている。
【昼の営業では看板で「山本のハンバーグ」をアピール】
同店は、新橋駅の西側で内幸町や虎ノ門との中間より新橋寄りで徒歩5分程度。路地裏の新築ビル1階にあり、角地を利用した開放的でかつ落ち着いたデザインの同店は、京都で町屋が軒を連ねる路地裏の雰囲気がある。
これまで食事主体の専門店を展開してきた山本氏にとって「新橋」という立地は「アウェイな感じ」があったとのことだが、同店のコアな顧客であるビルのオーナーから出店を要請されて、〝サラリーマンの聖地″新橋に挑戦することになった。出店に際して、ハンバーグ専門店で営業することは難しいと判断して、昼は「山本のハンバーグ」、夜(17時以降)は居酒屋で営業することになった。
【店内のレイアウトは昼、夜とも同一】
「つくね」「餃子」「おでん」で気軽な来店動機に対応
そこで夜は居酒屋経営の専門家に相談ことがベストと考え、株式会社DREAM ON代表の赤塚元気氏に相談した。赤塚氏の会社は居酒屋で立ち上がり、近年はそのノウハウを持ってカフェの繁盛店を展開している。
居酒屋の売り物としては昼のハンバーグの延長線にあることを考慮して、まず「つくね」を想定、その専門性を強調することなく気軽に利用していただくという狙いで「餃子」と「おでん」を加えた三本柱とした。
つくねはハンバーグと同様に店内で練り上げ平べったい串にまとめて一口で食べるサイズ、「塩つくね」160円、「たれつくね」170円がベースとなり、「うめ大葉」220円、「畑のキャビアマヨ」250円などトッピングに工夫を凝らし、12品目をラインアップ。餃子は博多風の小さいサイズで〝何個でも食べられる飲める餃子″をうたい、「12個」790円、「16個」980円。おでんは大根、日高昆布、たまごなどのオーソドックスな種を10品ほど200~390円でラインアップして、「季節のおでん」を取り入れて特徴を出している。
客層は当初、新橋を象徴する男性サラリーマンを想定していたが、営業を重ねるうちに内幸町や虎ノ門から新橋駅に向かう女性客が定着するようになった。ハンバーグ同様に価格をアピールするのではなく商品の安全性に気を配る姿勢がこれらの客層を呼び込んでいるものと思われる。夜の客単価は4500円。ちなみに昼夜のトータルでFLコストは60%に達している。
【夜の「つくね山本」では暖簾で居酒屋の雰囲気を演出】
俺のカンパニーでは同社として初めてとなる夜にアルコールを販売する業態をパートナーシップでつくり上げた。その背景にはそれぞれの営業時間帯のフォーマンスをフルに生かすことが狙いであるが、均一化や価格訴求といったチェーンの仕組みづくりを志向しないで、商品の安全性に基軸を置いた顧客本位の個店に似た経営方針が可能にしている。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第十一弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
「ニュース・特集」の関連記事
関連タグ