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カオスであるが食と映像で独特の一体感を醸し出す“不夜城”が誕生

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第四十五弾
増殖続ける“浜倉ワールド”とは? 前編

 
浜倉好宣(はまくらよしのり)氏が率いる「浜倉的商店製作所」がプロデュースしている店のことはこの業界関係者であれば十分にご存じであろう。これらの店はずばり“派手”。赤い提灯を整然と並べ、ヘタウマな筆文字で店の看板や短冊にメニューを書き込んでいる。オープン初日にはチンドン屋が店頭から近隣を練り歩く。店内の客席が狭く、店の中を通る際にはお客同士がいやおうなしにぶつかる。お客はみな笑顔になり、声を大きくして会話する。
 
このような人間臭い“浜倉ワールド”が再び東京の中心に増殖している。2020年7月末、コロナ禍真っ盛りの中で「渋谷横丁」をオープン。19店舗、1200席という圧倒的な規模はカオスな組み合わせの中で独特の一体感を放った。コロナ禍はその後厳しいものとなりオープン当初のにぎわいは静かになったが、コロナ禍が落ち着いてきた今年の夏から出店を開始した。
 
浜倉的商店製作所代表の浜倉好宣氏。独特の髪型がトレードマーク【浜倉的商店製作所代表の浜倉好宣氏。独特の髪型がトレードマーク】
 
まず、8月1日新宿のアルタ隣りに「新宿 屋台苑」がオープン。角地の2階づくりでこぢんまりとしているが、新宿駅前の光景をがらりと変えた。10月20日渋谷マークシティ隣に「日韓食市」がオープン。地下1階から地上5階までの1棟を店名通りのコンセプトで固めた。
 
そして東京・新宿駅の東口、長く親しまれていたアサヒビアホールがしばらく工事にかかっていたが、ここに10月24日「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」が誕生した。路面にあるメインの入口は竜宮城のイメージ。ここに地上1・2階、地下1・2階で270坪、17店舗で構成され1000人を収容する。圧倒的な規模であるが、施設の構造や色使いも印象深い。確実に街のランドマークとなって行くことだろう。
 
この10月24日にオープンした「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」のエントランス【この10月24日にオープンした「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」のエントランス】
 

「遊び場」では収まらない“異空間”

「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」は規模もさることながら、新しい試みがあふれているのでここで詳しく紹介しよう。施設内は地上1・2階が5店舗で24時間営業、地下1・2階は12店舗で12時から朝8時までの20時間営業。ほとんど“不夜城”である。具体的に施設内を構成する17店舗個々の店名と業種はこうなっている。
 
■地上階 2階
・「ピザ&パスタ 赤煉瓦」:カジュアルイタリアン
・「中華食堂 羽衣楼」:ポップな中華食堂
・「Sol Bangla」:タイ屋台
■地上階 1階
・「台所 日ノ本」:日本全国食べ比べ
・「韓明洞」:カジュアル韓国流
 
地上1・2階の入り口は新宿駅東口から明治通り方面に続く道路に面して「龍乃木都飲食街」という看板を掲げている。名称通りに入口が竜宮城をかたどっていてよく目立つ。ここはランチ需要を取り込める場所であることから、ピザ&パスタ、中華食堂、タイ料理、日本大衆食堂、韓国大衆食堂と分かりやすいポピュラーな業種を集めて食事需要にも訴求している。
 
地下2階の構造は空想の国の屋台街のイメージで24時間営業【地下2階の構造は空想の国の屋台街のイメージで24時間営業】
 
地下も1・2階で構成されているが、地上階とは趣が異なる。
 
■地下階 1階
・「PUB TESUN」:ちょい飲みアイリッシュパブ
・「牛の肉宮(NIKUGU)」:牛づくし
・「魚街道」:魚介酒場
・「肴鮨(ATESUSHI)」:つまみと寿司
■地下階 2階
・「焼鳥・鳥づくし 炎上(CHARCOAL GRILL)」:焼鳥・鳥料理
・「金豚帝(Kintontei)」:豚料理
・「貝道(KAIDO)」:貝づくし
・「焼肉酒場 焼肉肉蔵(NIKUKURA)」:焼肉酒場
・「TEPPANDO鉄板堂(TEPPANNYAKI&MONJYA)」:鉄板焼き・もんじゃ
・「香港屋台小龍(SHORYU)」:香港ネオン屋台
・「博多 屋台屋(HAKATAYATAIYA)」:博多屋台で九州飯
・「VIP」:泡と飯と唄
 
地下階の店はそれぞれ専門性が高く、フードはお酒のおつまみ的なポジションになっている。店名に逐一ローマ字表記がなされているのはインバウンドを意識しているからだろう。実際に外国人客の多くは店の前で足を止めて、未知の世界の“浜倉ワールド”に躊躇しながらも吸い込まれて行く。
 
地上1、2階では“流し”が酔客の歌のお供を行っている【地上1、2階では“流し”が酔客の歌のお供を行っている】
 
ここで圧巻なのは地下1階から吹き抜けとなっている地下2階を見下ろす眺めだ。ネオン管でつくられた派手な看板が重なり合って天井部分を構成し、屋台が密集する地下2階のフロアと相まって夢の中に表れる空想の屋台市場を連想させる。
 
心臓の鼓動のようなBGMと共に大きなモニターでテンポよく変化していく画像によって気分が高揚する。ここに昼間居ても深夜居ても時間を忘れて同じようなハイテンションのままでいることができるだろう。地上階では“流し”が客席を回り酔客の歌のお供を務める。地下階にはDJブースがあり音響のアートが楽しめる。カオスな空間であるが食と画像と音によって独特の一体感を醸し出している。
 
店内のオブジェはつくり込みが細かく“異空間”のコンセプトが一貫している【店内のオブジェはつくり込みが細かく“異空間”のコンセプトが一貫している】
 
これらを“異空間”という言葉で表現することになるが、“浜倉ワールド”は異空間づくりに徹底している。浜倉氏はいかなる人物なのか後編で紹介しよう。
 
(後編)に続きます。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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