開業ノウハウ

苦境を乗り越える店づくり。「有事」の飲食店経営を考える。

画像

2020年、誰も予測しなかったコロナショックにより、かつてない打撃を受けた外食産業。2021年も新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、外食産業はリーマン・ショックや東日本大震災をも上回る未曽有の厳しい状況が続いています。コロナ禍において、飲食店の開業を考えながらも躊躇せざるを得ない状況にある人もいるでしょう。
 
また一方で、こうした状況下だからこそ、自店舗の価値を見直すことや、業態転換を行って生き残っていくための手立てを考える経営者も数多く存在します。ここでは、苦境をどう乗り越えていけば良いのか、また何をどう見直すべきなのかを考えていきたいと思います。
 

まずは「出血」を止めることから

日々営業を行なっていれば否が応でもコストがかかります。まずは何をするよりこのランニングコスト(出血)を可能な限り抑えた上で、これからどう経営していくのを判断すべきでしょう。飲食店の収益構造上、人件費は売上に対して30%前後が一般的。売れないことを前提に、この人件費を圧縮する判断は誰もが行うことと思います。この他にも食材の仕入れや、割り箸、おしぼりなどの一つ一つの消耗品や、水光熱費等の運営上の全てのコストの見直しを行うと良いでしょう。また、家賃においても交渉の余地があるかもしれません。ただし、貸主との関係性をしっかりと考慮した上で行うことが大切と言えます。
 

政策支援をしっかりと受ける

人件費を安易にカットしてしまうと、これまで大切に育ててきたスタッフの離職につながってしまいます。事態収束後の営業に備え、手放すことは出来る限りしたくないものです。そこで活用したいのが、雇用調整助成金です。
 
新型コロナウイルスの影響による解雇を防ぐ目的で、何度かの内容変更を経て、申請手続きも簡素化され、事業主がより活用しやすい制度へ整えられつつあります。受給期間の延長など、最新の情報はチェックしておきましょう。
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)
 
この他にも国や東京都の中小企業や小規模事業者向けの補助金や助成金、自治体独自の支援策などもあるので常にチェックして、活用できる支援策はしっかりと受けるべきでしょう。
中小企業向け補助金・総合支援サイト ミラサポplus
 

コンセプト(事業の方向性)を見直す

緊急事態宣言に伴う営業時間の短縮要請によって、「時間が出来た」という経営者も多いかと思います。改めてこれをチャンスと捉え、自店のコンセプトを見直す機会を設けてみてはいかがでしょうか。
 
以前こちらの記事で、飲食店のコンセプトの決め方を紹介させてもらいましたが、これにならい今回は5W1Hで整理することで、コンセプト(事業の方向性)の見直しを行なってみましょう。
目指せ!繁盛店! 飲食店のコンセプトの決め方とは
 

Why:何の為にお店を経営していくのかを考え直してみる

「自分のお店を持つこと」が叶った今、日々営業をする中で「開業時の思い」は実現出来ているでしょうか?飲食店経営をすることで得る報酬だけでなく、お客様や従業員にどのような価値を提供できているでしょうか?改めて飲食店経営をすることで、自分や従業員が「何を得られるのか」を見つめ直すことで「新たな方向性」の発見となるかもしれません。
 

When:いつまで事業を続けるのかを考えてみる

開店当初は、事業を軌道に乗せることを一つのゴールとして必死に働いてきた飲食店経営者も、今回の新型コロナウイルスのような外的要因による売上減で、一度は閉店や撤退が頭をよぎったことでしょう。閉店も開店同様に一定の資金が必要です。例えば、物件をスケルトン状態に回復するにも多大な費用を要します。居抜きによる造作譲渡や事業そのものの譲渡など、様々な方法を視野に入れることも必要でしょう。事業には、始まりもあれば終わりもあります。今すぐに閉店することはなくても、事業をどう終わらせるかを確認しておくと先々の安心につながるでしょう。
 

Who(Whom): ターゲットを見直してみる

コロナショックは、生活や働き方、人と人との関わり方を一変させてしまいました。当然ながら、自店に来る客層や来店の時間帯、グループ単位にも変化があったはずです。おそらくコロナ以前と全く同じ客層が来ることは無いと考えた方が妥当かもしれません。
 

What:商品(メニュー)を見直してみる

「ターゲットが、どのように利用するのか」に応えるものが商品(メニュー)だとすれば、自ずと見直しが必要と言えるでしょう。同じ商品でも価格や盛り付け、セットメニューにするなど提供方法を変える必要があるかもしれません。
 

Where:商圏を見直してみる

ここ数年拡大してきたフードデリバリー市場ですが、コロナ禍による飲食店への来店自粛により、一気に市場拡大しました。これにより飲食店の商圏は大きく拡がりをみせ、フードデリバリーという「新たな飛び道具」を持つことで、それをきっかけに実店舗への来店につなげている飲食店も多くあります。そのような事象も踏まえ、自店の商圏を見直してみましょう。
 

How:どのように売上をつくるのか

コロナショックによる社会変化は消費スタイルをも一変させました。大手居酒屋チェーンなどでも、ランチ営業やテイクアウトを開始して、新たな売上をつくることや、既存店を焼肉店へ業態転換するなど売り方そのものを変化させることで、このかつてない苦境を乗り越えようとしています。これまでの飲食店経営の常識や枠組みを超えて、業態自体を大きく見直す変革期にあると言えます。
 
業態転換についてはこちらの支援策の活用を検討してみても良いでしょう。
業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業
 
このように有事の際は、連日の報道で不安になったり、周りからの同調圧力もあり、「仕方ないんだ」と思考停止してしまいがちです。しかし、止まない雨はありません。まずは、コストを限りなく抑え、損益分岐点を下げること、政府や自治体の支援を受け、資金繰りを行うこと。その上で、冷静な目で事業の見直しを行うことが、苦境を乗り越える一つの方法ではないでしょうか。
 
川瀬 亮太 飲食店経営/プロデュース ROOTage(株)代表取締役
 

「開業ノウハウ」の関連記事

関連タグ

「開業レポ」記事の一覧