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蛇口からお酒が出てくる「テルマエ」が、いまZ世代に人気絶頂の秘訣とは

いま「Z世代に人気の居酒屋」が注目されている。その傾向は、ずばり「安い」ということ。看板に「生ビール190円」と大きくアピールしていることが共通している。お店の中に入ると、見事に「20代」ばかりで活気がある。おじさんの筆者は、一人で行くと気が引けるが、なんだかとてもうらやましい気分になる。
この「Z世代に人気の居酒屋」の一つに「テルマエ」が挙げられる。同店の特徴は「蛇口からお酒が出てくる」ということ。いかにして、このようなアイデアが生まれたのか。そして、人気の秘訣について、同店を展開する株式会社BIRCHの代表、高橋光基(たかはし・てるき)さんにお話を伺った。
【11月14日(金)18時の池袋駅東口にある店舗の様子。エレベーター無し3階にあるが、見事に20代の若者で満席になっていた】
コロナで窮地に陥る中で、アイデアがひらめく
「テルマエ」の「お酒が出てくる蛇口は」酒の種類別に13基が壁面に設けられ、それが2面ある。ウイスキー、ウーロン酒、ラムネ酒といった内容で、それぞれ40度、20度、10度といった具合にアルコール度数の目安が表示されている。それをお客が、炭酸水、氷などの割り材で、好みの飲み方を楽しむ。要するに、アルコールのバイキングである。これで「1時間飲み放題」が398円(税込438円)である。
【「お酒が出てくる蛇口」は13種類が2基、計26個設置され、お客が好みでお酒をつくる】
フードメニューは、「テルマエ串」70円(税込77円)、「小籠包」70円(同77円)、「からあげ」480円(同528円)、「麻婆豆腐」666円(同733円)、「濃厚エビマヨ」490円(同539円)といった内容(一部)。これらで客単価は2500円とのことだ。
【店舗は3階にあるが、1階の看板で「低価格」であることを訴求している】
高橋さんは1994年1月生まれの31歳、高橋さんもZ世代である。現在の事業は、高橋さんが勤めていた飲食企業の社員独立制度を活用したことから始まった。それが25歳のときで、2019年8月に会社を設立した。
当初は、「2000円で食べ飲み放題」や「宴会コース」のお店をすべて空中階で5店舗展開していた。そして2019年12月には1000万円程度の利益を出した。それがコロナになった。それ以来、毎月1000万円がキャッシュアウトしていくという状態となった。
資金調達はできたが、「この業態を何とか変えないと」と考えた。そして高橋さんは、同社の幹部と電車に乗っていたとき、ふと「蛇口からお酒が出て来ると面白いのでは」と、ひらめいたという。そこから、そのイメージを詰めていって、1カ月後の2021年11月名古屋・名駅のビルの6階にある店舗を「テルマエ」につくり変えた。
ここは約50坪で、リニューアル前まで月商300万円を売っていたが、「テルマエ」になってから、すぐに900万円、1000万円になった。
以来、4年間、2025年11月末で19店舗となっている。
モバイルオーダーを活用して顧客とつながる
リニューアルオープンした1号店が大ヒットを飛ばした一番のポイントは、「蛇口からお酒が出てくる装置の集客力」ということ。そこで、「若者をターゲットにして、客単価を抑えて、体験価値を高めると、空中階でも成立するのではないか」と、考えた。
では、ターゲットの若者の消費傾向はどうか。それは「週に2回居酒屋に行って、5000円で収められるとうれしい」という。そこで「客単価2500円」という予算を割り出した。
そして、リピーターとして定着してもらうために、「まず、3回来店してほしい」と。そのための仕組みづくりを考えた。
それは、「FUNFO」というモバイルオーダーを活用して、店の運営の在り方を改善すること。「『蛇口からお酒が出て来る』というのは、お客様にとってはテーマパークのように楽しいことであり、タイパです。一方、店側にとっては人件費の削減です。この削減したコストをモバイルオーダーにかけていきました」
「このモバイルオーダーでは、お客様がご利用されるとLINEでつながります。そこで、『これにアンケート機能を付けて欲しい』とお願いしたところ、それを実装してくれました。そこでまず、お客様が来店した次の日にアンケートを送って、それに答えていただくという仕組みをつくりました」
FUNFOを開発した同社の代表は統計学に明るい人で、アンケートの回答率の目標値を提案してくれた。そして、成果目標が高まるように、背景を工夫したり。こうして、アンケートの結果を把握して、それを元に改善を行うようになった。そして、お客にLINEを送ることで、リピーター率の成長を図ることが出来た。同社ではいま、このようなことを日々回している。
「お酒が湧き出る泉」から「銭湯」のイメージへ
「テルマエ」の店内には、「蛇口からお酒が出てくる」だけではなく、独特のデザインが施されている。
まず、店内は「銭湯」のイメージで統一されている。そもそも「テルマエ」とは、「お酒が湧き出る泉」という発想から膨らんでネーミングされたもの。冒険家で商売人のテルマエ隊長が、「酒の泉が湧いている」という伝説を信じて、幼い頃より世界中を飛び回り、30年に及ぶ戦いの末に、伝説の泉“酒泉”を発掘して、蛇口を取り付けた。――ということから、ストーリーが描かれている。
【店内のデザインは、「お酒が湧き出る泉」ということから「銭湯」のイメージで統一している】
そこで、店名を古代ローマの公共浴場の名前「テルマエ」とした。古代ローマのテルマエは単なる入浴施設でなく社交場として人々の生活の中心に位置づけられていた。
この「お酒が湧き出る泉」の空間を「大衆酒泉テルマエ」になぞらえて、銭湯のようにくつろげる空間をつくった、という次第。目に付くモノとして、「蛇口」にはじまり、「番台」のようなレジカウンターとか、銭湯の内装とか。フードメニューにも、「天国温泉白湯豆腐」「地獄温泉麻婆豆腐」とか、「風呂上りの牛乳瓶プリン」という具合に、温泉や銭湯をイメージするネーミングになっている。
高橋氏はこう語る。「それは、『ストーリーテリング』が重要だと考えているのです。イソップ寓話の『ウサギとカメ』のストーリーについては、ほとんどの人が理解していますね。そして、『ウサギとカメ』と聞いただけで、ウサギとカメの絵柄や様子を思い浮かべることが出来ます。そこで、テルマエ隊長のストーリーを、お客様により深く記憶に留めていただくためにイラストにして、また四コマ漫画にしているのです」
【架空の創設者「テルマエ隊長」をイラスト化して、ストーリー展開を行っている】
「テルマエ」とは、業態で言えば、「客単価2500円で、蛇口からお酒が出るお店」である。しかしながら、ただ単にそれだけではお客にすぐに飽きられてしまう。そのために、お客の記憶に残るストーリーをつくり上げ、それに基づいた演出を施している、ということだ。
加盟店募集に取り組み店舗が急増する兆し
いま、「テルマエ」の客層は狙い通りに20代がメインとなっている。20代の割合は、全国平均では74%、渋谷店で多いときには90%。大阪駅前は54%。いずれも店舗も若い客層が中心となって、売上は好調。客単価2500円で、原価率28%で推移している。
同社では、2025年に入り、加盟店募集に本格的に取り組むようになった。そのために、大きなターミナル以外、例えば、東京・荻窪といった場所にも直営で出店した。それは、「FCで展開していくためには、自分たちで実績をつくらないといけない」という判断をしたからだ。
同社の加盟企業は、いま5社が存在している。そのうちの1社が8月に福岡・天神にオープンした。約70席の店舗で、いきなり1400万円程度を売っているという。このほかは現在工事中で、この12月から、続々と店舗が増えていくという。
社名のBIRCHとは「白樺」のこと。「白樺は森を豊かにしていく樹木」ということで、この社名を選択したという。そして高橋さんの白樺という会社は、飲食業界を豊かにする存在として、活発に動いている。
【「テルマエ」を展開するBIRCHの高橋社長。2025年に入り、加盟店開発を積極的に行なっている】
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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