開業ノウハウ

飲食店独立開業者必見!資金計画の考え方/創業計画書記入時の注意点・ポイント

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本稿では、第2回に引き続き、日本政策金融公庫(以下、「公庫」と略します)から開業資金を借りる際に提出が求められる『創業計画書』について、洋風居酒屋を開業する場合の記入例(*以下、「記入例」と略します)を取り上げながら、記入時の注意点・ポイントを解説していきます。
 

 

▶ 4 取引先・取引関係等

この欄では、主な販売先や仕入先、外注先等の取引相手について記載します。
 
① 販売先
通常、飲食店であれば記入例と同様、「一般個人」となるはずです。同記入例では、回収・支払の条件について「即金」、つまり、顧客に現金で売上代金を支払ってもらうこと(“現金商売”)を想定した記述となっています。
 
しかしながら、クレジットカードに代表されるキャッシュレス決済が一般的になりつつある昨今、これらの手法で売上代金を回収していくのであれば、「何日に〆て、いつ口座に入金(回収)されるか」を明らかにしていく必要があります。このように、商品・サービスを提供(または消費)したその場で、代金の回収(または支払い)が済まないお金のやりとりを“掛取引”といいます。
 
② 仕入先
記入例では、「△△酒店㈱」「㈱☓☓食品」の2社が記載されています。取引先の名称・所在地については、その会社が実在するか否か、公庫担当者が調べられるよう正確に記入して下さい。なお、記入例では、取引先名の隣にカッコ書きで、「現勤務先の仕入先」と記載されています。これは、「私は、お酒や食材の仕入ルートをちゃんと確保していますよ!」というアピールでしょう。
 
2つの仕入先について、それぞれのシェアが「50%」と記載されています。これは、仮に、仕入代金を月額100万円(100%)とするならば、△△酒店㈱と㈱☓☓食品に50万円(50%)ずつの支払いになることを伝えています。いずれの仕入先とも掛取引100%であり、月末に〆て、その翌月末に支払う予定であることが読みとれるようになっています。
 
なお、商売は、資金ショートを回避する為、「売上の回収は極力早く、経費の支払いは極力遅く」するのが鉄則です。そのことをふまえて、仕入先と条件交渉するようにしましょう。
 
③ 外注費
飲食店の場合、あまり使用されない欄ではありますが、公庫の担当者と相談の上、継続的にUber Eats等でデリバリーをお願いするケースや広告宣伝を打っていく場合であって、かつ、ある程度大きな金額になるような場合は記載していきましょう。
 
④ 人件費の支払
従業員を雇う場合、給料の〆日と支払日を記載します。なお、〆日と支払日の間隔があまりにも短いと、給料計算の時間がとれず大変になってしまう点にご注意下さい。また、給料支払日については、月内において手元資金が最も厚いタイミングに設定するようにして下さい。これも、資金ショート回避の為の一つの工夫です。
 

▶ 5 従業員

法人の場合は、常勤役員の人数を記載します。社長1人だけでスタートするのであれば、「1人」として下さい。従業員数については、「※」マークの説明のとおり、3ヶ月以上継続雇用を予定している人数を記載して下さい。従業員数のうち、家族やパートさんがそれぞれ何名いるか、その内訳も正確に記載して下さい。この欄の情報は、開業時の人件費を見積もる上でとても重要です。
 

▶ 6 お借入の状況

マイカーローン等、借入に関するすべての情報を記載して下さい。
本稿の第1回で説明しましたが、金融機関が最も気にしていることは、「貸したお金が返ってくるかどうか」です。融資する相手の返済可能性を検討する上で、この欄の情報は極めて重要であり、嘘偽りを記載すると信用を失います。金融機関は、ビジネスとプライベートの分け目なく、あなたが貸したお金を返せる人か否かをチェックします。
 

▶ 7 必要な資金と調達方法

この欄は、左半分に開業にあたって必要な資金額とその内訳、右側に資金の調達方法を記載します。
 

 
① 必要な資金 (左半分)
必要な資金は、設備資金と運転資金に大別されます。設備資金とは、具体的には、土地・建物・機材等の購入資金、改装資金、賃貸物件入居の初期費用にかかる資金等です。記入例では、下記4項目が挙げられています。これらの金額は、「何となく、これぐらい…」という金額ではなく、見積書をとった上で正確に示していく必要があります。
 
・店舗内外装工事 500万円
・厨房機器 200万円
・什器・備品類 150万円
・保証金 120万円
(設備資金計 970万円)
 
一方、運転資金とは、「設備資金以外で必要な資金」と捉えて下さい。記入例では、下記2項目が挙げられています。もしも、開業時は赤字スタートで、黒字化するまでに一定の期間を要する見込みであれば、その間の赤字額分もこの運転資金の見積りに加算するようにして下さい。
 
・仕入 90万円
・広告費等諸経費支払 140万円
(運転資金計 230万円)
 
以上、記入例では、設備資金970万円+運転資金230万円の合計1,200万円が必要であることが示されています。第1回で、開業時の資金調達額は平均1,274万円(2022年度新規開業実態調査)であることをお伝えしましたが、あなたの場合はいくら必要でしょうか。
 
② 調達の方法 (右半分)
必要額を明らかにしたら、その金額をどのように調達するかを右半分で明確にしていきます。記入例では、下記内訳で必要額1,200万円を用意すると記載されています。
 
・自己資金 300万円
・父親 200万円 ※ 元金2万円×100回 (無利息)
・公庫 700万円 ※ 元金10万円×70回 (年◯.◯%)
(調達額計 1,200万円)
 
上記のうち、自己資金は「自分で用意したお金」のことです。公庫の新創業融資制度を活用してお金を借りるのであれば、自己資金は、創業資金総額の10分の1(10%)以上用意する必要があります。記入例の場合、自己資金300万円÷調達額計1,200万円=4分の1(25%)となる為、この条件をクリアしています。
 
2つ目の資金調達方法として、身内(親、兄弟、知人、友人等)からの借入れが創業計画書のフォーマットにも枠が用意されています。記入例では、父親から無利息で200万円借りること、毎月2万円ずつ返済していく旨が記載されています。
 
記入例の開業者は、自己資金300万円+父親からの借入200万円の計500万円を用意することができる訳ですが、必要額1,200万円には、あと700万円足りません。そこで、この700万円を公庫(日本政策金融公庫 国民生活事業)に融資して欲しいと打診しているのです。なお、記入例では、「元金10万円×70回(金利◯.◯%)」と融資の条件が記載されていますが、この部分については、実際には公庫との話し合いの中で決まることになります。
 
『創業計画書』(雛形)には、4つ目の調達方法として、「他の金融機関からの借入」欄も用意されています。融資希望額が大きくなると、公庫と民間金融機関による協調融資(第1回参照)となる場合もあり、その際には、この欄にも数字が入ることとなります。
 
以上、公庫の『創業計画書』(雛形)上の資金の調達方法を説明してきましたが、この中に、「補助金」や「クラウドファンディング」の枠は用意されていない点にご注意下さい。
 
補助金は、必要なお金を自分で一旦支払ってから交付の申請をする為、開業時の資金にアテ込むことはできません。補助金は、あくまでも“後払いのお金”であって、まずは、自分で必要資金を用立てる必要があります。
 
また、クラウドファンディングについては、「既に◯◯万円集めました!」というのであれば、自己資金の一部にみなしてもらえるかもしれませんが、「これからクラファンで◯◯万円集めます!」と言っても、金融機関側からすれば“本当に集められるか否か何の保証もないお金”という位置づけになってしまうでしょう。
 
なお、自己資金や親族から調達するお金については、単に計画書に金額を書くだけで認められるものではありません。公庫から銀行口座の通帳を提出するよう求められ、本当にその金額があるか否かを担当者が確認します。
 
以上、左半分(必要な資金)と右半分(調達の方法)で、同じ金額になるように空欄を埋めます。このような数字の計画を“資金計画”と呼びます。資金計画は、開業時だけでなく、ビジネスを続けていく上で必要に応じて都度作成していくものです。
 
次回(最終回)では、「8 事業の見通し(月平均)」以下を解説します。
 
◆経営コンサルタント(中小企業診断士・社会保険労務士)加藤健一郎

1975年生まれ、三重県四日市在住。大学卒業後、デパートの販売促進部に勤務。30歳で退社後、中小企業診断士・社会保険労務士の資格取得後、経営コンサルタントとしてのキャリアを積む。2012年、四日市に個人事務所 『さくら経営支援室』 を開設。中小企業の会社経営を財務・労務の両面からサポートしている。
 

 

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