スリランカ人との交流から生まれたスパイスカレーの人気店へ
コロナ禍による新しい転換 後編
珈琲新鮮館では2月11日、東京・四谷にスリランカカレー専門店の「スパイスカレー食堂」をオープンした。このカレーは、小麦を一切使用せず、脂もほとんど使用していなく、また、ブラックペッパー、コリアンダー、カイエンペッパー、クミン、シナモン、ターメリック、クローブ、カルダモンなど現地のスパイスを数多く使用していることから、従来のカレーとは一線を画した特徴があり、またグルテンフリーであることからも目的来店の可能性が広がる。
【複数のソースや付け合わせが分けて盛られ、少しずつ混ぜながら食べていく。こちらは「ブラックチキンカレー」1200円(税込)。】
コメは香り高いタイ産のジャスミンライスを使用。ソースや付け合わせを分けて盛り付けていて、カレーが運ばれてくると従業員が食べ方を説明してくれるのだが、最初は1種類ずつを味わってみて、次に他のソースや付け合わせを混ぜてみて、最後にはソース、つけ合わせ、ライスを全て混ぜて食べる、という食べ方をする。混ぜ方によって、またテーブルの上に置かれた「香り高い追いスパイス」と「追い辛スパイス」をお好みで加えることによって、顧客は〝無限の味変″を楽しむことが出来る。
店舗は6.5坪で7席、1日100食限定で提供しているが、連日売切れの状態となっている。このような売り方をしている理由は、同店を開発した副社長の佐々木証氏によると「これ以上売ると、われわれが目指す営業スタイルが崩れて、クオリティが下がるから」という。
スリランカ人を採用して以来アイデアが膨らむ
同店が誕生したきっかけは2018年当時の「従業員不足」であった。外国人留学生を雇用していたが、彼らはみな優秀であったことから外国人の社員採用を検討するようになった。そして二人のスリランカ人を採用。この二人が優秀なことから、佐々木氏はスリランカ現地の家族を訪問するなどスリランカの人々との交流を深めた。
佐々木氏はスリランカ人の社員から、「スリランカに日本で働きたい人がたくさんいる。その願いをかなえることが出来ませんか」と相談を受けた。そこで「有料職業紹介事業」と「特定技能登録支援機関」のライセンスを取得すると、このような人たちのサポートができるのではと考えるようになった。
【新宿通りの四谷駅と地下鉄丸ノ内線・四谷三丁目駅のほぼ中間に位置する。】
このような態勢をつくり上げるためには、受入れ機関となる同社と送出し機関となるスリランカの側と契約を結ぶ必要があった。ここにスリランカ人の社員の緒里美那月(おりみなつき/日本名)氏がそのルートをつくる水先案内人となった。2020年2月、佐々木氏はスリランカを訪ねてその活動を行った。この時の現地での食体験がスパイスカレー食堂のヒントをもたらした。佐々木氏はこう語る。
「スリランカでは朝昼晩とカレーを食べます。すると日を経るごとに体が軽くなり、体の力がよみがえってきました。そこでスリランカカレーを日本で展開したいと考えるようになりました」
同社では外国人雇用のための有料職業紹介事業と特定技能登録支援機関のライセンスを3月に取得、5月から本格的に動き出すことになったがコロナ禍で停滞した。
スリランカ側では送出し機関のライセンスを取得し、同年9月首都コロンポ郊外のキリバスゴダにスパイスカレー食堂LABOと日本語学校「緒里美日本語学院」を開設した。
【水先案内人となったスリランカ人社員の緒里美那月氏(日本名/左)と料理長の羽牟雄樹氏。】
既存店のファンがSNSで好意的に投稿
スパイスカレー食堂の物件は同年11月新宿三丁目に近い四谷に確保した。商品の実験販売は新宿三丁目で展開している4店舗の1つを「緒里美カレー」という店名に変えて今年の1月より行った。商品は「スリランカプレート」1000円(税込)1品のみ。商品の内容は現在と同様である。
前編で紹介した通り、貝香屋は日商7万円を下回ることがない好調な売上を継続していたが、緒里美カレーは1日の客数が10人程度の日が続いた。しかしながら、スリランカプレートを食べ終えた顧客のことごとくが「絶対にはやる」と言葉を残してくれた。
【緒里美氏がキャラクターとなった「スパイスカレー食堂」のポスター。】
同店は目立った告知をすることなくオープンしたが、新宿三丁目の「もつ煮込み専門店 沼田」のファンが四谷で新業態をはじめたことを知り、来店して食事をしてはSNSで好意的な投稿をしてくれた。通りすがりの人の中で立ち止まって店頭を注視する人が散見される。同店の存在感は際立っているようだ。
このようにスパイスカレー食堂が好調であることから店舗展開を想定している。それは同時にスリランカで同社が運営する日本語学校で学ぶ若者たちにとって大きな励みとなることであろう。コロナ禍が明けると同社が目指した外国人雇用の事業が活発化することになる。
これら珈琲新鮮館の成功事例は、コロナ禍にあってもファイティングポーズを取り続けたことによって希望の糸がつながっていったものであろう。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第二十五弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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