飲食店開業者インタビュー VOL.30「Taste Labo.」 上田浩貴さん/食の分野で、どんどん新しい挑戦をしていきたい
2020年12月1日、小竹向原駅から徒歩8分の住宅街にオープンした「Taste Labo.」。調味料やパスタなどの輸入食品や、自社で製造した惣菜やパスタソースなどの加工食品を販売しています。コロナ禍で飲食業界が苦境に立たされている最中、どのような経緯で開業に至ったのでしょうか。同店を運営する株式会社ミナト代表取締役・上田浩貴(うえだ ひろたか)さんにお話を伺いました。
―「Taste Labo.」は輸入食材だけでなく、自社で製造した食品も扱っているのが特徴的ですね。なぜこの業態を始めようと考えられたのでしょうか。
(上田さん)もともとは飲食店で働いたり、輸入会社に勤めたりといろいろな仕事をしていたんです。それが8年ほど前、輸入食品会社の代表から「事業を手伝ってほしい」と誘われ、少しのつもりで手伝ったのは事の始まりですね。あっという間に8年です。そんな中輸入食材を使って、取引先のレストランの味を再現するセントラルキッチンを展開したいと思うようになりました。そこで会社にはそのまま所属しつつ、自分でも独立事業を始めることにしたんです。
―会社に属しつつ、起業をされたんですね。開業準備はいつ頃から始めましたか?
(上田さん)1年半~2年前から準備を始めたんですが、そのときはなかなか良い物件を見つけられなくて。そうこうしているうちに新型コロナの影響が出始めましたね。
―コロナ禍で準備を進めるのは難しいですよね。厳しい状況の中でも開業できたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。
(上田さん)まさにコロナがきっかけです。レストランに営業自粛などの影響がでたことで、通販対応や、冷凍食品の需要に対するサポートができる!ということに背中を押されましたね。中小企業診断士の方から「新型コロナ関連の助成金を利用して開業できる」ともご指示いただき、コストを抑えて開業できるならと一気に推し進めました。成果報告などの書類準備がかなり大変ではあるんですけど、申請したことで800万円も助成してもらえることになりました。
―800万も!それは大きいですね。コロナ前から物件探しには苦労されていたとのことですが、どのような場所を探していたのでしょうか。
(上田さん)僕の希望は、とにかく厨房が大きい場所でした。加工食品を製造するには、普通の飲食店に比べて大きい機械がたくさん必要になるので。それから、お客さんも一番のターゲットは飲食店ですし、立地は気にしていなかったんです。
ただ、飲食店はやっぱり、アクセスのいい駅近が相場ですよね。居抜きで駅から遠い物件ってあまりないんですよ。それに、厨房面積が大きいところを探すのも難しかったです。普通飲食店って食べてくれる人を増やしたいから、客席を広くしたいじゃないですか。そうすると必然的に厨房が狭くなってしまうんですよ。希望の物件を見つけるのは、かなり大変でした。
―一般的な飲食店とは営業形態が違うからこその悩みですね。いろいろ探した結果、この物件を選んだ決め手はどこにありましたか?
(上田さん)ここはステーキ屋の居抜きだったんですが、条件が揃っていました。キッチンが広くて、駅から距離があって、家賃も手頃。それから、近隣の方々に挨拶させてもらったとき、雰囲気が良かったことも理由の一つです。うまくやっていけそうだなと思いました。
―そして2020年9月に無事、物件をご契約されたんですね。内装工事はどのように進めましたか?
(上田さん)表の内装はほとんどお金をかけず、とにかくキッチン設備にお金をかけるようにしました。2000万円近くはかけましたね。高級外車も余裕で買えちゃいます(笑)。
設備は加工食品の製造に必要な機械を用意したほか、食品を扱うのでとにかく衛生面に気を配ったつくりにしています。それから、加熱するスペース、しないスペース、食材を保管するスペースなど、しっかりとエリアで分けたところもこだわりです。もともと客席だった場所は、事務作業をしたり、商品を販売したりする場所として使っています。
―店名やロゴも可愛らしいですが、こちらはどんなふうにしてつくられたんですか?
(上田さん)これは僕がつくりました。実は飲食業を始める前に絵描きになりたいという夢があったくらい、絵を描くのが好きで。妻と相談しながら、こんな感じかなあといくつか描いた絵のうちから選んで、ロゴにしてみました。
―いろいろ工夫される中で、開業資金はどれくらい用意されたのでしょうか。
(上田さん)僕の場合は、自己資金ゼロです。借入100%で行いました。ただ、すべて借入で進められたのは、補助金があったからだと思います。借入する際に「助成金が振り込まれたらそれをそっくりそのまま入金します」と伝えたところ、設備投資として2200万円ほど借りられました。それとは別に、運転資金を500万円ほど借りたので、それを合わせるとだいたい3000万円ほどです。
―金額はなかなか大きいですね。やはり、資金は多めに準備しておいた方が良いのでしょうか。
(上田さん)私の考えでは、とにかくお金は多い方が良いと思いますね。開業準備に必要なのはもちろんですけど、お金がないと、気持ちに余裕がなくなっちゃいますよね。。気持ちに余裕があれば、物が壊れても「しょうがない、新しいのを買おう」と思えます。でも、借りたお金は返さなければいけないですけど(笑)
あっ、もちろん、お金だけじゃなくて、人とのつながりも大切です。今回の開業は、多くの人に支えられています。2名の仲間が手伝ってくれたり、知り合いの業者さんが費用を安くしてくれたり…。僕がこのお店を始める前から、関係を築いてきた人たちが助けてくれたんですよね。
―なるほど、お金だけでなく、人とのつながりはやはり大切ですね。まだまだ始まったばかりの「Taste Labo.」ですが、今後の目標はありますか?
(上田さん)ここは名前の通り、「味の研究所」をイメージしています。規模も小さめにして、いろいろな商品を試しにつくってみる、味の研究をする場所にしたいと思って名付けました。とは言え、「Taste Labo.」で成功したのちには、次は「Taste Factory」と名付け、製造工程がきちんと整っている場所をつくりたいですね。まずは「Taste Labo.」で試作をして、上手くいったら「Taste Factory」で流通にのせる商品化、という感じに進められたら、楽しそうだなって。とにかく僕は食でいろいろ挑戦していきたいと思っているんです。最終的には、味のテーマパークのような「Taste Land」が作れたらと思っています!
―どんどん「Taste」シリーズが増えていくかもしれないですね。今後がとても楽しみです! 貴重なお話をありがとうございました。
これから独立する方へ アドバイス 3箇条
- 其の1. お金は多く借りよう
- 其の2. 人にはやさしく、出会いを大事に
- 其の3. とにかく!お金を多く借りよう
お店ができるまで
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店舗情報
店主経歴幼少期をアメリカで過ごす。高校中退後、絵描きの仕事に憧れてフランスへ。 |
取材・文 竹野愛理 幅広い分野でフリーランスライターとして活動中
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