ワンダーテーブルが整えた「テイクアウト・デリバリー」のスピード
アフターコロナのキーワードは「ファン」 後編
この度の新型コロナウイルス禍の中で、飲食業の各社・各店ではテイクアウト・デリバリーに着手する事例が数多く見られた。さらにEC(通信販売)サイトを新たに立ち上げたところもあった。緊急事態宣言が解除された5月末からはイートインの通常営業に戻っているが、この間に行なったテイクアウト・デリバリー・ECは自社・自店にとって新しい販売チャネルとなり、それを継続することによって新しいマーケティングが顕在化したことであろう。
【「天吉屋(てんきちや)」のテイクアウト商品の中で4月13日から販売された「天むす12個」1200円(税込)】
その点、筆者はワンダーテーブルとエー・ピーカンパニーの動向に注目していた。この2社に共通していることは、コロナ禍の中でニュースリリース配信代行サービスの『PR TIMES』で矢継ぎ早に情報を発信していることだ。この2社の取組みはこれからの飲食業にとってどのような在り方を示しているのだろうか。
【「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」にはファンが多く、テイクアウトの販売量が突出した】
来るべき緊急事態に備えて幹部メンバーが共有
そこでまず、ワンダーテーブルの『PR TIMES』で行った情報発信を紹介する。
同社は国内48店舗、海外76店舗を展開。緊急事態宣言が発出された4月7日の翌日、4月8日より国内全店舗のイートインを休業。8ブランド22店舗でテイクアウトとデリバリーを逐次行っていった。その内容はこうだ。
PR TIMES
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【4月18日より販売がスタートした「バルバッコア」のファミリーセット7000円(税込)】
これらを行った背景について同社広報担当に伺った。
同社では、3月13日に代表の秋元巳智雄氏が社員に向けて「サバイバル宣言!」を発した。それは「新たな想像力で業務改革にチャレンジしていこう!」というものだった。この宣言が出る前に幹部メンバーにはそれを求める内容が共有化されていて、広報担当者としては、「テイクアウト・デリバリーのまとめサイト」(4月17日リリース)の構想を準備したという。それが4月8日に全店イートイン休止となりながら、わずか10日間でこのサイトが出来上がることができたのであろう。
ニュースリリースを各店舗のSNSがフォロー
さて、4月14日の「ロウリーズ2店舗で初日から3日間で牛肉200㎏を使用した」というニュースリリースはとてもインパクトがある。この発信の仕方は、プラスの要素を引き付けることになる。このようなニュースリリースの配信に合わせて、各店舗がSNSでお客を歓迎して奮戦している様子をアップしている。続けて広報担当者はこう語る。
「1年以上かけて、SNSとGoogleの各店ページを魅力的にする取り組みを行ってきました。グルメサイトに頼らずとも、発信できるお客さまがすでに各店についています。Facebook以外では、インスタグラム、一部店舗にはTwitterがあります。Googleもフル活用しています」
同社では、「緊急事態宣言」が解除されて通常営業に戻ってもテイクアウト・デリバリーを当面の間継続する意向だ。同社ではこれまで店舗数を減じながら収益を伸ばしてきた。それはスクラップアンドビルドでより生産性の高い業態にチェンジしていくという戦略である。
今回の取材の過程で代表の秋元氏からコメントをいただくことができた。
「テイクアウト・デリバリーの試みは『ノウハウをつくる』『ブランドの楽しみ方を増やす』という意味では大きい。少子高齢化が深まる未来に向けて、新しい飲食店のサービスになりつつあるからです」
【「オービカ モッツァレラバー」はモッツァレラチーズの食材を切り口にイタリアンをアピールしている】
同社の情報戦略とダイナミックな商品開発には、チャレンジマインドの企業文化が感じられる。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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