“ちょい飲み”もできるオールラウンドな業態に成長した「焼肉ライク」
コロナ禍で鍛えた企画力 後編
当初「焼肉ライク」が出店していた場所は、新橋、新宿、上野、赤坂といったビジネス街。しかしながら、コロナ禍が始まった頃これらの店は大きなダメージを受けた。お客からの認知度が低いという自覚もあった。そこで同社では「われわれの強みは何か」ということを徹底的に考えていった。そこで出てきたことは、焼肉店ならではの「換気」。そして無煙ロースターが1人1台という「個食」であった。
【無煙ロースターによって店内の空気が短時間で入れ替わっているというアピールは「焼肉ライク」が先駆けで、多くの焼肉チェーンではこれに追随した】
そこでアピールしたことは「約2分30秒で客席全体の空気が入れ替わる」ということ。1人1台の無煙ロースターが煙と臭いだけではなく、店内の空気を強力に吸い込んでいることを“安心・安全”につなげた。
そして最初の緊急事態宣言が解除された2020年5月26日の翌日から「今こそ‼ひとり焼肉」キャンペーンを展開。これは同チェーン1番人気の「牛タン&匠カルビ&ハラミセット」200g1480円(税抜、当時)を1280円で提供するというもの。ここには「ファンくる(ROI)調べ」として「緊急事態宣言解除後に行きたい外食の第1位に『焼肉』が選ばれた」ことを情報として付け加えた。
【当初「ひとり焼肉」と言い方はなるべく避けていたが「密」とは無関係ということで強調するようになった】
夜が駄目なら「朝焼肉」、アルコールも強化
コロナ禍が続き、自治体から時短営業が要請される。そこで考え出したのが「朝焼肉」500円(税、当時)。これは2020年8月1日から東京・新橋本店で販売開始したもの。新橋本店では朝7時からの営業にした。メニューは、バラカルビ100g・ご飯・わかめスープ・味付のりがついて、さらに生玉子かキムチが選べるというもの。新橋は夜勤明けの人が多く、早朝から行列ができた。後に10時~11時に「朝焼肉」を提供する店舗を増やした。
【「朝焼肉」では“がっつり”というイメージから脱して、朝食らしい“さっぱり”とした内容にした】
焼肉用代替肉の「NEXTカルビ」「NEXTハラミ」をラインアップ。これはネクストミーツ社が開発した大豆を用いた焼肉用代替肉を提供したもの。2020年10月23日から渋谷店で先行販売、その後、店舗別に販売をしていたが、12月14日に全店導入を開始した。有村氏は「代替肉は世界的な流れとして注目されていること。牛肉に代わる肉のカテゴリーに入るのではないか」と語る。ビーガンの人が来店する事例も散見された。これはメジャーなことではないが、食の多様性ということでは先験的なことである。
【焼肉業界の中で焼肉代替肉を提供するのは「焼肉カルビ」が先駆け、他の焼肉チェーンが追随した】
このタイミングで、11月23日から「松阪牛」50g500円(税別)を6万食販売。これがはじまりで黒毛和牛の販売は断続的に展開されている。
2021年に入り、フードだけではなくアルコールを伸ばす企画を打ち出すようになった。3月22日から31日まで「今こそ‼ビールだ!焼肉だ‼」をうたい、ドリンク(アルコール・ソフトドリンクとも)終日半額にした。この路線は、まん延防止等重点措置にある飲酒の人数制限や時間制限を意識して6月21日から一部店舗でレモンサワー・ハイボール「飲み放題60分550円(税込、以下同)11時~19時」を販売。10月1日~15日「おひとり様(ワンベロ)飲み放題550円」「お二人様(ツーベロ)1000」を販売。
「ジンギスカン」「すき焼」へと広げる
ひとりジンギスカン「スプリングラム」の企画が光った。この発想は「焼肉の利用動機を広げること」(有村氏)。「焼肉ライク」を立ち上げた当時から温めていたことで、ラムの試食は何度も行っていた。そこでオーストラリア産の羊肉が最もおいしいとされているスプリングラムを食べたところその食味に感動し、同社が独自に生のスプリングラムを仕入れるルートを開拓した。
【生のスプリングラムによるジンギスカンは今年で2回目、今後定例化していく模様】
第1弾は2021年5月11日~5月31日「スプリングラムジンギスカンセット」130g1480円(税込)で提供。北海道の家庭で常備品とされているベル食品「成吉思汗のたれ」を添えた。今年も第2弾として4月29日~6月15日開催。昨年と同様のメニューに加え、セットメニューのバリエーションを広げた。
2022年に入り4月4日~5月9日、上野店の1階を「すき焼ライク」として営業した。「焼肉ライク」のロースターにすっぽりとはまるひとり鍋を開発し「国産牛すき焼きセット」1280円、追加肉680円で販売した。この先は、前編で紹介したキャンペーンとなる。
【上野店で行われた「すき焼ライク」は大好評を博し「焼肉ライク」の可能性を広げた】
いまや「焼肉ライク」ではハッピーアワーや「カスタムメニュー」と称した50g単位の肉メニューをラインアップ。14時~18時はアルコールが全品半額のハッピーアワーも行っていて“ちょい飲み”の需要にも応えている。
【60分飲み放題企画はレモンサワーとハイボールのダブルサーバーがついた飲み放題専用シートに拡大していく】
このように見ると「焼肉ライク」はコロナ禍にあってそれを乗り越える力がオールラウンドに身に付いたと言える。根底にあるのは前編で紹介した“ワンデー・ワンアイデア”の習慣である。まさに「継続は力」である。
【「今こそ‼ビールだ!焼肉だ‼」が皮切りとなって、アルコール販売にも力を入れていくようになった】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第四十三弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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“ワンデー・ワンアイデア”の習慣で「焼肉ライク」が培った多様な武器
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