“一人焼肉”「焼肉ライク」が挑戦した新規顧客開拓への工夫
コロナ禍の飲食業界で焼肉店は堅調 前編
コロナ禍にあって飲食業界は大きな負の影響を被っているが、焼肉店は堅調に推移している。それを裏付けるものとして、1月15日付けに『東京商工リサーチ』にこのような記事が掲載されていた。
――新型コロナ感染拡大で飲食業の苦境が広がるが、「焼肉店」の倒産が急減している。2020年の「焼肉店」の倒産は14件(前年比33.3%減、前年21件)で、過去10年間で最少を記録した。コロナ禍で三密回避が求められているが、焼肉店の排煙装置による換気や“一人焼肉”などがプラスに働いたようだ。
一般社団法人日本フードサービス協会の統計によると、2020年11月の焼肉店の売上高は前年同月比9.4%増と2カ月連続でプラスだった。対照的に、居酒屋は同41.2%減とマイナスが続く。――
この記事は、「焼肉店は客席全体の空気の入れ替えが短時間で可能だから」という話でまとめられている。
今、焼肉店が一様に好調な要因として、コロナ禍を超えるための「安心できる外食の環境」が重要なことであることは事実だ。そして、これらの中でも元気のよいチェーンを取材すると、さらに繁盛する要因を磨きと新しい取り組みに邁進しているが分かる。
「ひとり焼肉」で新しいマーケットを発掘する
「ひとり焼肉」をうたう「焼肉ライク」の1号店がオープンしたのは2018年8月29日、東京・新橋であった。この業態は、フードサービス業界に「アイデアの力」というものを改めて見せてくれた。同店を開発したのは株式会社ダイニングイノベーションで、代表の西山知義氏は2000年代の5~6年間で「牛角」を800店舗にした人物である。
【5月26日より始まった「今こそ‼ひとり焼肉」の第一弾、一番人気の「タン・カルビ・ハラミ」を通常価格の1480円(税抜、以下同)から200円引きで提供】
焼肉とは、これまでハレの日需要が色濃い業種であったが、それを客単価1350円というポピュラープライスに落とし込み、提供時間を3分以内に短縮化したことによって利便性が一段と増した。これまでの一般的な焼肉店で、ひとりで焼肉を食べるのとは趣が異なり、堂々と店に入ることができる。そこで、これまでひとりで焼肉店に行きたいと思いながら躊躇していた女性にその利用動機を開放した。
焼肉ライク事業は分社化されて2019年4月に株式会社焼肉ライク(本社/東京都港区、代表/有村壮央)が設立。現在同社がチェーン展開に邁進している。
1号店がオープンしてから早2年半近くとなる「焼肉ライク」は現在全国に50店舗(うちFC45店舗/2020年12月末現在)となっている。フードサービス業界はコロナ禍第三波によって大きな影響を被っているが、この間どのように営業に取り組んでいるであろうか。
【10月1日から11月30日まで全店舗で、ご飯・キムチ・スープがおかわり自由になる「メガ盛りパウンダーセットを提供】
時節を捉えたキャンペーンを続々と展開
「焼肉ライク」の営業状況は2020年の年初からじわりじわりと打撃を受けるようになり、出店場所での違いはあるが、特に4月、5月は前年同月比で60%となった。営業は要請に従い時間短縮営業を行った。
このように厳しい状況に置かれた背景の一つとして、代表の有村氏は「焼肉ライクそのものの認知度が低かった」と語る。この気づきがこれ以降の同社の行動に現れていく。
まず、「環境に配慮している」ということをアピール。従業員の検温と手洗いの徹底から、飛沫防止のためにアクリル板の仕切りを設定している等々、さまざま原則的な内容に加えて「客席全体の空気が2分30秒で入れ替わる」ことを随所で告知した。
そして、緊急事態宣言が解除された翌日の5月26日から「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンを展開した。
第一弾は一番人気の「タン・カルビ・ハラミ」を通常価格の1480円(税抜、以下同)から200円引きのキャンペーン。
次に、「コロナ太り」が気になる人に向けて、ご飯を外してたっぷりのチョレギサラダに変えて、これにミスジとハラミをセットにした「赤身肉とチョレギセット150g(キムチ、スープ付き)」1150円を8月10日から販売。さらに、「この商品を女性一人でも焼肉を楽しんでいただきたい」という趣旨で「WoMonday(ウーマンデー)」と称し毎週月曜日に1000円で提供し、現在も継続している。
9月15日から「学割ライク」を販売。これは「バラカルビセット100g&ちょいたしカレー」のメニューを「ご飯食べ放題」にして、通常価格710円のものを学生証提示によって500円で提供する。
【二度目の緊急事態宣言後に行なっている10時から11時までの新商品「朝焼肉セット」500円】
食べ放題としては、10月1日から11月30日まで全店舗で、ご飯・キムチ・スープがおかわり自由になる「メガ盛りパウンダーセット、無限ご飯キャンペーン」1540円を行った。パウンダーとはお肉が450gということだ(300ℊ1080円もある)。
11月23日より全店舗で「松阪牛50g」500円を6万食限定で発売。これは、コロナ禍で行き場を失った和牛を焼肉ライクで販売することによって、お客様には和牛のおいしさをお得に味わっていただいて、生産者応援につなげたいと考えて行ったものだ。
新しい客層と市場を発掘し続ける
さらに「フェイクミート」を導入。これは大豆や小麦、エンドウ豆などを主原料として作った肉の代替食品である。
10月23日から渋谷店で先行販売して、徐々に取り扱う店を増やしていき、12月14日から全店で提供している。これによって、これまで焼肉ライクを利用していなかったビーガンや、健康を意識している人が来店するようになった。
さて、1月7日より2回目となる緊急事態宣言が発出されて、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県エリアの飲食店では20時までの時短営業(酒類の提供は19時まで)を要請されている(その後、緊急事態宣言の府県は増えていった)。
【駅構内での出店事例も増えてきた。こちらは東急線溝の口駅の店で、一日中ウエーティングが途切れることがない】
これに対応して、焼肉ライクでは1月12日から朝の営業開始時間を11時から10時に1時間前倒しして、10時から11時までの新商品として「朝焼肉セット」500円の販売を一都三県の店で順次導入している。「朝焼肉」の内容は、バラカルビ100ℊ、ごはん(お替りサービス)、スープ、味海苔付きで、さらに生玉子かキムチを選ぶことができるというものだ。
コロナ禍における「焼肉ライク」は、時節を適格に捉えて新しい市場を発掘し続けている。これらを積み重ねていくことによって、より日常的な業態として定着していくことであろう。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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