「セレクトショップの飲食店」の仕組みはライセンスビジネスを活性化する
当店のメニューは他店の商品です 後編
国のお墨付きの有力商品をメニュー化する
前編に続き、「セレクトショップの飲食店」の事例を二つ紹介しよう。
まず、ハラール(イスラム教徒の戒律に基づくこと)がきっかけとなったもの。
筆者は2013年ごろから急増する兆しにあったインバウンドの取材を継続するようになり、2015年ごろからハラール対応の取材が増えていった。そこでラーメンで街おこしをしている栃木県佐野市のラーメン店でハラール対応を充実させていた「日光軒」の取材をした。
JR佐野駅がある両毛線の沿線では工場団地が多く、イスラム教国の従業員が多数存在し、「日光軒」では彼らに向けた商品開発をすること、また日本在住のムスリム(イスラム教徒のこと)にとって、ハラール対応ができていることは目的来店につながるものと確信して、ハラール対応のラーメンと餃子を開発した。するとにわかに知れ渡るようになり、ムスリムが遠方から電車を乗り継いでやってきたり、東京駅から佐野市内のイオンモールでの買い物と併せてやってくることも定番化するようになった。
特に、ハラール屠畜をした鶏肉とキャベツなどの野菜を餡にした餃子が話題になった。世界に向けて日本の「ふるさと名物」を紹介する経済産業省の補助事業のウェブサイト「NIPPON QUEST」の第1回アワード(2016年3月)で、「日光軒のハラール餃子」が食部門で出品された1600品の中でグランプリを受賞した。
このことがハラール対応を行う全国の飲食店から注目されるようになり、「日光軒のハラール餃子」を日光軒から仕入れて、この商品名でラインアップするようになった。この商品は日本在住のムスリムだけではなく、インバウンドにとっても目的来店にかなう存在となった。
ライセンスビジネスの活性化が見えてくる
次に、「から揚げ」によって「セレクトショップの飲食店」を提案している事例。
この世界のアワードでは日本唐揚協会主催の「からあげグランプリ」が存在し、から揚げを扱う飲食店ではここで金賞を受賞していることを誇りとしてブランディングに活用している。
東京・新小岩のからあげバル「ハイカラ」はその金賞受賞の常連で、2014年に初めて受賞して以来、2018年を除いて5回金賞を受賞している。その商品「ハイカラ名物 半身揚げ」880円(税別)は、その名の通り鶏の半身を揚げたもので、皮と肉が柔らかくふっくらとしてカレー粉の風味が食欲をそそる。この形状や味付けは「ハイカラ」の店主であり代表の大野太陽氏の故郷、新潟のソウルフードということだが、同店オリジナルの調理を施している。
大野氏はこの商品をブラッシュアップしているうちに、この商品を軸としたチェーン化構想をひらめいた。それは、「一つの店でたくさん販売する」ということではなく「たくさんの店に販売してもらう」という発想に基づいたもので、飲食店の展開にこだわらずに、半身揚げを弁当・惣菜のテークアウト専門店など販売チャネルを広くしていくということだ。現状、真空で冷凍する技術も出来上がっていることからネット上での販売も可能だ。
大野氏はこう語る。
「看板商品とは自社で開発しなければならないという呪縛が存在していました。だからパクリというものが横行したしたわけです。だったら、堂々と他店の人気商品をメニューにいいのですが、これまでの飲食業界ではこのようなことを恥ずかしくて言えなかった。『自分で売り物ができないから、他の店から売り物を持ってきているんじゃないか』というわけです。それを振り切って、セレクトショップとして腰を据えることによって、その存在が認められます」
この構想通りに「ハイカラ名物 半身揚げ」を商品化している店が徐々に増えてきている。
「セレクトショップの飲食店」の仕組みはライセンスビジネスに発展していく。それは、本部ががんじがらめに管理するのではなくライセンシーにとって自由度の高い世界である。本部が提供するものは、仕入れルート、レシピ、調理技術指導などだ。結果、店から商品開発をはじめ、仕込みという労働から解放される。これで従業員のスマイルが充実しお客さまが満足するというのならハッピーなことではないか。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第九弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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