宮迫博之氏「牛宮城」のプロデュースと運営受託でガネーシャ(富山)が体得したこと
コロナ禍にあって飛躍した話 前編
タレントの宮迫博之氏が焼肉店「牛宮城」(GYUGUJO)を開業したことはよく知られている。焼肉店経営の計画を披露したのは昨年の8月であったが共同経営者となるべくユーチューバーのヒカル氏と決裂。しかし、宮迫氏の計画は着々と進み今年3月同店は東京・渋谷にオープンした。場所は渋谷の中でも人通りの多い井之頭通りに面したビルの5階。昨年まで何かと炎上する場面があった宮迫氏であるが、この焼肉店の話題は静かである。
「牛宮城」はいま予約がなかなか取れない繁盛店となっている。約90席ある店舗は17時オープンで1日2回転、席によっては3回転している。この静かに大繁盛している背景には同店をプロデュースして運営を受託している会社の手腕がある。ガネーシャ(本社/富山市、代表/本田大輝)という会社で、富山市内で営む焼肉店「大将軍」3店舗が同社を象徴する。
【「牛宮城」のプロデューサーでガネーシャ代表の本田大輝氏】
炎上しない「王道の焼肉店」
代表の本田氏は1987年5月生まれ。「大将軍」は現代表の本田氏の両親が立ち上げた店だが、本田氏が経営を引き継いでから多様な業態や高級バーガーの「SHOGUN BURGER」を展開するなど業容を拡大している。
本田氏が「牛宮城」のプロデュースを担当することになったきっかけは、昨年宮迫氏がヒカル氏との焼肉店経営の計画をリセットして「焼肉店をプロデュースしてくれる人を探します」と公表してからのこと。本田氏から「何かお役に立つことがあれば」と打診しましたところ、宮迫氏は富山の「大将軍」に食べに行き「おいしい」と絶賛した。
このころガネーシャでは渋谷に「SHOGUN BURGER」をオープンしたばかりで、この店舗は「牛宮城」の物件から30mも離れていない。宮迫氏はここのハンバーガーを食べてさらに感動。本田氏によると「宮迫さんは、このような当社との出会いに『運命を感じる』と言ってくださった」という。
本田氏はこう語る。
「宮迫さんには『炎上しやすい』というイメージがあるが、私は『炎上しない店をつくろう』と考えた。宮迫さんも『王道の焼肉店をやりたい』とおっしゃっていた。そして、コンセプトづくりにあたって私の知人のインフルエンサーやトレンドをつくっているたくさんの女性たちに話を聞くことから始めた」
こうして「渋谷にある『王道の焼肉店』が、渋谷にやってくる感度の高い女性から応援されて、このようなお客様がたくさん集まってくる店」というコンセプトを整えていった。オープンしてしばらくの間、焼肉のコースは1万円のものが一つ。すき焼きは5800円から。これで客単価は1万1000円ちょっと(9月上旬)。
【シュールなエントランスに対して、スタンダードな個室のギャップが楽しい】
オペレーションを慎重に育てる
焼肉のコースを一本にしたのは、コースのバリエーションをいきなり増やすとオペレーションが乱れるため。このように慎重にオペレーションを育てていった。現状は、コースよりも単品メニューをアピールするようになり月ごとに新作メニューを披露している。
【「牛宮城」の名物の一つ「宮迫ハラミ 牛宮城特製塩タレ」1枚1150円】
肉は黒毛和牛だけではなく交雑牛も使用。「交雑牛の場合、脂が軽いのでさっぱりとしていて、たくさん食べることができるし、メニューの価格を抑えることができる」(本田氏)。「牛宮城」の原価率(非公表)は、客単価1万1000円ちょっとというレベルにあって、筆者が体験したところ一般と比べてかなりかけているようだ。満足度は高い。いま予約が取りづらい状況になっているのはリピーターが増えているからであろう。
店のある5階に着いてエレベーターの扉が開くと、店のエントランスに牛の頭と高貴な老人の置物が置かれシュールである。従業員はてきぱきと丁寧にお客を誘導して、こだわりのある絵画を飾った個室に通す。スマイルを絶やさない接客は爽やかだ。エントランスで受けた印象とのギャップが楽しい。
【「牛宮城」のエントランス。シュールな記憶が「また行きたい」という思いを誘う】
ここの従業員は本田氏が社長を務めるガネーシャの社員。プロデューサーと従業員が一貫していることから“おもてなし”の考え方、表現の仕方も一貫している。同店の従業員は正社員8人、アルバイトは50人。アルバイトは宮迫氏の人脈によるもので、本業俳優がほとんど。そこで、店に入ってすぐに接客になじんでくれる人が多いという。
筆者が同店で食事をしたのは9月の第一週の平日17時。エレベーターで40代女性二人連れと乗り合わせた。彼女たちが「宮迫さんが……」という会話を盛んにしているので、筆者が「芸能関係の方々ですか?」と声をかけたところ、宮迫氏のファンで遅い夏休みを利用して札幌から「いま話題の宮迫さんの焼肉店を体験しにやってきた」という。本田氏が当初思い描いた通りの客層が来店しているようだ。
【「牛宮城」の名物の一つ「名物 極みタン塩」1人前3200円】
コロナ禍にあって本田氏とガネーシャが「牛宮城」で一つの繁盛の法則をつかんでいるが、実はこの間にたくさんのことが前向きに動いていた。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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