焼き肉主力事業の会社が味が共通するホルモン店と出合いFC契約を結ぶ
ホルモン・もつ焼きの賢い選択 前編
最近「もつ焼き」「ホルモン」の出店事例が増えている。注目されるのは焼き肉店を展開している企業からの参入。本業の焼き肉店は5000円~7000円といった中価格帯。ちょっとしたハレの日需要で顧客を育ててきているところが「ホルモン焼き」に取り組んでいる。その背景を探っていくと、飲食業界の市場環境と、焼き肉店で成長してきた企業の成長戦略が見えてくる。
「富裕層」「ファミリー」を想定した焼き肉店
「まんぷく」という焼き肉店が東京・自由が丘、代々木上原、青山、二子玉川といった富裕層の多い住宅地で展開している。客単価は7000円。これらは地域密着で地元家族客から代々愛される店となっている。
これらの店を経営するのはテイクファイブ(本社/東京都渋谷区、代表/遠山和輝)。同社にとって焼き肉店は代表である遠山氏の祖母が東京・勝どきで「まんぷく苑」を営んでいたことにさかのぼる。同店はそれまでたれ味が主流だった焼き肉業界において「ねぎタン塩」を初めて商品化した店として知られている。
同社は1993年5月に設立、東京・表参道にカジュアルイタリアンをオープンしたことに始まる。「まんぷく」の展開は1995年5月から。冒頭で述べた同店の立地や客単価の狙いについて、遠山氏は「ファミリーで焼き肉を楽しんでいただくことにこだわりを持っている。小さなお子さんには上質の外食体験をしてほしいので、お子さんが店に行くのを楽しみとする環境の良い店づくりを心掛けている」と語る。
【横浜・鶴屋町の店舗ではオープン時に限定でホルモンの食べる順番を提案する盛り合わせをラインアップ】
遠山氏が飲食業に親しむようになったのは、遠山氏の母が東京・自由が丘にあった焼き肉店を手伝っていて、遠山氏が学生時代に部活動の練習が終わってからそれを手伝うようになったこと。23時になると母は家に帰ることから、その後の深夜の時間を自分の好きな営業スタイルで自分がおいしいと思うものにこだわって営業していたという。
そのうちにお客が大層喜んでたくさん付くようになった。自分は性格的に人に喜んでもらうことが好きだと思うようになり本格的に飲食業に進むことを志すようになった。
「ホルモン」は大人の個人、明日への活力
テイクファイブは2018年11月より「亀戸ホルモン」というホルモン焼きの業態を展開するようになった。「まんぷく」のコンセプトとは大分異なったイメージである。「富裕層」「ファミリー」を狙ってきたところが、なぜホルモン焼きなのだろうか。
【「亀戸ホルモン本店」由来の赤い提灯を掲げてブランドイメージを統一している】
同社が「亀戸ホルモン」を展開することになったのは、JR亀戸駅北口にある亀戸ホルモン本店が恵比寿に出店したことがきっかけ。その箱を同社に譲渡するという相談があり、代表の遠山氏(54)がその店で食事をしたところ「うちの味と一緒じゃないか」と感銘を受けた。そこで、箱を譲り受けるのではなく「亀戸ホルモン恵比寿店」の営業を継承し、マスターフランチャイズ契約を締結した。
同店は恵比寿に続き神楽坂(FC)、有楽町、五反田、目黒権之助坂と展開。サラリーマンの憩いとなり、また住宅街を背景にした場所に出店してきた。最新店では2022年9月JR横浜駅近くの飲食店街「鶴屋町」にオープンした。
「亀戸ホルモン」のステートメントコピーはこうなっている。ファミリーとは異なる、大人の個人に迫るメッセージである。
「今日という日を振り返ってみる。ベストを尽くしたか? 今日の自分はイケていたか? 友達に感謝できたか? 家族を大切にしているか? あの人とうまくやっているか? 今日という日を悔んでいないか? さあ、明日も自分らしく生きようぜ!」――
客単価は「まんぷく」が7000円あたり、「亀戸ホルモン」は4500円ということで客層や利用動機も異なる。「まんぷく」の常連客がテイクファイブで「亀戸ホルモン」を営業していること知り、同店を訪ねてみてはその“意外性”を楽しんでいる。
【「まんが盛り」でホルモン・焼き肉を豪快に食べることを提案している】
同社における「亀戸ホルモン」の存在意義について遠山氏はこう語る。
「亀ホルでお一人で食事をしているお客様は本当に楽しそう。自分へのご褒美なんですね。そして品質とサービスにおいて、このようにご褒美になるようなホルモンにしていかないと」
「装置ではなく『商品』を選んで店に入ってきてほしい。そこに店があるからという動機では店は続かない。どこにいく?あそこにいこう!といった感覚でお客様に認知されないと」
「亀戸ホルモン」は客単価や想定する客層も大衆路線であり、これからはFCにも取り組んでいく意向という。明らかに業容拡大のポテンシャルを高くしている。
【男性客だけではなく女性客の利用も普通のものになっている(鶴屋町店でのレセプション画像)】
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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