精肉小売事業ブランドで「ひとり焼肉店」を出店したワン・ダイニング
大阪・焼肉店「コロナ禍の変」 後編
大阪に本拠を置き、九州と関東圏でテーブルバイキングを展開している株式会社ワン・ダイニング(全128店舗/10月1日現在)では、コロナ禍で約3週間休業。緊急時代宣言が開けた5月7日から、焼肉やしゃぶしゃぶメニューをキットした商品のテイクアウトを開始した。
また、本来の営業時間はディナータイムのみで会ったが、営業時間が20時までとなっていた段階で食べ放題のランチタイム営業、ランチタイムでの定食メニューの提供を行った。特に大阪では同社のメインブランド「ワンカルビ」の熱烈なファンが多く、営業再開は大いに歓迎され、これが同社に早期の業績回復をもたらした。
「お肉屋さんが経営」という強烈なストーリー性
ここで提供された定食メニューは、同社のグループ会社である精肉小売業のダイリキ株式会社が開発を進めていた「ひとり焼肉」のメニューをスライドしたものだった。ワン・ダイニングとダイリキは株式会社1&Dホールディングスの事業会社で、同社はダイリキを発祥として1965年に創業、家庭向けの焼肉用精肉の販売で地元の人々から愛されて成長してきた。
【近鉄大阪線、若江岩田駅のすぐ近くの高架下に出店】
二つの事業会社はワン・ダイニングが外食、ダイリキが精肉小売業ということで一線を画してきたが、ダイリキが焼肉店を営むことになり、「ひとり焼肉」に対応した定食メニューを開発することになった。
きっかけはスーパーマーケットのイズミヤ若江岩田店(東大阪市)が閉鎖することになったこと。同店の食品売り場にダイリキが出店していて、同店が地元のお客から長く重宝されていたこと、また長く勤務していた従業員がいたことから同じ若江岩田の街にダイリキを復活させたいと検討していた。
【「焼肉市場」では一部の商品で「ひとり焼肉の店で売っている」こともPOPでアピール】
その過程で、近鉄が若江岩田駅近くの高架下を商業施設として開発するという情報を得て、物件を獲得することができた。しかしながら、精肉小売店単独の営業では訴求力が弱いと考えたダイリキではワン・ダイニングに掛け合い、飲食店を併設することでストーリー性が充実した店舗の開発を進めた。それは「お肉屋さんが経営しているから、新鮮でおいしく、お値打ち感が高い」焼肉屋さんである。
こうして誕生したのが精肉小売店の「焼肉市場」と焼肉店「ひとり焼肉」を合体した店舗で9月15日にオープンした。
「ひとり焼肉」を営業することはダイリキにとって大きなメリットがあった。それはフードサービス業の「接客」のノウハウが身に付くこと。これによって、精肉小売業の接客が豊かなものになっていき、飲食業の展開も想定することが可能になること。また、これまでは量販店から出店のオファーがない限り、出店のチャンスがほとんどなかったものが、自社で開拓できることになるということだ。この接客の部分ではワン・ダイニングも協力した。
【ロースターは電気コンロで施設としての安全性が高い。水はセルフで行う。】
厨房の主力を精肉小売店が担う「ロスのない焼肉店」
コロナ禍に対応して安全・安心対策を徹底した業態をつくり上げた。まず、非接触式サーモマネージャーによるお客の検温実施、一人1台の無煙ロースター(電気コンロ使用)の換気システムで3分ごとに空気の入れ替え実施、大きなパーテーションで区切られたひとり空間、QRコードで読み込んだメニューでモバイルオーダー(対人のオーダーも可能)、セルフレジで支払い――という具合に、非接触の要素をふんだんに取り入れた。
肉のストックからカットに至るまで厨房機能のすべては併設する精肉店がまかなっている。要するにロスのない焼肉店である。
メニューは定食が12種類、単品では20種類。強く押し出しているのは「上ハラミ&ダイリキカルビ&牛タン定食」120ℊ880円、150g980円、200g1180円(税別)である。価格的には「カルビ定食」150g590円が最も目を引く。この他、ホルモンを加えたものなどでメニューのバラエティを組み立てている。
注目されるのは単品メニューが持つ可能性である。ホルモンが上ミノ380円、牛タン280円の他10品が198円、肉は和牛カルビ680円、和牛モモ580円、上ロース・上ハラミ480円、ダイリキカルビ380円となっていて、この組み合わせで好みの定食を組み立てられることに加えて、これらをつまみにアルコール(生ビール450円、ハイボール390円、レモンチューハイ390円)を楽しむことができる。
営業時間は11時~21時まで。日中は周辺住宅街の中高年や働く人々、夜の時間帯は若干年齢層が若くなるなど、地元の老若男女がしっかりとリピーターとなっている。
2号店はイトーヨーカドー八尾店の食品売場に、これと同じように「焼肉市場」と併設する形で出店することが決まっている。ダイリキとしてはこのパターンを崩さずに展開をしていく意向だ。
【お客が食事を終えた後にアルコール消毒を丁寧に行っている】
今回の前編でも焼肉の個食化のことを述べたが、「自分で食べたいように焼肉メニューを組み立てる」というニーズに応えることは、今後重要になっていくことのように思われる。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第二十弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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