「個人オーナーのチェーン店」を貫く「やきとり大吉」の変化対応戦略とは
「やきとり大吉」(以下、大吉)という焼鳥専門店を郊外の住宅街で眼にすることが多い。この店は1978年、兵庫県尼崎市に1号店がオープンし、以来急速に店舗を増やして、1998年には1000店舗を突破した。創業者は辻成晃氏という人物で、1977年に会社を立ち上げ、翌年から「大吉」の全国チェーン展開を図っている。独自に生み出した「150万円で経営者になれる」という開業システムによって店舗展開を続け、1987年にダイキチシステム㈱に社名を変更して、一段と出店を加速した。こうして「日本一の焼鳥チェーン」となった。
【「やきとり大吉」に加盟してのセカンドライフを象徴するメッセージを店内でアピールしている】
「うちは生業や、個人対個人で商売をしているんや」
「大吉」の一番の特徴は、本部は直営店を持たず、すべて「個人オーナーの加盟店」で構成されているということだ。これは、創業以来の理念である「生業(なりわい)商売に徹する」ことに基づいている。
現在、ダイキチシステム代表取締役社長を務めるのは近藤隆氏。自身がサントリーの営業担当として1994年から6年間「大吉」を担当した。
「この当時、私は『辻イズム』を徹底的にたたき込まれました。それは『生業とは汗して働くこと』。あるとき『1億円あるから10軒つくってくれ』という人がやってきて、それに対して辻さんは『うちは生業や、個人対個人で商売をしているんや』と言って追い返していました」
「大吉」にはスーパーバイザーが存在しない。その代わりを務めるのが同社と取引をしている全国100の業務用酒販店である。業務用酒販店は日を開けずに「大吉」店舗を訪れる。このときに本部が作成したチェック項目を確認する。ここにも「生業の精神が活かされている」と近藤氏は語る。
「これは、お酒を納入するついでに店をチェックするというのではありません。『うちの会社の可愛い店のことをしっかりと見て、報告してください。良いことも良くないことも』。このようなことを店側も理解して、店の営業体制が保たれているのです」
【従来型の通称「赤い大吉」の印象に残る看板は郊外の住宅街で眼にすることが多い】
現在の「大吉」のコンセプトは「笑って、生きていく。」である。「個人オーナーの生業精神」を一言で表現したものだ。同社では、これらの個人オーナーのストーリーをホームページにまとめQRコードにして、それを付けたポスターをトイレに貼っている。お客はこのQRコードを読み取り、いま自分が利用している店の成り立ちを知ることになる。これによって大吉の顧客に「セカンドキャリアを大吉開業で考える」という気づきも生まれることであろう。
このような「大吉」では、2022年から次の成長に向けて動いている。一つは、新しい「開業プラン」。これによって、加盟店となる動機を広げている。もう一つは、新しい客層を開拓するための「新業態」である。
加盟動機を広げる3つ目の「開業プラン」
まず、新しい「開業プラン」に取り組むようになった背景について、個人オーナーの高齢化に伴う店舗の減少傾向が挙げられる。
「大吉」は1998年に1000店舗を超えたと述べたが、この当時に開業した個人オーナーが閉店する事例が見られている。新規開業も継続しているが、閉店の方が多く年々漸減傾向を示しているという。現在の総店舗数は約500店舗となり、この現象に歯止めをかけるべく、新しい開業プランを設けた。
「大吉」では、これまで2つの開業プランで店舗を増やしてきた。1つは「リース方式」(低資金で開業)。本部の店舗を、加盟金をはじめ約150万円程度の金額で借りて開業するというもの(2年更新)。これに月々店舗家賃や店舗使用料、ロイヤリティ(3.3万円)などの本部への支払いがある。ここで条件となるのは、低資金で開業ができても「本部の店舗」であるから、どのエリアで開業できるか分からないということ。そこで、このプランで開業するオーナーは、自己資金を貯めて、もう一つの開業プランを目指すパターンが多い。
それが「オーナー方式」(本人の希望するエリアで開業)。これは、店舗の装備を自分で整えて(初期費用約1800万円以上)、ロイヤリティや改装積立金などを本部に支払い、店舗家賃は家主に直接支払うというもの。ここのメリットは、本人が希望するエリアで開業できるということだ。現在の総店舗数は約500店舗と述べたが、このうち「リース方式」は50店舗、「オーナー方式」は450店舗となっている。
そこで「NEW」をうたった新しい開業プランは「エリア指定リース方式」(リース方式とオーナー方式の中間)というもの。前述した「リース方式」は「2年更新」と述べたが、リース方式で最初の2年間スキルを磨いた後に、希望するエリアで開業することが出来る。この店舗は本部が借り上げているために、具体的なエリアについては本部と要相談となる。本部への支払いは「リース方式」と同様で、エリア指定移行時に別途保証金を330万円納付することになる。
この「エリア指定リース方式」は、「親の面倒をみたい」といった背景を持つ人にとっては「リース方式」よりも便利な内容で、リリースしてからの問い合わせが多くなっているという。
「新業態」によって利用パターンを開拓
さらに、前述した「新しい客層を開拓するための新業態」とは、既存の通称「赤い大吉」をベースにして開発した「白い大吉」である。
【焼鳥専門店としてベーシックな商品構成に加え、ソースなどで新しいバリエーションを加えている】
この業態をつくることになった理由は、「赤い大吉」のリブランディングが必要ではないかと考えたことだ。そこで2021年春に「全国1万人アンケート」を実施した。ここで質問したことは、まず「ブランド認知」、次に「入店したことがあるか」ということだ。「ブランド認知」については、全国、北海道・稚内から沖縄まで店舗が存在していることから認知は浸透していた。次の「入ったことがありますか」の段階でスコアが下がった。その理由は「赤い大吉は、外から店の中が見えにくく、雰囲気が分かりづらいので入りにくい」というものが大半を占めた。
【「白い大吉」は、現状、国内4拠点9店舗で検証がなされている】
「では、外から店の中の様子がものすごく分かりやすい店をつくろう」(近藤氏)と、カジュアルで明るい店を開発することになった。「白い大吉」のメニューは、「赤い大吉」が築いてきた「焼鳥専門店」の伝統を踏襲しながら、「ササミのカツ」「レバーのパテ」「ラーメン」などのフードメニューを増やした。
こうして「白い大吉」は2022年9月、神戸市内に1号店をオープン。現在、東京、神奈川、大阪、兵庫の4拠点、9店舗で客層の動向などを検証中だ。
検証した内容では、「赤い大吉」では女性客が2~3割だが、「白い大吉」では5割になっているという。また、客層は「赤い大吉」が40代~80代に対し、「白い大吉」は20代~80代となっている。これからの新規出店は基本的に「白い大吉」で展開していくという。
筆者は5月の上旬に「白い大吉」の国分寺店を訪ねた。間口が広く店の外のどこにいても店内を見渡すことが出来る。店内の奥の方で学生が飲み会をしていた。そこで「国分寺は学生街だ」ということに改めて気づいた次第。「赤い大吉」ではこのような利用シーンが存在していなかったと思う。
【「白い大吉」の国分寺店では、学生が飲み会を楽しんでいた】
経営に関わるあらゆる人には「変化対応」が迫られている。「個人オーナーが生業商売に徹する大吉」が選んだ変化対応とは、独立希望者の加盟動機の変化対応と、新規客獲得の変化対応であり、これを捉えて新しい成長に向かっている。
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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